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Vol.235 一般市民法的センスを込めてPCR検査の議論を

医療ガバナンス学会 (2020年11月19日 06:00)


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この原稿は月刊集中11月末日発売号(12月号)に掲載予定です。

井上法律事務所 弁護士
井上清成

2020年11月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1 「PCR検査で本庶氏と西浦氏が激論、京大が新型コロナ緊急シンポ」

我が国の政府の新型コロナ対策は、客観的に見ると、初動から今まではそれなりの成果を挙げてきたように思う。ただ、一般国民からは必ずしも十分な評価を得ていない。感染拡大がそれなりに防げていることを認めながらも、「偶然に過ぎない」などと言い放って、成果を余り認めたくない人達もいるようである。
いずれにしても、新型コロナ対策が少し不人気であることは間違いない。不人気の原因はいくつもあろうが、大きな要因の一つは「PCR検査数の不足」だと言ってよいであろう。
そのような状況下で、この10月5日、京都大学大学院医学研究科附属がん免疫総合研究センターで、緊急シンポジウムとして「新型コロナウイルス感染対策におけるPCR検査の利点と課題」と題するオンラインシンポジウムが開催されたらしい。その中で、「感染制御と社会経済活動の両立した社会を取り戻すためには、1.PCR検査が必要なところに届くように速やかに拡大すること、2.PCR検査と他の検査の精度管理の仕組みの構築とエビデンスの公開は喫緊の課題であること、以上の2点に対して参加パネリストのコンセンサスが得られ」たとのことである。
その模様は、10月10日付けのm3「医療維新」に、「PCR検査で本庶氏と西浦氏が激論、京大が新型コロナ緊急シンポ」「安心のために幅広く検査を」「効率的な検査体制を考えるべき」と題する記事で生き生きと描かれていた。そこで、そのm3の記事を引用しつつ、PCR検査の議論にコメントを加えようと思う。
2 「国民が安心するためには網羅的な検査が必要」

(1)過度の恐怖・自粛を除去するにはPCR検査
本庶氏は、「国民が安心するためには網羅的な検査が必要」だと訴えたらしい。現状については、「医療崩壊はないが、重度な後遺症等についての実態把握がなく、その結果、過度の恐怖、過度の自粛により、経済活動が著しく低下している」などと問題視したとのことである。
経済の本質の一つが「心理」にあることは経済学の常識であり、そのことを踏まえれば、「過度の恐怖、過度の自粛」に着目していることは的確だと思う。その「過度の」心理を取り除くのには、PCR検査が必要適切なのである。

(2)検査の拡大が有害であるという暴論
また、「まず一時期、一部の人だったか、検査の拡大が有害であるという議論が随分なされた。これはまさに「国民にとって有害であった」ということで皆さんに合意していただけると大変ありがたい。」とも、本庶氏は述べていたらしい。
確かに、その通りであろう。もしも本当に「検査の拡大が有害であるという議論」を推し進めたい人がいるならば、その人は、その因果関係の詳細をもっとディープに本音として語らねば説得力を持たない。ディープな本音を語ろうともしない以上は、まさに「国民にとって有害であった」議論だったと評されざるを得ないであろう。

(3)強制入院がない以上は検査拡大に大賛成
さらには、「今、少なくとも現状で、法定伝染病的な強制入院ということが事実上ないという状況の中では、検査は拡大すればするほどよい。」とも、本庶氏は付け加えていたらしい。
そもそも検査拡大は、下手をすれば、人権侵害にもつながりかねないのである。この重要な事実を、さりげなく、かつ、回りくどく、「今、少なくとも現状で、法定伝染病的な強制入院ということが事実上ないという状況の中では、」という留保を付ける中で主張したらしい。人権感覚に優れた言い回しである。罰則や実力行使による強制が事実上無いというこの留保の下でならば、確かに「検査は拡大すればするほどいい」であろう。
法的センスに優れた正論である。
3 GoToトラベル with PCR

(1)一般市民法的センスを込めたPCR検査論

「国民が安心するため」という視点は、有効性効率性ばかりを重視した「行政検査」としてのPCR検査論には乏しい。一般市民の視点からすれば、「国民の安心」はそれ自体が重要な目的である。さらには「国民の安心」をベースにしてこそ、「経済活動」の再生ができると言ってもよい。つまり、「国民が安心するためには網羅的な検査が必要」という本庶氏の考えは、「一般市民法的センスを込めたPCR検査論」だと評してよいように思う。
緊急シンポジウムの目標である「感染制御と社会経済活動の両立した社会を取り戻すため」には、今までのPCR検査論に一般市民法的な視点やセンスを取り込むことが大切だと言ってよい。

(2)GoToトラベルにPCR検査を付帯してはどうか
原稿を執筆している今(11月14日時点)は、新型コロナ感染拡大の第3波がやって来たと言われ始めたところである(欧米各国はもっと大変なところだと感じられよう)。特に我が国では、丁度、GoToトラベルをはじめとするキャンペーンで世の中が賑わっていた時期であった。GoToキャンペーンが感染拡大の原因であるとも言われていて、続行とか中止とかが議論されてもいる。
しかし、たとえばGoToトラベルを中止するというのも、感染制御に偏っていて社会経済活動を軽視しているようにも感じられよう。かと言って、GoToトラベルをただ続行するのも、今度は社会経済活動に偏っていて感染制御を軽視しているようにも感じられる。
もともとGoToトラベルは、「GoToトラベルwith コロナ」のコンセプトの下にできているらしい。そうだとするならば、「with コロナ」にふさわしく、「with PCR検査」としてはいかがであろうか。
GoToトラベルに事前のPCR検査を割引対象として付帯し、3密回避と同様に条件化して、一体とするのである。もちろん、ここで言うPCR検査は「行政検査」ではなく、「本人等の希望によるPCR検査」を指す。
つまり、一般市民法的なセンスを込めて、「GoToトラベル」を「GoToトラベルwith PCR」に改良していくのである。皆さんの検討と柔軟な制度改善を望みたい。
〈今までの感染症関連の論稿〉
Vol.201「新型コロナワクチンには手厚い健康被害救済と医療免責を」
(2020年10月13日)

Vol.187「新型コロナ対策特措法を新型コロナ専用に新たに制定すべき」
(2020年9月23日)

Vol.186「感染症法による新型コロナ過剰規制を政令改正して緩和すべき」
(2020年9月16日)

Vol.165「PCR検査は感染症法ではなく新型インフル特措法の活用によって拡充すべき」
(2020年8月12日)

Vol.147「新型インフル対策特措法を新型コロナに適するように法律改正すべき」
(2020年7月16日)

Vol.131「新型コロナで院内感染しても必ずしも休診・公表しなくてもよいのではないか?」
(2020年6月23日)

Vol.127「新型コロナ流行の再襲来に備えて~新型コロナ患者は「状況に応じて入院」になった」
(2020年6月17日)

Vol.095「新型コロナ感染判別用にショートステイ型の「使い捨てベッド」を各地に仮設してはどうか」
(2020年5月8日)

Vol.080「善きサマリア人の法~医師達の応招義務なき救命救急行為」
(2020年4月23日)

Vol.070「医療崩壊防止対策として法律を超えた支援金を拠出すべき」
(2020年4月9日)

Vol.054「歴史的緊急事態の下での規制を正当化するものは助成措置である」
(2020年3月18日)

Vol.031「新型コロナウイルス感染症が不安の患者に対して応招義務はない」
(2020年2月18日)
Vol.023「救急病院はインフル患者の診療拒否をしてもよいのではないか?」
(2019年2月5日)

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