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Vol. 196 医療事故の調査などに関する日本救急医学会の提案(案)の意味

医療ガバナンス学会 (2010年6月6日 15:00)


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■■ 医療事故の調査などに関する日本救急医学会の提案 ■■(下)

一般社団法人 日本救急医学会
代表理事 杉本 壽
診療行為関連死の死因究明等の在り方検討特別委員会
委員長  有賀 徹

2010年6月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


2.特に、死亡事故となった場合に関する提案
(http://www.jaam.jp/html/info/2009/info-20091119.htm#flow02a)

1)死亡診断書・死体検案書の記載が可能であるか否かについて判断する
主治医ないし医療安全管理室長が「記載できる」と判断することができれば、2)以下へと展開する。この場合に病理解剖を勧めることが医学的に正しい方法である。「記載が可能でない」と判断した場合には、警察へ届出る。ただし、この場合においても2)院内事故調査委員会を招集し、検討を進める必要がある。なお、ここでも病院規模が小さい場合には、地域の中核病院などから人的支援を得ることが望ましい。

2)院内事故調査委員会を招集する
ここで行われる院内事故調査委員会は1.-3)と基本的に同じものである。当事者からの報告などを元に検討・調査を行う。この際に(1)直接的な利害関係のない専門家による『個別的専門調査』とすることが求められる。

ここでは、まず医学的に時間的な推移はどのようか、何が起こったのか、有害事象の原因についてはどのようか、医学的に何がなされたのかなどの、医学的な観点からの調査と検討が行われる。

引き続いて、(2)患者・家族への説明が事前にどのようになされていたか、同じく事後にどのように説明されたか、患者・家族の理解などについてどのようか、今後における見通しなどについて主治医ら関係者らから説明がなされる。

以上の事柄については、事前から事後に至るまでの記載が診療録にどのようになされているかも確認する。

院内事故調査委員会では、医療機能評価機構への報告、行政(衛生部門など)への報告、病院管理者(理事長など)への報告・公表(マスメディアなど)について、あらかじめ決められたルールに従って医療安全管理室からこれらを行う。

3)遺族への説明・協議
当然のことながら、(1)丁寧な説明を心がけ、場合により、(2)メディエーターなどの活用もあってよい。引き続いて、可能であれば、(3)病理解剖、モデル事業の提案など、剖検について遺族に働きかける。
診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業(以下、モデル事業)や監察医制度などは、それが布かれている地域もあれば、そうでない地域もある。また、地域の中核的な病院に大学勤務の解剖医が出向いて剖検を行ったり、地域の大学病院間で輪番制を組んだりするなど、地域それぞれに剖検を得るための様々な工夫が知られている。
いずれの方法であれ、剖検についての遺族への働きかけは、すべて医療者と患者・家族が協働して医療に当たってきた、その延長上にあることを認識せねばならない。

4)報告書について
報告書の作成は、原則的に(1)WHOガイドラインに則る
(http://www.jaam.jp/html/info/2009/pdf/who_reporting_guidelines.pdf)。

また、(2)刑事裁判・民事裁判の証拠資料としないことについては、明文化するなど今後に検討せねばならない重要な事項である。(3)必要に応じて、再発防止策の検討、それの周知・徹底の方法などに言及する。

5)医療安全管理・対策委員会の開催(定例)
定例の医療安全管理・対策委員会においては、(1)再発防止策の検討、(2)その院内への周知・徹底について議論される。それらについて、(3)議事録に記載する。

3.遺族ないし医療者に不服・異議のある場合の提案
(http://www.jaam.jp/html/info/2009/info-20091119.htm#flow03a)

不服・意義とは、1.3)(3)、2.3)、2.4)のいずれかに対するものを指す

1)地域事故調査センター(地域医療支援センター内に設置、各県に1箇所、今後に検討)における調査ここでは、(1)一般的専門調査(第三者評価)であり、医療専門家のみで構成されることが重要である。そして、(2)原因究明にとって最善の手続きを確保することが肝要であるから、ここでも原則的にWHOガイドラインに則って行うことが重要である。

2)報告書の作成
原則的に(1)WHOガイドラインに準ずる。非医療者が読む場合を想定して医学用語の解説を付けるなどの工夫もあってよい。
また、(2)刑事裁判・民事裁判の証拠資料としないことについては、明文化するなど今後に検討の余地がある。(3)必要に応じて、再発防止策の検討、それの周知・徹底の方法などに言及する。

4. 更に、遺族ないし医療者に不服・異議がある場合の提案
(http://www.jaam.jp/html/info/2009/info-20091119.htm#flow03a)

3.2)報告書に不服・異議がある場合を指す

1)不服審査機関(中央センター、全国8箇所(高等裁判所のある8箇所)設置、今後に検討)における調査ここでは、(1)外部委員として医療専門家以外(裁判官経験のある弁護士など)も入る。(2)原因究明にとって最善の手続きを確保するには、原則的にWHOガイドラインに従って調査を行う。

2)報告書の作成
原則的に(1)WHOガイドラインに準ずる。非医療者が読む場合を想定して医学用語の解説を付けるなどの工夫もあってよい。
また、(2)刑事裁判・民事裁判の証拠資料としないことについては、明文化するなど今後に検討の余地がある。(3)必要に応じて、再発防止策の検討、それの周知・徹底の方法などに言及する。

