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Vol. 195 医療事故の調査などに関する日本救急医学会の提案(案)の意味

医療ガバナンス学会 (2010年6月6日 07:00)


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■■ 医療事故の調査などに関する日本救急医学会の提案 ■■(上)

一般社団法人 日本救急医学会
代表理事 杉本 壽
診療行為関連死の死因究明等の在り方検討特別委員会
委員長  有賀 徹

2010年6月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


いわゆる『医療崩壊』が叫ばれて久しくなります。特に救急医療については先行き不透明ななかで『悪戦苦闘』が続いている状況にあります。日本救急医学会ではこうした現状に鑑みて、様々な検討・活動をしてきました。
言うまでもなく、救急医療は救急医学の専門医だけで成り立つものではありません。心筋梗塞、脳卒中、怪我などを含めた急性期医療の提供体制について、例えば「救急及び災害医療対策基本法医療」の提案やその他多くの発信をしてきました。それらについては日本救急医学会のHPをぜひ参照ください。

このようにして必死に難局を乗り越えようとしている一方で、実はその救急診療のプロセスに関連して、我々の足が掬われる懸念が生じています。
日本救急医学会における診療関連死に関連した議論はそれについての重要な意味を持ちます。前述の先行き不透明な状況が『前門の虎』であるなら、こちらは『後門の狼』とも言えます。前述の『医療崩壊』的な状況が、もしも一定の水準に落ち着くことができたとしても、診療関連死に関連した議論が、安易であやうい着地を求めるならば、現場は荒廃し、恐らく取り返しがつかないものへと落ちて行くだろうと予想されます。

ということで、我々は正に厳しい戦いを強いられています。医療従事者はもちろん、国民にとってこの課題への理解を大いに深め、共に考えていただければと思います。

「医療事故の調査などに関する日本救急医学会の提案(案)」の発表は、昨年11月ですから、その後約半年を経たところです。該当の法律については、この提案(案)に沿ってぜひとも早急に、と思う次第です。ここに広くお読みいただきたく思います。

■■ 医療事故の調査などに関する日本救急医学会の提案 ■■
<<編集部より;長文のため2回に分けて配信します>>

はじめに

今を遡る10年ほど前から、わが国の医学教育については、大幅な改革が進められてきた。そこでは、医学部の学生教育のみならず、卒後の若手医師への教育にも様々な新しい取り組みがなされている。卒後初期臨床研修制度の必修化もこの一環と捉えることができる。
それらの改革の内容は多岐に渡るが、従前に比べて、国民のニーズによって明らかに重要性が高まった分野が、救急医学ならびに救急医療に関する教育であることは周知の事実である。言い換えると他の分野に比して、日本救急医学会に所属する我々救急医の、救急医学・救急医療に関する教育を行なわねばならない立場並びに社会的な位置付けが極めて重くなっていると言うことができる。

そのような状況において、我々の日常における行動理念ないし行動規範とは、医学的、倫理的に正しいことを自律的に行うことであり、それが教育ないし診療の実践を貫く基本的な考えとなっている。それは、また広く『ひとを思いやる心』と言うこともできる。
医療事故に対しても、そのような理念・規範をもって、一貫性のある真摯な態度、行動を取るべきことは当然である。従って、そのような我々の現場は事実の隠蔽や歪曲といった事象とは全く無縁のはずである。敢えて説明する必要もなかろうが、隠蔽や歪曲を否定することは勿論のこと、至誠を貫くことそのものが、医学、医療を教育し、実践する上でその根本をなす。

本学会は医療事故の調査などにおいて、まずは院内での調査を先行させることを提案する。これは、言わば院内調査先行主義の方法論である。
これに対して、万が一にも事実の隠蔽や歪曲といった疑念を差し挟む考えがあるようなら、それは、医学的、倫理的に正しいことを自律的に行おうという理念・規範について、及びそれらを基に展開する救急医学、救急医療に関する教育・救急診療の実際について、著しく理解が不足しているものと言わざるを得ない。
このことについては、末尾に記載のある「解説~日本救急医学会による提案の意義など~」に詳しい。

