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Vol.175 スロバキアと新型コロナと私

医療ガバナンス学会 (2020年8月27日 06:00)


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コメニウス大学医学部6年
妹尾優希

2020年8月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

私は、東欧の国スロバキアの首都ブラチスラバにあるコメニウス大学の医学部に在籍しています。大学では、ドイツやポーランドを中心とした世界各国の学生と英語で医療を学んでいます。本稿では、スロバキアや大学での新型コロナウイルス感染症パンデミックの様子を綴った、私の日記を記載します。日記では、学生同士のオンラインでの会話や、大学とのメールでのやり取りを等身大で記載していますが、特定の人物、職業、地域の批判や差別する意図はありません。

スロバキアとはどんな国?
国土面積49,036 km2は北海道の約3/5、人口は約550万人、人口密度は全国で1平方キロメートルあたり114人、ブラチスラバで1,200人と人口と人口密度共に規模は、北海道と変わりません(北海道人口約530万人、人口密度66人/km2 札幌市人口密度1,720人/km2)。公用語はスロバキア語で、国民の8割がスラブ民族です。また、1993年まで同一の国であったチェコは国民の70%が特定の宗教を信仰しない無宗教であるのに対して、スロバキアの国民の6割がローマカトリックを信仰しています。

その他のスロバキアの特徴としてあげられるのは、資源が乏しい点です。EUの主要国が脱原発に向けて舵を切る中で、イタリアのEnel社やチェコのEPH社の投資もあり、新規原子炉の建設計画を着々と進めています。

また、1993年にチェコスロバキアからスロバキアへ独立して日が浅く、近年まで政治的に独立したことがないことも特徴です。1918年にオーストリア=ハンガリー帝国が第一次世界大戦に敗北し崩壊するまで、スロバキアはハプスブルク家の支配下にありました、第二次世界大戦中はナチスの支配下にあり、戦後冷戦期の1989年まではソビエト連邦支配下にありました。

米原万里著の『嘘つきアーニャの真っ赤な嘘』(角川学芸出版,2004年)では、共産党の幹部であった米原さんの父に連れられて、当時のソビエト連邦の支配下で社会主義体制にあった、チェコスロバキアの学校に通学していた体験が綴られています。作品では、様々な国から集まった共産党幹部の子どもたちの民族アイデンティティや、学校での様子が分かりやすく描かれているのですが、ドイツ人、ポーランド人、イラン人など様々な国出身の学生が在籍するコメニウス大学での学生生活で直面する民族間の問題と似ていると感じます。

前置きが長くなってしまいましたが、欧州の大国に囲まれている内陸の小国で、古くから様々な民族が移住し、支配してきた歴史をもつにも関わらず、どこか閉鎖的なスロバキアの2月から7月の新型コロナにまつわる様子を記録した日記を以下に掲載したいと思います。

2月21日(金):イランでの新型コロナ感染者数が日に日に増えて行くにつれて、イラン人へのヘイトが大学内で始まる。
イラン人学生が、妊婦と触れ合っている写真が大学内で大問題に。イラン人の学生へSNSで中傷メッセージが送られる。
スロバキアの雰囲気は平穏。スロバキアで新型コロナウイルスに感染する可能性については、話題にもならず。一部の学生(主にポーランド人学生)が騒いでいるのみ。

2月23日(日):大学からメールが来る。感染者が確認されている地域に14日以内に訪れた人は、14日過ぎるまで大学授業に参加しないで、自宅待機するように指示が出される。

2月24日(月):通常通り授業に7時半から出席した。

2月27日(木):授業に7時半に出席したが、学生は3人しかいなかった。内科の老人科の授業がキャンセルされ、8時には帰された。少しメッセンジャーでの周囲の学生の様子がおかしい、ピリピリしている。

2月28日(金):低学年のイラン人の学生が実習中に高熱と咳で倒れたそうだ。そのまま病院へ搬送。22日(土)にペルシアナイトという名のパーティーがあり、そこで集団感染した恐れがあり。クラスターがスロバキア内にできたそう。15人、大学病院に隔離されていると、感染症学の教授が同級生に話したそう。
大学からメールがあり、3月3日(火)まで大学は休みになったと連絡があった。それ以降は、まだわからないそう。