《解説~日本救急医学会による提案の意義など~》
1)基本となる理念について
我々は、日常的に携わる診療について標準化されたプロセスに沿ってしばしば行われていることを心得ている。しかし、診療の過程が一般的にその通りでも、患者、家族の感性や心の動きなど、言わば『個別性』は決して小さいものではなく、その意味で患者・家族と医療者との関係は極めて重要であり、その故に両者のパートナーシップ、協働が問われることも周知である。そして、万が一に有害事象が生じた状況においては、この両者の関係が通常の診療に劣らず、否それ以上に大きな意義を持つ。このことは、一般的な医療に比べて、はるかに短い時間的条件の中でこの関係を構築せねばならない、救急医療に携わる我々にとって、正に日々実感するところでもある。

さて、そのような状況にあって、有害事象が生じる、ないしそれが患者の死亡に至るなどあれば、我々は患者、家族との協働の医療を展開してきた、その延長線上に患者、家族への説明責任を果たすことが求められるはずである。それは、それまでも医学的、かつ倫理的に正しいことを行ってきた、その延長上に起こったことであるから、やはりそのように行うということに他ならない。従って、冒頭に述べたように、当事者主義にて事故調査を開始し、説明を行なうべきという方針となる。医療者の自律とはそもそもそのようなものであり、洋の東西を問わず『ひとを思いやる』我々医療者の心からも、まずはそのように行動することが求められる。

2)具体的な作業
上記の立場で医療事故の調査などに関する諸々の作業について、まずは院内で開始することになる。患者の死亡と言う極端な事例でなくとも、いわゆるグレーゾーンに入る事例は決して少なくない。そこで、【1.有害事象の発生から院内事故調査委員会の開催まで】と【2.死亡事故となった場合】とを区分けして作業の道のりを提案した。前者は、病院医療の患者安全などについて管理をする立場からもしばしば有用な作業である。

患者、家族にとっても、また医療者にとっても、納得の水準に至らなければ、その後は院外に作業過程を移すことになる(3.、4.)が、それでも医療に携わる専門家としての自律的な作業が主軸になる。いずれにせよ、我々の提案は説明責任を果たし、信頼と納得の得られる医療の実践であるから、その意味で民事・刑事訴訟など社会的なルールとは一線を画している。

しかし、医療の歴史を紐解けば、また今後ともそれを発展させていかねばならないことに鑑みれば、現在においてもそもそも医療とは本質的に不確実であることを理解することができる。該当事案においても、そのような不確実性が含まれていることはあり得る。しかも、そのような可能性の方が大きいといっても過言でないかもしれない。つまり、具体的な作業としてフローチャート1以下にて解説を進めてはいるものの、これに沿えば全てが説明できるというものではなく、謙虚に不確実性を認めねばならない場合もあろう。医療の進歩が説明できる範囲を増加させていることは確かであろうが、それでも全てにわたって説明できるなどは今後ともあり得ない。このような不確実性があるなら、そのことについても患者・家族にきちっと説明する必要がある。

3)本提案の範疇に含まれない事例、および異状死体について
上記の民事、刑事の係争に関連して若干の混乱が懸念されるので、ここで本提案の範疇に含まれない事例などについて確認しておきたい。それは、ここで提案されているフローチャート1以下の対象事案は、診療行為関連死以外のもともと犯罪性のある、つまり故意に傷害や殺人を生じたものは除かれているということである。そのような事例について我々救急医は稀ならず遭遇するが、そのような場合には単に異状死体としてそのまま警察に届け出ている。

そこで、そのような故意によるなどではなく、フローチャート1で説明したグレーゾーンに入るもの、その極端な事例として死亡に至ったものについてが、ここでの提案の対象となり、それらがフローチャート1以下の提案である。手術による合併症が予想されていて、それによる死亡についても、そのまま異状死体として届出の対象とすべきであるという極端な主張までもがあって、それらが我々救急医を含む斯界に大いなる混迷をもたらしたことは周知である。届出に言及する医師法21条について、本提案では別紙に改正の骨子などをまとめてある。医師法21条の解釈において、先の極端な考え方などが入り込む隙をなくす、きちっとした形にしたいという趣旨と理解されたい。
別紙:http://www.jaam.jp/html/info/2009/files/info-20091119.doc

以上により、フローチャート2における警察への届出については、別紙2「1.届出範囲」の(2)に則る。当該医療事故が、故意または故意に近い悪質な診療行為による死亡である可能性など、様々な議論はあるが、それについては別紙2「解説」(1)~(4)を参照されたい。繰り返しになるが、基本的に医療行為の中には『故意による犯罪』が含まれているはずがない。従って、医療者には事故調査委員会の報告内容を遺族に丁寧に説明することこそが求められるのであって、その後に、民事、刑事などの係争がどのように展開するか、またはしないかについてこの時点においては医療者として全く関与するところではない。

4)まとめ
我々は医学的、倫理的に正しい医療を自律的に行っている。そして、それらを基に救急医学、救急医療の教育、診療の実践に当たっている。この方法こそが患者、家族らから信頼と納得の得られる医療そのものである。
以上の記述により、我々の提案とその意義について充分に理解することができるものと考える。『医療者の自律』と行政その他に左右されない『医療の独立』(世界医師会ソウル宣言、2008年10月)とはこのようにしてこそ具現化されるものと強く思う次第である。

一般社団法人日本救急医学会 代表理事 杉本  壽
診療行為関連死の死因究明等の在り方検討特別委員会
委員長 有賀 徹  副委員長 鈴木幸一郎  副委員長 堤 晴彦  委員 明石勝也 石松伸一 奥寺 敬 島崎修次 杉本 壽野口 宏
木ノ元総合法律事務所 弁護士 木ノ元直樹  後藤・太田・立岡法律事務所 弁護士 中村勝己  森山経営法律事務所 弁護士 森山 満  シリウス総合法律事務所 弁護士 横山真司

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