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Vol. 187 IDATENパブコメ(4)

医療ガバナンス学会 (2010年6月1日 07:00)


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日本で中止を検討すべきワクチン
輸入ワクチンの早期認可を

日本感染症教育研究会(IDATEN)
上山伸也 河北総合病院小児科
竹下望 国立国際医療研究センター病院 国際疾病センター

2010年6月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


【日本で中止を検討すべきワクチン】

一昨年に米国より20年以上遅れてHibワクチンが,今年になってようやく肺炎球菌ワクチンが接種開始された.日本では承認すべきワクチンの議論が昨年度の新型インフルエンザの流行を契機に,盛んに議論されるようになった。
しかしロタウイルスワクチンや不活化ポリオワクチンの導入もいまだ目処がついていない.日本以外の国では当然のように行われている予防接種を,日本でも行えるようにするのはもちろん大事だが,一方で,日本以外の国では中止されつつある予防接種があることは,実はあまり知られていない.BCGである.結核非流行国では,実はハイリスク群に対してしかBCGは接種されていない.今日本でBCGが必要なのかどうか,その必要性を考える際のポイントはBCGの有効性と結核罹患率の2つにある.

BCGの有効性
BCGで何が,どの程度予防できるのか,については意外に知られていない. BCG接種によって,肺結核については50%程度,小児の粟粒結核と結核性髄膜炎については80%程度の予防効果があるとされているが、いずれも論文の質に問題があり,確固たるエビデンスがあるわけではない.Hibワクチンや肺炎球菌ワクチンのように,ほぼ確実に予防できる,という予防接種ではない.
またワクチン接種前に(結核菌以外も含む)抗酸菌に暴露されていると,BCGの効果は低下するといわれている。新生児は抗酸菌への暴露がないため,年齢層の高い集団よりもBCGの効果が高く、結核の流行地域よりも結核の非流行地域の方がBCGの効果が高い.したがってBCGを接種するのであれば,抗酸菌に暴露される前,すなわち新生児期がよい.

結核罹患率
WHOではBCGを摂取するべきかどうかは,その地域の結核罹患率で決定するべきとコメントを出している.具体的には以下の3つを満たす場合には,ルーチンのBCG接種は不要とされる.
・毎年の喀痰塗抹陽性肺結核の平均罹患率(人口10万対)が5以下
・毎年の5歳以下の小児結核性髄膜炎の平均罹患率(人口1000万人)が1以下
・毎年の平均結核罹患率が0.1%以下

米国ではBCG接種がルーチンに行われていないが,これは罹患率が低いためである.米国ではむしろ結核のコントロールのために,結核の発見と潜在性結核の治療に重きが置かれる(予防接種だけで予防接種を議論してはいけない).BCGを行っているとツベルクリン反応によって結核に感染しているかどうかの判断が難しくなるため,むしろBCGを行わないことで,結核の診断をシンプルにしよう,という戦略である.
英国でも2005年までハイリスク群の13歳と新生児にBCG接種が行われていたが,結核の発症率が減少したため,中止された.つまり,結核の発症率が低ければ,ルーチンのBCG接種は不要,というのが,現在の世界の予防接種の流れです.

米国と英国の結核の罹患率は2007年度でそれぞれ4.3,13.9,日本のそれは19.8であり,上記のWHOの基準からすると,ルーチンのBCG接種は不要ということになります.また喀痰塗抹陽性肺結核患者は年々減少しており,2008年度は7.7でした.このように年々低下している結核の罹患率を考慮すると,日本でもルーチンでのBCG接種をそろそろ見直す時期に来ていると思われます.具体的には日本は中等度蔓延国のため,結核への暴露のリスクが高い小児のみ,BCG接種を行う,というのが現実的な対応と思われます.具体的に何を持ってハイリスク群と考えて,どのような小児に選択的にBCGを行うべきかは,以下の米国の2つの基準が参考になるでしょう.
・肺結核が無治療あるいはまだ十分に治療されていない患者と継続的に接触し,かつ予防治療ができない場合
・イソニアジドとリファンピシンに耐性の肺結核患者と継続的に接触する場合

注:Mycobaceria属は結核菌群と非結核性抗酸菌(非定型)の2つに分類され、結核菌はMycobaceria属の結核菌群に属しています.結核菌以外のMycobaceriaは環境中に存在しています。

文責 上山伸也 河北総合病院小児科

<参考>
1. Wilson ME, Fineberg HV, Colditz GA. Geographic latitude and the efficacy of bacillus Calmette-Guerin vaccine. Clin Infect Dis 1995;20:982-91.
2. Black GF, Weir RE, Floyd S, et al. BCG-induced increase in interferon-gamma response to mycobacterial antigens and efficacy of BCG vaccination in Malawi and the UK: two randomised controlled studies. Lancet 2002;359:1393-401.
3. Colditz GA, Brewer TF, Berkey CS, et al. Efficacy of BCG vaccine in the prevention of tuberculosis. Meta-analysis of the published literature. JAMA 1994;271:698-702.
4. Rodrigues LC, Diwan VK, Wheeler JG. Protective effect of BCG against tuberculous meningitis and miliary tuberculosis: a meta-analysis. Int J Epidemiol 1993;22:1154-8.
5. WHO Weekly epidemiological Record 23 January 2004; 79: 27.http://www.who.int/wer
6. 厚生労働省. 平成20年度結核登録者情報調査年報集計結果(概況). http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou03/08.html

