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Vol.236 かかりつけ医と専門医

医療ガバナンス学会 (2020年11月20日 06:00)


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林隆久

2020年11月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

退職後数年を経た春先、今まで無かった異変が我が身に起こった。朝起きると、左手が思うように動かない、左手と肩がピリピリして、特に左肩が痛い。もちろん腕立て伏せが出来なくなった。早速、宇治市に住む私の家の近くにある内科医に相談した。この医院は、インフルエンザの予防接種等で毎年利用している。訪れる患者の殆どは老人であり、地域の高齢者を支える医院でもある。医師は患者の言うことに耳を傾け、話し相手になってくれる。狭い診察室内にベットが3つあり、常に誰かが点滴を受けている。
私の場合も、血流が悪いのだろうということで、点滴を受けたが、良くはならない。そこで、かかりつけ医となって専門医療機関である京都大学医学部附属病院を紹介してもらいたいと、私はお願いした。かかりつけ医とは、「なんでも相談でき、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」と定義されている。

かつて私が受診した人間ドックで、「癌がある」という検査結果が出たことがある。その時は京都大学医学部附属病院で癌を特定する分析をしてもらった。分析は、附属病院の中だけでなく、医学部内の様々なセンターへ行き、約6ヶ月をかけて様々な診断を受けることができた。最後の圧巻は、血液中に放射性同位元素を注入し、一定時間後に全身のオートラジオグラフィを撮るというものだった。結果として、癌は無いと診断された。その時のデータが役立つかもしれないし、京都大学医学部はノーベル賞を受賞した医学研究者2名が現在も研究をしており、その附属病院は我が国ナンバーワンの総合病院であると言える。受診すると、各診療科の専門医だけでなく、医学部内の様々な専門医の診断も可能になる、と考えた。

かかりつけ医は、神経内科宛に手紙を書き、私はそれを持って病院に行った。京都大学医学部附属病院には神経内科という診療科は無く、私が通されたのは、脳神経内科であった。外来担当の専門医は、MRIで診ると言い、MRI検診日と医師による診断説明の日程を調整した。当日の午前中に技師が私のMRIを撮り、午後に担当医は私の頸椎の多面的なMRI画像を多数見せながら、ここが傷められると手や腕に痛みがくると話した。私のMRI画像だけなので、正常な頸椎の画像や傷んだ場合が分からないため、どこが悪いのかと思っていると、「特に頸椎はひどく傷んでいない。」と医師が述べた。帰り際に、頸椎のMRI画像をコピーしたCDが渡された。かかりつけ医に報告し、医師からのCDを渡そうとすると、「私はそんなの要らないよ。」と一蹴された。

私の症状をインターネットのウェブサイトで調べてみると、橈骨神経麻痺に似ており、「整形外科専門医なら診断できるのでは?」と、かかりつけ医に伝えた。そうすると、医師は再度整形外科宛に手紙を書いてくれた。整形外科の担当医は、X線を撮った後、痛む左肩のX線の画像を見せながら、左肩の上部に小さな突起のようなものがあることを指摘した。私は、「これは五十肩ですか?」と尋ねると、「似ているが五十肩ではない」と述べた。要するに、分からないのである。しかしながら担当医は、痛みの原因を見つけたという「仕事のやり切り感」に満ちていた。「とりあえず」と告げられ、この結果をかかりつけ医に報告するしかなかった。かかりつけ医とともに、1人目の専門医と2人目の専門医は、現場の医療に対応していないと私は感じた。

私は、かかりつけ医となった内科医の医院から200 m 程度離れたところにある外科医院を訪れた。そこでこれまでの経緯を話した。医師は、まず左手のX線を撮り、異常がないことを確認するとともに、血液を採取した。1週間後、血液検査の結果から、全ての数値は問題ないが、炎症反応が出ていることが分かった。「この炎症というのは、癌も含みますか?」と尋ねると、「可能性もある」と応えた。この外科医は、2番目のかかりつけ医となり、私を京都大学医学部附属病院へ紹介することになった。数日後、このかかりつけ医から電話があり、「10月26日にアポを取ったので私の手紙を持って附属病院へ行ってください」と連絡が入った。手紙の宛先は免疫・膠原病内科となっていた。手紙を書くだけではなく、2番目のかかりつけ医は附属病院に電話をして、専門医師に現状を説明し、アポまで取ってくれていた。

附属病院へ行くと、免疫・膠原病内科の3人目の専門医から様々な問診を受け、更に私の身体や皮膚等々を検証した。多分40分くらいかかったのではないかと思う。「かかりつけ医から、血液検査のデータをもらっており、炎症反応があるので、徹底的に血液検査をやります。」ということで、様々な血液サンプルが採られた。横目で採血を見ていると、10本以上分析項目の異なるサンプルを採っていることが分かった。更に、検尿、そして全ての手・腕そして胸のX線も撮った。別の日には、4人目の専門医が私の関節のエコーを撮ってくれた。このエコーは、白黒画像の関節の中で血管を赤く映し出す。専門医は赤い血管を指しながら、炎症が生じているところを具体的に指摘した。最終日(11月9日)、全ての血液検査の結果もでたところで、5人目の医師が検査結果を説明した。

血液検査ではリウマチ抗体が検出できなかったが、エコーの結果からリウマチの可能性が高いと言う。実際、リウマチ患者の20%はリウマチ抗体が検出されないという。私は、整形外科の専門医が指摘した肩のX線画像から、リン酸カルシウムのようなものが沈着して痛みを発する偽痛風でないか?と尋ねた。これは、私がインターネットのウェブサイトで見つけた症例である。しかしながら、5人目の専門医は、2人目の専門医のデータであるX線画像を知らなかった。京都大学医学部付属病院では、各診療科が縦割りで統括されており、診療科間の横のつながりが無いことが分かった。患者のデータは統一されていないのである。しかしながら、関節における血管の炎症反応はリウマチの可能性を強く示唆するので、こちらをまず考えたいという。まだ正確なことが分からない状態なので、臨床試験対象として本診療科が進める研究に加わって欲しいと言われた。「医学部附属病院に来たのですから当然です。」と私は応えた。この診療科内の3人の専門医は私の診断についてディスカッションを尽くしていることが、私に大きな安心を与えたのである。

未知の病を発症して1番目のかかりつけ医を訪ねた後、まともな診断結果と治療が可能になるまで8ヶ月を要した。1人目の脳神経内科の専門医は、私の病状とは別の次元でMRIを撮り、自己中心的な診断をしたと言える。患者である私から言わせると、MRI専門馬鹿である。2人目の整形外科の専門医は、私の病状である肩の痛みの原因をX線画像から見つけたが、それを問いかけるAskingの「科学する心」を持たなかった。この画像を他の専門医とともに、ディスカッションをすることが出来なかったのだろうかと思う。痛みの原因を見つけたという、仕事のやり切り感で満たされた印象だけが思い出される。これも、ある意味自己中心的な医師であると言える。これら2人の専門医が適切に対応出来なかったのは、1番目のかかりつけ医の形式的な紹介状に由来するのかもしれない。それに対して、2番目のかかりつけ医は、免疫・膠原病内科内の3人の専門医師による診断に結び付けただけでなく、今後も専門医による診断を可能とした。

私の症状が発生した春先には、私の教え子である学生が農学系の大学を卒業後、鳥取大学医学部を再受験して合格したという連絡が届いた時でもあった。会ってお祝いを伝えられなかったけれども、かかりつけ医になろうが、専門医になろうが、現場の医療を改革できる医師なってくれることを願う。

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