以下に有害事象の発生から、その後に引き続く諸々の作業について順を追って説明する。

1.有害事象の発生から院内事故調査委員会までなどについての提案
(http://www.jaam.jp/html/info/2009/info-20091119.htm#flow01a)

1)有害事象(と思われる事象を含む)の発生時において
まずは、(1)患者の救命処置を行う。引き続き、(2)患者の家族らへの連絡を行うとともに、(3)所属長、部門リスクマネージャー(RM)、医療安全管理室長(ジェネラルリスクマネージャー,GRM)へ報告をする。(3)は可及的に速やかにこれを行うべきである。

2)医療安全管理室における事例検討
医療安全管理室においては、(1)当事者からの報告・情報を収集し、(2)病院長に報告する。そして収集された情報などから、(3)『重大』な事象であるかどうかの判断を院長・医療安全管理室長が下す。

それにより、a)重大事象と判断する場合には、以下3)へ進む。b)重大事象と判断しない場合には、主治医・家族関係をそのまま維持しながら治療の続行を指示する。
この時点において、またはその後に時間を経てからも(例えば、長期的な療養の目的で病院を転じた後であっても)患者・家族らから疑義を正したいなど、求めがあれば重大事象と判断して以下3)へ進む。

3)重大事象であると判断をした場合
ここで、(1)院内事故調査委員会を招集する。院内事故調査委員会については、個々の病院がそれぞれ固有の名称を冠している場合が多いと思われ、例えば、定例で開かれる医療安全管理・対策委員会を臨時で招集する方法もある。

加えて、病院規模が小さい場合には、地域の中核病院、大学病院などからの人的支援についてあらかじめ計画していることが望ましい。また、該当事案に造詣の深い専門家を外部委員として招聘することもあり得る。加えて、診療記録は開示請求などと様々に取り扱われることがあり得るので、委員会にはあらかじめ診療情報管理士(旧診療録管理士)を参加させておくことも一考に値しよう。いずれにせよ、ここでは院内事故調査委員会の名称をそのまま用いて説明を続ける。

院内事故調査委員会においては、(2)当事者からの報告などを元に検討・調査を行う。ここには、医学的に時間的な推移はどのようか、何が起こったのか、有害事象の原因についてはどのようか、現状における医学的な対策はどのようか、そして今後の見通しなど、医学的な観点からの議論がまず重要である。

引き続いて、患者・家族への説明が事前にどのようになされていたか、同じく事後にどのように説明されているか、患者・家族の理解などについてどのようか、今後における見通しなどについて主治医ら関係者らから説明がなされることとなろう。

以上の事柄については、事前から事後に至るまでの記載が診療録にどのようになされているかも確認する。

院内事故調査委員会での決定に従って、医療機能評価機構への報告、行政(衛生部門など)への報告、病院管理者(理事長など)への報告・公表(マスメディアなど)についても、あらかじめ決められたルールに従って医療安全管理室からこれらを行う。

ただし、病院長、医療安全管理室長らの判断で死亡診断書・死体検案書の記載が可能と判断するなら警察への届出は原則として不要である(特に、死亡事故となった場合については、2.以下を参照されたい)。

(3)患者・家族へ上記の医学的な状況を中心に丁寧な説明を行う。この時に、主治医に加えて、所属長、医療安全管理室長などがともに説明に当たる場合もある。これらの説明などもまた診療録に遅滞なく記載する。

上記の一連の事象については、(4)議事録を作成し、定例的に行われる(5)医療安全管理・対策委員会(定例)へ報告する。

4)医療安全管理・対策委員会の開催(定例)
定例の医療安全管理・対策委員会においては、(1)再発防止策の検討、(2)その院内への周知・徹底について議論される。それらについて、(3)議事録に記載する。

(続く)

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