【輸入ワクチンの早期認可を】

現在、国内で生産されていないが、国際的に普及しているワクチンの国内での使用が、一般の医療機関で行うことができる方策が望まれる。そのためには、輸入ワクチンの認可が行われることが最も望ましい。輸入ワクチンでも、黄熱ワクチン、アクトヒブ、プレブナー、インフルエンザワクチン(H1N1)、サーバリックスはすでに承認されており、特に黄熱ワクチン以外は2008年以降に順次販売となっている。最近2年で輸入ワクチンの承認が進んでいるものの、さらなる承認が期待される。

■輸入ワクチンの必要性
多くのワクチンは安定供給や安全性の観点から国内での生産が行われている。そのため、諸外国で新たに開発されたもの(新規ワクチン)、国際環境の変化で需要が変化したもの(既存のワクチン)について、国民のニーズに十分にこたえることができていない。このような場合、もちろん安全性の確認は重要であるが、諸外国とくに欧米で安全性の評価がされているワクチン、つまり輸入ワクチンを弾力的に活用することで、国民のニーズにこたえることが可能ではないかと考えられる。その際には、ワクチンの承認について、すでに欧米の基準で安全性の評価が行われていることから、特別な考慮を行って、早期に承認できることが望ましい。

■新規ワクチン
国内で承認されているワクチンで代用できるものがないワクチンとして、腸チフスワクチン、髄膜炎菌ワクチン、経口コレラワクチンなどがあげられるが、特にインドを中心とした南アジアで頻度が高い腸チフスと西アフリカを中心に頻度が高い髄膜炎菌性髄膜炎に対するワクチンの必要性は高い。いずれも、企業活動の注目を集めている地域であり、日本では欧米と比較して、疾患に対する自国民保護が万全ではない状態である。腸チフスや髄膜炎菌感染症は国内ではいずれも散見される程度であり、国内で新規開発やワクチンの疫学的効果の実証は困難ではあるが、輸入ワクチンはすでに国際的な評価が確立されている。また、日本人に対する血清学的な効果と安全性については、すでに厚生労働科学研究費補助金 新興・再興感染症事業 海外渡航者に対する予防接種のあり方に関する研究(平成17~19年度)において、日本人を対象にした抗体価上昇の確認と安全性の評価で特に問題がなかったとされている。

■既存のワクチン
国内では、すでに認可されているワクチンがあるが、1)供給量が十分ではないもの、2)ワクチンの種類が異なるものがある。
1)供給量が十分ではないもの:狂犬病ワクチンは2006年に2例の輸入症例が出現後、ワクチンの認知度が上昇した。その影響で、これまで以上に渡航者の中で接種が浸透してきたが、現在渡航者の希望にかなう十分な供給がされていない。対策の一つは、ワクチンの生産量を増やすことであるが、簡単ではないようである。もうひとつの方法は輸入ワクチンで供給量の調節を行うことであるが、国内で生産されているものの不足補うことは、インフルエンザワクチン(H1N1)の際にも行われている。

また、黄熱ワクチンも接種場所の制限を含めた供給体制の問題がある。英国などでは、接種資格者を講習会に参加することで認定しており、日本でも同様に接種医療機関を拡充する必要性がある。
2)ワクチンの種類が異なるもの:ポリオはWHOが根絶計画を実施しており、多くの先進国は経口生ワクチンから不活化ワクチンに変更している。また、破傷風・ジフテリア混合ワクチンも国内でも認可されているが、成人と小児で使用料が十分ではないことが指摘されており、諸外国で使用されている成人用のワクチンが望まれている。

以上のように、輸入ワクチンは現在の国内において医療現場で必要とされているワクチンを、諸外国での使用された実績と安全性を参考に使用できる可能性が非常に高いものが多いと考えられます。

文責 竹下望 国立国際医療研究センター病院 国際疾病センター

<参考>
1. 国立感染症研究所 感染症情報センターホームページ  http://idsc.nih.go.jp/idwr/pdf-back18.html
2. Basnyat B, Pokhrel G, Cohen Y. The Japanese need travel vaccinations. J Travel Med. 2000 Jan;7(1):37.
3. 渡邊浩, 宮城啓. 邦人における腸チフスワクチンの有効性および有害事象に関する臨床的検討. 厚生労働科学研究費補助金 新興・再興感染症事業 海外渡航者に対する予防接種のあり方に関する研究 報告書(平成17~19年度)
4. 中野貴司. 髄膜炎菌ワクチンの有効性・安全性に関する研究. 厚生労働科学研究費補助金 新興・再興感染症事業 海外渡航者に対する予防接種のあり方に関する研究 報告書(平成17~19年度)

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