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Vol.255 コロナ禍における診療体制維持

医療ガバナンス学会 (2020年12月22日 06:00)


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都内民間病院院長 匿名

2020年12月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

新型コロナウィルス(正式名称:SARS-CoV-2、通称:COVID-19)感染症の猛威が全世界に及んでいる。日本は感染者数が少ないとされるが検査体制の違いもあるため実態は判然としない。生活習慣が感染予防に適している等の論拠もあるが、第3波での患者数急増や市中感染の動向を見ていると果たしてどうなのだろうか。

新型コロナ感染症は感染者数急増、高齢者での感染増加に伴う死者数増加、無症状者でも急変し死亡する場合がある事など日々報道が過熱しており、今般のGOTO事業停止を含め新型コロナ対応に国も翻弄されている。

我々もこの1年間、新型コロナに翻弄された。当初から発熱外来を開き、依頼により少数の入院も受け入れた。急速に感染者が増加し緊急事態宣言が出され、地域の要請もあり通常病床を閉鎖して新型コロナ病床を作った。工事や人員配置に時間がかかり、オープンした時はすでに終息傾向になりつつあった。病床減少により通常診療が制限される事となり、経営は大幅に悪化した。新規感染の報告も少なくなったため、新型コロナ病床を閉鎖して通常診療に再転換した。ただ発熱外来は継続し、さらにこのころから問題視されていた疑似例に対応すべくCOVID19迅速遺伝子増幅検査を院内導入して、緊急疾患を持つ発熱者を個室で受け入れる体制を構築した。救急診療、通常診療が回復し一時は優良な経営状態まで回復した。そこで院内クラスターが発生した。救急診療停止、新規患者受け入れ停止、病棟閉鎖と次々に通常診療の制限をかけざるを得なくなり、かつてないほどの減収減益となった。現在は完全に感染制御が出来たため通常診療に戻っている。

この間に多くの事を学んだ。

新型コロナ診療は通常診療が出来ない等の現場の意欲低下、患者や自らに加え家族への感染という多大なストレス、さらに大幅な経営負担を強いる。病床転換により通常診療が制限される事に加え、多数の感染者が出れば病棟閉鎖となり救急を含む通常診療を止めざるを得ない事態にもなる。急性期病院は診療報酬改定や地域医療構想に伴う施策ですでに経営的な余力が無い。新型コロナ病床への転換、患者受け入れに対する国からの多額の補助金が今年は出ている。しかし新型コロナの終息が見えない中、いつまでもこの補助金が持続するとは誰も思わない。経営破綻に追い込まれている中小企業も多くこれらの業種への補助も必要であり、財源がこの先も続くなど甘い期待は到底抱けない。

今、中小企業の倒産と同様に民間医療機関も存亡の危機に瀕している。新型コロナ患者増加とともに医療機関への受診を控える患者も増加している。かかりつけ医には発熱外来を設けるには余剰スペースが無い事も多く、発熱外来を行っても人件費やPPE、通常診療への影響などで経営が厳しくなる場合もあると聞く。

報道の中で自治体長達は新型コロナ診療病床を増やすと宣言している。急性期病院ならば病床転換して新型コロナ病床を作るべきとの無言の圧力を感じる。彼らは民間医療機関がすでに経営困難となっていると言う現場の真実の姿を知らない。民間病院群は今までも経営のため使えるスペースは診療関連に転換しており、一部の病院を除けば金を生まない余剰なスペースなど持ちえない。新型コロナ患者を診療するには通常患者よりはるかに多い人員が必要となる。民間急性期病院には場所も人も足りないのだ。自ら選択して新型コロナ病床を作り診療している医療機関には尊敬の念を抱く。一方で経営的な余力もスペースも無い医療機関にとっては、新型コロナ病床を作る選択肢は選べない。事は新型コロナ診療に協力するかしないかでは無いのだ。民間医療機関は従業員や地域のため、存続することが第一の命題である。余力があればどの医療機関も協力したいと考えるだろう。存続不能な状況になり得るから新型コロナ病床への転換に踏み切れないのだ。

最近不思議に思うことがある。政府の分科会で医師の代表として発言されている尾身先生は常に冷静な発言と穏やかな物腰で話され、一般の方々は安心していると思う。また医療関係者の給与問題やGOTOへの強い懸念等、我々の立場を守る強い発信をしてくださっている。しかし、今の新型コロナ診療の難しさは通常診療との併存が困難と言うことだ。先に述べたように多くの民間医療機関は新型コロナの入院診療に対応する事は難しく、中心として働くことは困難と言わざるを得ない。今を憂いているならばぜひとも発信してほしい。自らが属する地域医療機能推進機構(JCHO)所謂第3セクター医療機関や公的医療機関が新型コロナ診療に特化するなど中心的役割を果たすと。

国のコロナ封じ込めしつつ経済を回すと言う策は結果的には明らかな失敗と言えよう。医療界も同様である。このまま公立病院も民間病院も同列で全病院が2つの診療機能を併存していくなら、そう遠くない時期にあるだろう国の新型コロナ補助金停止後に多数の民間病院が閉院に追い込まれるだろう。民間病院には公的病院のような補助金は無く余力が無いのだ。急性期病床の7割は民間医療機関である。公的病院だけでは救急医療を含む通常診療は賄いきれない。新型コロナ診療と通常診療の両輪を回すことは民間医療機関には困難であり、もし民間が倒れてしまえばより患者数の多い通常診療も行えなくなる。

これこそが最悪のシナリオではないのか。

公的病院群には倒産の恐れは無く、民間は収益悪化すればいつでも閉院となる。今こそ公的病院群は民間と同じ医療機能を争うのではなく、自ら新型コロナ診療の中心となっていただきたい。駒込病院などすでに中心的役割を担われている病院群には本当に感謝している。通常診療は新型コロナ入院が困難な病院群が中心になり、他の病院では出来ない特殊な機能を持つ公的病院や高度な機能を持つ大学病院はその診療機能を維持継続していく。非常事態であるコロナ禍では医療界にも棲み分けが必要ではないのか。

感染症への対応において感染者が多数になれば、コホートエリアを作り患者を集め早期終息に向かうべく努力するのが通常である。この点は病院群も同様ではないか。新型コロナ診療病院群と通常診療病院群を分け診療していくことで、患者への感染リスク低減と通常診療の永続的提供が可能となると思う。

民間医療機関の閉院に伴う医療崩壊が起こる前にぜひともご英断をお願いしたい。

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