最新記事一覧

Vol.191 コロナPCR検査体制を整えなかった日本だけインフルエンザの検査ができない

医療ガバナンス学会 (2020年9月29日 06:00)


■ 関連タグ

わだ内科クリニック
和田眞紀夫

2020年9月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

鼻咽頭からの検体採取は検者のそばで被検者が咳き込んだりして検者を感染させるリスクが高いので、いわゆる防護服(PPE: Personal Protective Equipment)を着用しなければ検査は行えない。コロナ感染が始まった当初、諸外国では多くの医療関係者が感染し、中には命を落とすものもいたことは記憶に新しい。

鼻咽頭からのコロナPCR検査体制を整えるということ、潤沢に防護服を用意して被検者との遮蔽空間と陰圧装置を備える、このような体制を全国に広く整備していかなければならない。

日本を除く世界の国々ではこのような整備がすでに整っているので、来るインフルエンザシーズンにおいてもすぐに検査を実施することができるが、残念ながら世界の中でも日本だけがPCR検査を絞り、このような検査体制を構築してこなかったので、インフルエンザの検査ができないという非常事態に置かれている。

この問題は検査方法がPCRであっても抗原検査であっても変わりはなく、採取方法自体に起因している。したがってPCRに代えて抗原検査を採用したところで問題の解決にはならない。幸いコロナに関しては唾液のPCR検査が行えるようになって診療所での検査が可能になったが、逆にインフルエンザの検査は鼻咽頭採取のみのままなので、コロナの感染リスク回避のために無防備に検査をするわけにはいかない。

インフルエンザの流行を目前にして当然この問題に対する議論が行われていてしかるべきと思われるが、いまのところ何の情報も伝わってこない。予想される厚労省の方針は、「被検者との遮蔽空間と陰圧装置は急には準備できないから、一般の診療所でも防護服だけで対応するように」というものになりそうで非常に危惧される。「(ほかの患者さんとの)動線を分ける」などの指示を合わせて出していかにも万全な対策を講じているかのように見せても、それは検者の感染リスク軽減に対しては何の解決策にもならない。

諸外国並みの設備を作るべきだがそれができないのならせめて潤沢な防護服の供給がなされるべきだが、医療卸メーカーに問い合わせてみてもいまだに防護服は入手困難だ。すなわち防護服が足りないと言われ始めた3-4月の頃から6か月が経過した現在でも、防護服の増産指示は出されないままに放置されているのである。厚労省は感染症指定病院のことしか考えておらず防護服は十分足りていると考えていたのかもしれない。

そもそも厚労省の中では「もうコロナは大した感染症ではない」という雰囲気があるのかもしれない。コロナに関しては感染症法の2類から5類への鞍替え案がでているが、コロナを5類にするといろいろな義務がなくなり「厚労省はこの感染症を放置するようになるかもしれない」と危惧されている。2類だからこそ最低限のことをしているけれども、5類にしたとたんに何もしなくなる恐れがある。

今からでも遅くはないので、新政府の主導のもとにコロナPCR検査体制の拡充を早急に進めてほしい(防護服の増産指示・配布、診療所でも使えるような被検者との簡易遮蔽装置の作成・普及、できれば陰圧装置までの準備、このような体制を全国に広く整備すること)。

幸い現在のところ今年のインフルエンザの流行は低調で、全国的にも罹患者はごくわずかなようだが、インフルエンザの流行の大きさは隔年で繰り返す傾向があり、昨シーズンほとんどインフルエンザが抑えられていたことからすると今年は流行年にあたる。やっと10月1日からインフルエンザワクチンの接種も開始される見通しで一安心ではあるが、コロナの影響で発熱患者の診療を見合わせている診療所も依然多い。今年に限っては38℃以上の高熱と咳、鼻水、咽頭痛などの上気道症状を伴う患者さんに対しては、インフルエンザの検査をせずにタミフルなどの抗インフルエンザ薬を早めに投与する方針をとってもいいのではなかろうか。検査体制ばかりでなく治療を含めた総括的なコロナ・インフルエンザ治療指針の早急な作成が望まれる。

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