2月29日(日):スロバキアで初の感染者が確認されたと報道があった。イギリスに渡航歴のある52歳男性。

3月5日(木):大学が3月22日まで休講になると連絡があった。また、メールには、『大学側もこれ以上のことは決まっていないので、個別にメールしてこないこと』と書いてある。実習グループが同じ学生も、メッセンジャーで毎日ずっと、ああでもない、こうでもないと揉めている。ライム病を患っているポーランド人の学生が、私はもし感染したら死ぬ可能性があるから、イラン人は近寄らないでと騒ぎ立てている。

3月9日(月):スロバキア政府の指令で、スロバキア国内のすべての教育機関は3月29日までお休みになった。この『すべての教育機関』に大学も英語コースも入るのよね???大学からは連絡がなかった。

3月9日(月):精神科と皮膚科の教授に「国境が閉じて帰国できなくなる前に帰国したいので、早く試験を受けれませんか?」と直談判したら、試験を早く受けることができるようになった。ラッキー!

3月10日(火):小児科の教授にも交渉したら、課題レポートの提出という条件付きで試験を受けれることとなった。オーストリアとスロバキア間の国境がもうすぐに閉じるらしい…

3月13日(金):小児科のテストを受けた。ほとんどの学生がスロバキアから自国に帰国していった。オーストリアとスロバキア間の国境が閉じた。スロバキア国籍もしくはビザを持っている人しかスロバキアに入国できなくなったらしい。また、国境付近まで車で行き、国境は歩いて渡る他ないとのこと。サウンドオブミュージックの世界観だ。

3月18日(水):産婦人科の課題を終わらせて、試験を受けた。

3月25日(日):18 日に接触した産婦人科病棟で、院内感染が確認された。12時ごろ、知らない番号から電話がかかってきて何かと思ったら、感染症対策本部からだった。私も14日間、自宅にいなくてはらない。スロバキアの医療体制だったら、感染した場合、若くても死ぬんじゃないかな…。と不安になる。いくら考えても仕方ないので、とりあえずTesco online(大手スーパーの宅配サービス)で充分な食料を買った。

3月26日(木):27日オーストリア発、28日日本着の便を最後に、日本とオーストリア間の直行便がなくなると日本人の知り合いから聞く。本当かどうか、旅行会社に勤める友人に調べてもらったら、JALもANAも28日本着の便を最後に、すべてキャンセルされているという。「その後の便はいつ再開するか全くわからないよ。ところで君はどうするの?」と聞かれ、25日に電話で自宅要請をしなくてはいけないことを伝えた。珍しく落ち込んでいる私をみて、フラットメイトでポーランド人のアダムと、アダムの彼女のマグダが、スロバキアにしばらく一緒にいてくれると話してくれた。
私のことはいいから、国境が閉じる前に家族に会いに帰りなよ…。というと、
アダムは「別にYukiのためじゃなくて、家族がいないところでマグダと一緒にいたいからだよ。それにYukiと一緒に過ごしているから、俺らも帰国できないし」と言ってくれた。一緒にいてくれるだけではなく、気まで遣わせてしまった。
結構落ち込んでいたので、アダムが一緒にいてくれることに安心した。

その後しばらくして、コメニウス大学から正式に7月までの夏学期に実施されるはずであった、授業、実習、試験、国家試験をすべてオンラインで行うと連絡がありました。テーブルトークRPGのように教授と対話式に架空の患者さんの問診の練習をしたり、課題レポートを書いて実習を終えました。また、試験も無事オンラインですべて済ませて、6月26日にすべての試験を終え、7月頭に日本に帰国しました。

帰国後と今後の予定

帰国してからは、医療ガバナンス研究所の上昌広先生のもとで、インターン生として修行しております。主に、医学論文の書き方をご指導いただいており、帰国直後にレターを投稿することができました。残念ながらこちらのレターは、受理されませんでしたが、引き続き修行を重ねて邁進してまいりたいと思います。

また、9月より福島県いわき市の常磐病院、南相馬市立総合病院、福島県立医科大学にて外科実習を受ける予定です。これは、スロバキアで留学生の病院実習が困難となってしまったことを受けまして、福島県いわき市常磐病院の乳腺腫瘍科の尾崎章彦先生のお取り計らいと、南相馬市立総合病院の及川友好先生、福島県立医科大学の竹之下誠一先生のご厚意により、新型コロナウイルスが猛威をふるう困難な時期にもかかわらず、実習の受け入れをしていただけることとなりました。

最後に、尾崎章彦先生、及川友好先生、竹之下誠一先生を始めとする、私の日本での実習受け入れにご協力いただいた皆様に、本当に心より感謝申し上げます!充実した実習にすることができるよう、一つでも多くのことが学べるよう準備をして臨みたいと思います。

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