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Vol.136 肺サーファクタントが、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する強い防御となるに違いない

医療ガバナンス学会 (2020年6月30日 06:00)


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千葉県がんセンター 医療局
髙野英行

2020年6月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

◆肺サーファクタントとの出会い
皆さん、肺サーファクタントを御存じでしょうか。私は、千葉県がんセンターで放射線科医をしておりますが、30年前より、埼玉小児医療センター、千葉大、アイオワ大学において、小児放射線を行っていましたので、新生児における肺サーファクタントが新生児呼吸窮迫症候群(RDS)に劇的に効くことを、毎日の新生児カンファレンスのX線写真から体験していました。その時、肺サーファクタントに関する等を数多く読みました。

◆新型コロナウイルスにおける肺サーファクタント欠乏
今回の新型コロナウイルス肺炎に関しては、放射線科医として、CTなどの画像を含めて、論文を読んでいると、肺2型細胞、ACE2などの言葉が、数多く出てきており、肺サーファクタントが減っているのではないかと思っていたところ、コロナウイルスにかかった英国のクイーンズ病院の  Sarfaraz Munshi医師が、コロナウイルス呼吸法を紹介しており、それを、ハリーポッターの作者、JKローリングさんも実践して、症状が軽減したという記事を見ました。そこで、そのyoutubeを見ると、肺の末梢が潰れない様に、陽圧をかけている呼吸法でした。
https://www.youtube.com/watch?v=HwLzAdriec0&feature=emb_title
これを見て、肺が無気肺になることが、急激な症状の悪化と関連しているだろう、それなら、肺サーファクタントが欠乏しているだろう、確信しました。

そこで、COVID-19、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)、肺サーファクタントの論文を読みまくりました。そうして、それらが、どういう関係になっているかを、考えるうちに、一つの仮説に行きついたのです。

◆肺サーファクタントが欠乏する理由の仮説は、
肺サーファクタントは、名前の通り、界面活性剤です。つまり、石鹸です。コロナウイルスを含めて、エンベロープウイルスは、石鹸に非常に弱いことは、知られています。
しかし、肺サーファクタントのレビューを見ても、肺のコンプライアンスを上げることがメインで、肺の原始免疫として、免疫細胞に対するオプソニン化(opsonization)に関する記述しか見当たりませんでした。オプソニン化と言っても、ウイルスの形状が変わる(壊れる)だと思うのです。

◆肺サーファクタントそのものがコロナウイルスを殺すという仮説
そこで、肺サーファクタントも界面活性剤だから、肺組織の中で、コロナウイルスを殺してしまうのではないかという仮説を立てました。
そうすると、肺サーファクタントがあると、従来のコロナウイルスは肺炎を起こすことは稀であることを説明できます。

◆肺サーファクタントを枯渇させることができるように変化した新型コロナウイルス
SARS、SARS-CoV-2は、肺炎を起こす。これは、新型コロナウイルスが、肺の2型細胞のACE2に着くことにより、肺サーファクタントの生成、分泌を抑えることができるようになったため、上気道にいるウイルスが、決死隊の様に、肺の2型細胞のACE2に着くことで、肺サーファクタントが枯渇し、後から落ちてくる新型コロナウイルスが、肺組織内で、生き残れるようになっているのではないか。
逆に言うと、強い防御者であるサーファクタントを枯渇されないと、生き残れないのではないか。
つまり、肺のサーファクタントを枯渇させる能力を手に入れたコロナウイルスが、新型コロナウイルスとして、肺内で生き残れる。

◆仮説の検証:中国のCOVID-19肺炎治療のマニュアル
臨床的には、肺サーファクタントを刺激する、アンブロキソールは、中国では、新型コロナウイルス対策マニュアルで、治療薬に含まれるようになっています。SARSの時を含めて、安価な去痰剤なので、使われて、臨床的な有用性を経験している様です。ブロモヘキシンは別のリセプターが注目され、臨床試験が行われ、有用性がありそうだと結論付けられています。

◆仮説の検証:慢性肺疾患が重症化しないパラドックス
また、今回の新型コロナウイルスでは、慢性肺疾患(COPD、喘息)において、重症化は少なく、一つのパラドックスになっていましたが、これも、上記の薬剤を服用していることも多いため、それで、重症化が少ない理由と思われます。

◆仮説の検証:アンブロキソールは急性上気道炎(風邪、つまりコロナウイルス感染など)を防ぐ
論文を書いた後に気づいたのですが、カルボシステイン(ムコダイン)もアンブロキソール(ムコソルバン)も、去痰剤としてよく処方されます。似たような薬と思っていましたが、アンブロキソールはサーファクタントを増やし、また、アンブロキソールの方が 上気道炎(つまり、ウイルスによる風邪) の予防効果があるという以下の論文もあります。サーファクタントが繊毛運動で、上気道にまで及んでエンベロープトウイルスを防御しているのかもしれません。つまり、
K Nobata 1, M Fujimura, Y Ishiura, S Myou, S Nakao Ambroxol for the Prevention of Acute Upper Respiratory Disease  Clinical and Experimental Medicine vol6, p79–83(2006) PMID: 16820995 DOI: 10.1007/s10238-006-0099-2
アンブロキソールがウイルス性上気道感染症に対しても効く可能性が高く、新型コロナウイルス感染症においても、同様と思われます。
ちなみに、カルボシステインは、痰の粘りを取り、喘息に有効との報告があります

◆仮説の検証:シクレソニド
また、シクレソニドには、サーファクタントとして、オレイン酸塩が含まれることもあると特許公開文章に書いてあります。

◆仮説の検証:ビタミンD欠乏
また、ビタミンD欠乏が、コロナウイルス肺炎のリスクファクターと報告されていますが、肺サーファクタントの生成に関連します。

そこで、この仮説を、多くの著名雑誌に投稿しましたが、仮説論文ということで、査読にも回らず、著明雑誌でなくても、載せることが大事だろうということで、最後に、Medical Hypotheses (ハゲタカジャーナルではなく、Elsevierの査読のある雑誌です。)に投稿し、アクセプトされましたので、ご紹介します。

Pulmonary surfactant itself must be a strong defender against SARS-CoV-2
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0306987720310732
2020年8月12日までは、無料公開されています。

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