医療ガバナンス学会 (2019年2月19日 06:00)
一般社団法人全国医師連盟代表理事
中島恒夫
2019年2月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
結論から言えば、「ウログラフィンはもはや製造を中止すべき時だ」ということだ。
私自身は消化器内科医として胆管造影(ERCP、PTCなど)でのウログラフィンの使用経験があり、現在の勤務先もウログラフィンを採用している。しかし、「ウログラフィン事故」を知るにつれ、事故の最大の原因は「ウログラフィン」そのものの「存在」であると結論づけている。
現在、様々な造影剤が使用されている(http://pha.medicalonline.jp/img/cat_desc/MOa_table1.htmlに掲載されている一覧表を御参照下さい。)が、X線撮影で使用するヨード造影剤は「非イオン性」にほぼ置換されてきている。理由は、「より安全だから」しかない。
それにも関わらず医療事故が繰り返されているウログラフィンが存在し続ける理由は何かというと、「適応」(添付文書上では【効能・効果】)と「価格」の2つでしかない。
ウログラフィンにしか適応のない撮影として、胆管造影、唾液腺撮影がある。
ERCPやPTCではウログラフィンがまだ多用されているが、非イオン性造影剤を使用されたことのある消化器内科医は少なからずいる。「ウログラフィンでなければ良い造影写真を撮影できない」と主張するベテラン医師がいることも承知しているが、そのようなベテラン医師であっても、ウログラフィンを原液で使用していることは皆無ではないだろうか。通常は倍量希釈するなどの操作を経て使用しているはずだ。患者さんの体型によって胆管造影の画質も大きく変わる。その上、ウログラフィンを倍量希釈して胆管造影しているのであれば、画質を云々言い始めることは非常に滑稽だ。ERCPの際に非イオン性造影剤を使用した経験のある複数の医師に私自身もインタビューしたが、画質が劣るということを誰からも聞かなかった。
では、なぜ非イオン性造影剤を使用しないのかと尋ねると、「適応」と「価格」の2つしか理由がなかった。言い換えれば、この2つの問題をクリアすれば、ウログラフィンを世の中から無くすことができ、「ウログラフィン事故」によるさらなる被害者を生まない何よりもの福音となる。これは医療安全上、非常に大きな前進となりえる。
かつて、アストラゼネカ株式会社が「点滴用キシロカイン10%」の供給を終了させた大英断によって、以後、10%キシロカインの急速静注による死亡事故が二度と発生しなくなったという好事例がある。バイエル薬品株式会社にも大英断を期待しているのは、私だけではないはずだ。幸い、同社にはイオパミドール(商品名:イオパミロン)がある。胆管造影に適した剤型での製造に踏み切ってきただけることで、医療安全に貢献していただけることを期待する。
また、「適応」という課題をクリアするためには、厚生労働省内での承認というハードルもあろう。これには胆管造影に関わる関係諸氏、関係学会の協力が不可欠である。High volume hospitalであれば、必要症例数を早々に集積することも可能だろう。「ウログラフィン事故」を二度と発生させないために、関係する多くの方々には是非とも御尽力をいただきたい。
参考までに、私のコメントも掲載されている記事(https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/201901/559566.html)をお読みいただければ幸甚です。