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Vol.155 ハンガリー医学生 浜通りへ行く

医療ガバナンス学会 (2020年7月28日 06:00)


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ハンガリーセゲド大学 1年
加藤友輝仁

2020年7月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

筆者は仙台生まれ、東京育ち。幼い頃より父から「お前は東京の人間じゃない、東北の、会津の人間だ」と言われ、育てられてきた。父が尊敬する、私の曽祖父、加藤榮吉海軍大佐と長兄・養父にあたる加藤利吉は会津若松の生まれ育ちであるためだ。大学生の時に曽祖父の生き様を記した『殉国』( https://rnavi.ndl.go.jp/books/2009/04/000002725430.php )を読み、特に福島に関心を持つようになった。現在、ハンガリー国立セゲド大学医学部の1年生になる筆者だが、診療の傍、地域の方のために論文を執筆する医師像に憧れを持っている。そのため、坪倉正治先生・尾崎章彦先生が働かれている福島県浜通りに伺うこととなった。

●浜通り 栄枯盛衰の歴史

訪れたのは、福島県いわき市。常磐線の特急に約2時間乗れば到着する。常磐線の開通は、岩倉具視をはじめとする華族などが参加し、1881年に創立された私立鉄道会社「日本鉄道株式会社」に由来する。西南戦争への出費による財政の窮乏、九州からの石炭輸送の途断、東北地方への農地開拓の需要が華族たちの農地開拓を推し進めた。

他方、浜通りは農業開拓に向かない土地柄だったこともあり、炭田や鉱山に目をつけた浅野宗一郎や渋沢栄一といった財閥によって採掘事業が行われた。1884年に磐城炭礦会社設立され、東京から最も近い炭田として、常磐炭田は明治日本のエネルギー業界を支えた。浜通りの中でも農業、銅山、炭鉱といった基幹産業がなかった相双地区には、陸軍の飛行場が作られ、戦後は西武グループの創設者、堤康次郎によって塩田へと変わった。しかしエネルギー革命や技術革新による塩田の衰退によって、工業、観光業への転換を迫られることとなる。時を同じくして政府は、新たな電力需要に手を打つべく、新たな電源開発地を浜通り、会津地方に創設する。当初はダム建設による水力発電であったが、電力需要を満たせなかったことから、堤が保有していた塩田の放棄地に1971年、福島第一原発が建設され、1982年には4号機まで運転を開始している。このようにして浜通りは銅山から石炭、石炭から原子力へと時代の先端を担うエネルギー業界エリアとして君臨したのであった。

●多様な人々が集まる浜通り

2011年3月11日、未曾有の災害を引き起こした東北大震災は、浜通りに多様な人々の往来をもたらす結果となった。大阪市出身で、震災以降、県民に寄り添い、医療活動、健康問題に関する網羅的な調査を行い続け、本年、安藤忠雄文化財団賞を受賞した坪倉正治先生。福岡県出身で、研修医時代の東日本大震災をきっかけに東北で仕事をされるようになり、診療の傍ら、健康調査(主に癌)や製薬会社の利益相反について論文を書かれている尾崎章彦先生。静岡県生まれで、幼い頃から剣道をされており、東京大学で建築を学ばれていた際、いわきに頻繁に行かれるようになり、現在、常磐病院事務の副部長を務める杉山宗志さん。紙幅のため書ききれないほど、多くの様々なバックグラウンドを持った人々が浜通りに集まり、地元住民と一体となって地域を盛り上げている。筆者も曽祖父が生まれ育った福島に何かしらの形で関わりたいと考えている。

●「一山一家」の精神で出迎える地元の人々

見学させて頂いた、ときわ会グループには炭鉱の頃より根付く「一山一家」の精神が引き継がれている。介護施設が18、幼稚園1つ、保育園が2つと手厚く、従業員である医療関係者や地域の人が住みやすいような環境作りに励む。常磐病院は平成30年度の前立腺癌の退院患者数が638件と、全国で4位であり医療レベルでも勝負している。

また、至誠、質実剛健、自治進取な地元の方達が地域を支える。いわき人で高校の時にはバスケットボールで県内3位になられ、診療放射線技師である常磐病院事務部、部長の安藤茂樹さん。会津生まれで、高校時代に剣道の東北地区大会の個人戦で優勝されており、かなや幼稚園の園長をされている竹本恭太さんなどだ。「お世話になったからいわきで働くではなく、楽しかったからまた来たいと思わせる、魅力的な町にしていきたい」と地域の将来を見据え、医師確保に余念がない。かくいう私も、存分にいわきを楽しませて頂いた。

曽祖父が「武器なき追撃戦」によってB級戦犯として亡くなる最期の時まで貫いた至誠、その精神を育んだ福島という地。今この地には多様な人が集まり、患者さんや地域の住民の方の目線に立ち、診療と研究の両輪を回し医療を進めている。会津魂、磐城魂を受け継ぐ先輩たちに私も続きたい。

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