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Vol.228 行政検査という盾の弊害を考える

医療ガバナンス学会 (2020年11月9日 06:00)


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伊沢二郎

2020年11月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

「今さら何言ってるの」
10月29日のコロナ分科会で、7月の感染拡大は東京の所謂「夜の街」の感染が増えた事による、と報じられた。対策として相談を受け、検査を行う拠点を設けると言うが、何を今さら言っている。そんな事、とっくの昔に東京大学先端科学技術研究センター:児玉龍彦名誉教授がその当時、この点を指摘しエピセンター化する前に対策する必要性を言っている。この時、感染者が出たら後追いでクラスター対策するのでなく、事前にその界隈を人的・地理的にもっと拡大して検査をしていたら歌舞伎町のように大きな問題にはならなかった、のではないのか。その後東京含め関東から地方への感染伝播に大きく影響したと云う事だろう。結果論のタラレバを言ってるのではない、想像力とリスク管理の問題だ、と言いたい。日本の感染症対策トップリーダーが、大流行の兆しが窺える今頃になってこれから対策する、と言い出すとは。

集中的にPCR検査を行い、エピセンター潰しが成功したと云える事例がある。
新型コロナ院内感染、日本初と思われる和歌山県済生会有田病院は、地域医療に当たる民間病院だが仁坂県知事指揮の下、厚労省の方針に抗い、大阪府の応援を得てまでも徹底的にPCR検査を実施し院内感染を押さえ込み、地域への拡がりをも抑制した。
その頃、「PCR検査数を抑えている事が、日本がこう云う状態で踏みとどまっている」と意味不明を言ってしまう御仁が、クラスター班の責任者であり(現在もそのようだ)その中、仁坂県知事の下やり抜いたPCR検査数は千数百件に昇り、異例の多さと記憶している。
コロナの抑制には桁違いの検査が前提は明らかだ。

PCR検査を拡充すべしの意見は他にもあった。曾て安倍総理との対談で京都大学:山中伸弥教授は、今に云う省庁の縦割りを解消すれば、一日30万件のPCR検査が出来る意味合いを示唆した。前後に、国公立の大学病院からも協力する意思表示もあったが、これを反故にしたのは何処の誰だ、政治家サイドの反対では無いようだ。

前述の児玉龍彦教授指導の下、保坂展人世田谷区長が計画を進めようとする「世田谷モデル」は、感染するとリスクが高い高齢者と従事するエッセンシャルワーカー、23,000人が属す高齢者施設を初めに進める計画です。これを行う上で集中的に一日1,000件のPCR検査を行うと云うその手段は、一度に多くをこなせるPCR検査プール方式だが、厚労省はこれを認めず、保坂展人区長によると計画が暗礁に乗り上げている、と云う。
厚労省が認めようが認めまいが、中国・韓国・ニューヨーク州では既に実積があり、日本と異なり桁違いの検査を可能にしている方法だが、何故こうも事を前進させる気が無いのだろう、足を引っ張る事ばかりだ。厚労省医系技官・感染研・分科会感染症専門家方々の事を前進させようとする気が希薄な事、その弊害は一重に国民が被った。今年の超過死亡の多さを何と説明する。

保健所の荷重労働解消の為とし、かかりつけ医による新型コロナの検査診断が可能となったが、理由説明が腑に落ちない。
荷重労働は検査を保健所ルートに絞ったが故の事ではないのか、検査数を拡充する気があったなら、手に負えないからと自ら申し出て、山中伸弥教授が示唆した縦割り解消を進言すれば、国民は速やかに検査が受けられ、荷重労働問題も無かったはずだ。
方針変更の理由を言うなら先ず、国民への謝罪をすべきだ。
その上で今後は、速やかな受診が出来るようにした、と言うべきで、保健所の荷重労働解消が先ではないだろうに。
国民の生命と健康を守る、を第一と考えるべき組織として、何処を見ている、何を守ろうとしている。意識の在り様の問題だが、結果に於いて大きく異なる事になるのではないか、
これ迄を見るかぎりその様な組織では無いようだ。

