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Vol. 194 IDATENパブコメ(6)

医療ガバナンス学会 (2010年6月5日 15:00)


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ワクチン接種における副作用の扱いの問題
ワクチン同時接種が行われていない現状とその改善について

日本感染症教育研究会(IDATEN)
上原由紀 順天堂大学医学部 感染制御科学/総合診療科
土井朝子 洛和会音羽病院 感染症科

2010年6月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


【ワクチン接種における副作用の扱いの問題】

<はじめに>
世界保健機関(WHO)は、予防接種は最も成功し対費用効果も高い公衆衛生上の介入であると考えており、各種ワクチンに関する定期接種の積極推奨の指針を示している。世界各国による指針達成が全世界的な感染症制圧のために必要であるが、残念ながら日本は主要先進国の中でも達成度が低いとされている。達成を阻む原因の一つとして、ワクチン接種に起因する副作用対策の問題がある。

<医薬品としてのワクチンの特殊性>
予防接種に用いられるワクチンは、ある感染症にかかったことが無い人に対して「予防」を目的として用いられる医薬品であり、「治療」に用いられる他の医薬品とは使用目的が異なる。よって、同列に副作用対策を論じるのは適当ではない。「予防目的で使用した医薬品で副作用が生じる」ことは個々人にとっては納得しがたい事象であると考えられ、ワクチン接種の普及にあたっては国民の不安や抵抗感を取り除く必要がある。そのためには、副作用に関して科学的かつ理解しやすい形での情報開示がなされること、また副作用に対する十分な被害救済制度を整備することが望まれる。

<日本における二つの健康被害(副作用)救済制度>
本邦において予防接種は二群に分類されており、予防接種法に基づく定期予防接種と、法に基づかない任意予防接種がある。このように国民の健康増進目的で使用される予防接種を分類し、WHOが推奨する予防接種までも任意接種として被接種者にその必要性を判断させるという仕組みは、国際的にも極めて稀である。
また、副作用の救済についても二群で扱いが異なっている。定期予防接種による健康被害(副作用)は予防接種法に基づいて厚生労働大臣が認定するため、国が補償していることになる。一方、任意予防接種による健康被害は独立行政法人医薬品医療機器総合機構法に基づいて救済されるが、財源の多くは国でなく、医薬品製造企業からの拠出金でまかなわれている。
予防接種を二種類に分類し、副作用救済制度にも差を付けることはデメリットが大きい。前述のように、接種を受ける国民は常にワクチンの副作用に対する不安を持っており、「任意接種=国が定期接種にしていない=危険、不要」と受け取られる。決して安いとは言えない金銭的負担も任意接種の普及を阻む大きな障壁の一つである。また、医薬品製造企業の立場からは、せっかく有用なワクチンを製造しても「他の医薬品と同様に、副作用の責任は自分で取りなさい」と言われては、多人数に広く用いられるワクチンの積極的普及に二の足を踏むことになるであろう。

<副作用に対する国としての方針を明確に>
ワクチンで予防可能な疾患に予防接種をしていなかったばかりに罹患し、重篤な後遺症を残したりあるいは不幸にも死亡したりする人がいる一方、一定の確率で起きる副作用で苦しむ人もいる。予防接種のメリットとデメリットを吟味した上で、定期接種と任意接種に分類して副作用救済に差を付けたりすることなどせず、「予防接種は国として責任を負った公衆衛生施策である」という姿勢を明確に示すことが、今後不可欠であると考えられる。

文責 上原 由紀 順天堂大学医学部 感染制御科学/総合診療科

<参考>
1. World Health Organization: An introduction to the Global Immunization Vision and Strategy. 2009 http://whqlibdoc.who.int/hq/2008/WHO_IVB_08.13_eng.pdf
2. World Health Organization: WHO recommendations for routine immunization. 2009 http://www.who.int/immunization/policy/immunization_tables/en/index.html
3. Centers for Disease Control and Prevention: Vaccine safety and adverse event. http://www.cdc.gov/vaccines/vac-gen/safety/default.htm
4. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構:医薬品副作用被害救済制度の仕組み. http://www.pmda.go.jp/kenkouhigai/help/structure.html
5. 多屋馨子. 予防接種健康被害救済制度・予防接種後副反応・健康状況調査. 小児科診療. 2009; 12: 2241-50.
6. 齋藤昭彦. 海外の予防接種. 小児科診療. 2009; 12: 2265-71.

【ワクチン同時接種が行われていない現状とその改善について】

複数のワクチンを1回の受診時に接種する同時接種は導入されるべきである。以下にその根拠を述べる。
現在の日本では、定期予防接種については、「2種類以上の予防接種を同時に、同一の接種対象者に対して行う同時接種(混合ワクチンを使用する場合を除く)は、医師が特に必要と認めた場合に行うことができる」と定められている(1)。しかし、「定期接種と任意接種の同時接種」、「任意接種と任意接種の同時接種」についての積極的な推奨はない。不活化ワクチンである新型インフルエンザワクチン接種でも、季節性インフルエンザワクチンとの同時接種は「医師が認めた場合に接種が可能」であった(2)。このために、国民は同時接種に躊躇し、自治体や医師も同時接種ができないことが問題となっている。

次に海外の状況について述べる。諸外国で同時接種は普通に行われている医療行為である。IPV、MMR、varicella、DTaPにおいて、異なる機会に接種した場合と同時接種した場合のseroconversionの割合を観察した研究で結果は類似したものであった(3)。従って、データは限られているとしながらも、CDCやAAPは、多数のワクチンの同時接種は、安全性と有効性に関して同時接種により損なわれるものでなく、またその方が特に子供の接種率が向上するため、積極的に推奨している(4,5)。ただし、同じシリンジに吸引して接種するのは、承認されたワクチン(例えば、DTaP、MMR)を除いては認められておらず、別々の部位に少なくとも2.5cm離して接種するべきであるとしている。逆に言うと、局所反応を見分けるためにはそれだけで可能である。

同時接種を推奨していない現状の問題点としては、子供の接種率が低下すること、保護者(母親)が仕事を休む機会が増えること、成人の海外渡航前の複数のワクチン接種においても仕事を休む機会が増え、接種率が低下する。結果的にこれらのことにより社会的な損失が生じていることが挙げられる。

考えられる反論としては副作用の問題がある。このほとんどは局所反応であるが、既に存在するTDaPやMMRなどの複合ワクチンではどの成分が局所反応の原因となっているかは分からない。製品間の反応の有無は上記のような接種方法によりクリアされるだろう。

結論として、日本でも同時接種を積極的に認める推奨を出すべきであると考える。

文責 土井朝子 洛和会音羽病院 感染症科

<参考文献>
1. 定期の予防接種の実施要領:H20年3月21日、健発第0321008 2. http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/inful_vaccine_qa.html#110
3. King GE, Hadler SC: Simultaneous administration of childhood vaccine: an important public health policy that is sale and efficacious. Pediatr Infect Dis J 1994; 13:394-407. 4. American Academy of Pediatrics : Active immunization. In: Pickering LK et al, ed. Red Book: 2006 Report of the Committee on Infectious Diseases. 27th edn, Elk Grove Village, IL: American Academy of Pediatrics; 2006:9-54. 5: Centers for Disease Control and Prevention General recommendations on immunization: recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP). MMWR Recomm Rep. 2009; in press

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