医療ガバナンス学会 (2020年8月31日 06:00)
わだ内科クリニック
和田眞紀夫
2020年8月31日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
このあいだ検査会社の人が来訪して、いっぱい検査をしていただいてありがとうございますとお礼を言って帰られました。要するにものすごく大きな利益を生んでいるのです。どうしてそのような事になっているのか。それには必ず国に何らかの思惑があるはずです。地方衛生研での検査能力を増やす代わりに民間業者に肩代わりさせようと決めたのです。そのためにPCR検査機器をいっぱい購入して検査のための人員も増やしてもらう必要があり、まとまったお金が入るようにして検査の拡充を誘導したのです。
医療の値段を国が決めているのは「世界広し」といえども日本ぐらいでしょう。日本の場合、医療は完全に国の管理下に置かれており、すなわち日本は医療統制国家なのです。例えば赤字の病院のやりくりが大変苦しいのもそのためです。民間企業のような大胆な打開策が取れないのです。医療費を盾にそれを上げたり下げたりすることで医療機関を思惑通りに誘導させるというのは厚労省の常とう手段です。電子カルテを普及させるために特別な保険点数を設定して、ある程度普及したとたん梯子を外すように廃止しました。
少し話が脱線したので話をPCR検査に戻しましょう。実際PCRはどのぐらいの費用でできるか実態調査をして、保健点数を決めなおそう、もっと安くしよう、そうすればいっぱい検査ができるという議論が高まっています。にもかかわらずそうしないのは国がPCR検査を増やしたくないからだ、という疑いがかけられています。PCRはお金がかかる検査で多くの人に検査したら莫大な費用の財源を消費してしまう、というけれどその値段を決めたのは国自身なのです。
ちなみに検査会社が診療所に請求する検査料は国が決めた保険点数から逆算して7割とか8割に設定するのが一般的で、実際のコストから算出するものではありません。検査代というのは診療所には1~2割しか入らないのです。また、検体採取用の容器と検体運搬用の3重容器の費用は診療所の持ち出しとなっています。それで自費診療(患者さんが全額負担)でPCR検査を行っている診療所は、検査費用を1~2万円上乗せして診療所の収入を増やしているのです。なお、診療所で実施した行政検査としてのPCR検査では、今のところは地方自治体からの助成があって患者さんは無料になるものの初診料等は別途かかりますし、渡航のための証明を得るための自由診療の場合は書類代が料金の中に含まれます。
東京や大阪でITを使ったPCR検査の結果入力システム、ハーシスの導入が進まずに国は頭を悩ましています。それで仕方なくハーシスを導入しない医療機関では公費負担を外すぞという脅しともとれる通達を出しているのですが、それもひょっとしたら何か裏があるかもしれません。公費負担を外されて困るのは一般市民であって医療機関ではありません。やはり検査を増やしたくないからなのではないでしょうか。検査料が高かったらみんな検査を受けたがりません。これらの問題はもっといろんな角度から考察する必要がありそうです。