精神面でもクルーズ船のコロナ問題勃発以来、医系技官・分科会・感染研、から安心を得ることがあっただろうか。それどころかコロナ一波の最中、我々がPCR検査の拡充を熱望する様を、今も分科会に名を連ねる御仁に「PCR検査信仰は・・・」と揶揄された。国民感情を逆撫でする、科学者として認めがたい発言だ。
これら感染症ムラの人々が出してくるコロナについての、対策・方針・基準・指標等に、自前で先進的で、なるほどと思えた事もない。これらは海外の新しい研究報告があった時や世論の批判が沸き上がった時に後追いで、現状追認的に策定されたとしか見えない、後労省か。
おかげ様で我々市民は自粛しっぱなしだ、「GoToなにがし」が一部で流行っているようだが、中高年の大多数は相変わらずの事でしょう。

本当は旅行・外食・イベント、楽しみたいけど何処かに心配がある。安心無くして、楽しむ余裕が生まれるはずがない、コロナ問題勃発以来ずっと、悶々として過ごす日々の連続だ。
頼みの分科会感染症専門家からは相変わらず、安心を得る話は出て来ない、な~るほど、と云える談話も無い。安心無くして経済が回る訳が無い。
今こそ、これぞ日本モデルと云える提案が欲しい処で在る。ヒントになる提起が無い訳では無い、「世田谷モデル」やソフトバンクの「いつでも・どこでも・何回でも」低廉な料金の検査。何故、これらを前進させようと、出来る方向で考えない。感染症ムラの人々に期待する事、所詮無理な事なのか。
しかし、何時終息するか先が見えないこのコロナ禍、そんな事では大変困る。

先般、民間の調査会が新型コロナ一波を総括した。
メディアの要約を見る限り当然、批判の先は政府の対応振りに向かう。コロナ当初の入国制限についての記述は政府対応の遅れを指摘している。
アメリカがイギリスを除き入国制限をしたのは3月13日、日本は遅れること八日、3月21日に入国制限した。ヨーロッパ21ヶ国からの入国制限は3月27日、この間に多くの感染者が入国し、その後の国内伝播に大きく影響した事は容易に想像出来る。政府から対応が遅れた理由の説明はないが、誰が見ても、オリンピック開催と習近平総書記来日を鑑みた為ではないのか。
この時政権傍らで、分科会・感染研は何をしていた。
民間調査会の聞き取りでは、経済を慮り抜本的対策を講じない政府と意見の食い違いが有ったとのことで、感染レベルの判断基準や指標は政府よりになている、ことを示唆している。

民間調査会報告の要約を見る限り分科会・感染研は、言う事は言っているとも取れるが、「僕達は言ったもんねー」では済まない。コロナ対策や判断基準・指標は、我々素人が見ても、その節の市中感染の拡がりを推測すれば甘いと感じた。
政府と意見の食い違いが有った、と言うなら国民の生命と健康が掛かっている、と辞表を手に迫るべきだ。専門家として、経済と人命を秤に掛けるような妥協をすべきでなかった。それでも駄目なら、責任者を羽交い締めにして迄も意見を通すべきだった。

その時、専門家としてもコロナ対策と経済の両立を考えるなら、無症状の感染者を可能な限り見つけ出し、然るべく措置することでないのか。宿泊療養か自宅療養かどうするかは、医系技官が走りながら考えれば良い、其れ迄も法の解釈上のことで済まして来たのだから。
これにより健常者には通常の活動を担保し、経済に貢献して貰う、本来やるべきはこう云う事でないのか。
京都大学:山中伸弥教授による、桁違いのPCR検査拡充の示唆があった時、医系技官・感染研・分科会(専門家会議)は、何故自ら手に負えないからと省庁縦割り解消を申し出て対策しなかった。
其までして何を守ろうとしているのだ、日本唯一の感染症対策機関たらしめる行政検査と云う盾か。もしそうだとしたら省庁縦割り解消の前に、この盾を召し上げるか、可能な限り小さくする事が先ではないだろうか。

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