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Vol. 206 「診療報酬引き上げ」の公約は絵に描いた餅

医療ガバナンス学会 (2010年6月13日 16:00)


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武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
多田 智裕

※このコラムはThe hottest OPINION site in Japan
JBpress http://jbpress.ismedia.jp/ よりの転載です

2010年6月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

いよいよ参議院選挙が迫ってきました。

5月24日 民主党が参院選の公約として「2012年度の改定で診療報酬を引き上げる」ことを掲げる、という報道がありました。医師不足や医療過疎の解消には、医師らへの一層の支援が必要だと判断したとのことです。

しかし、この報道、よく読むと参院選公約には「引き上げ幅などを示さず、予算編成時の財務状況を見て決める」との文言が付いています。

さらには、医療産業を雇用創出のための成長分野と位置づけ、「メディカルイノベーション」のための予算も付ける方向のようです。

見出しだけ見ると「診療報酬の引き上げを民主党が公約に明記」ということなります。しかし、この公約ではとても医療崩壊を食い止めることはできないでしょう。

■財源確保の議論なしでどうやって診療報酬を引き上げるのか

鳩山首相は1年前の衆議院選の前の党首討論で、「診療報酬を2割ほど上げないと(医療崩壊を食い止めるのは)厳しいと感じている」と述べました。

本当に医療崩壊を食い止めようと考えていて、診療報酬をOECDの最低ランクから平均レベルに向けて2割引き上げようとしているのであれば、実行するのは簡単です。
普天間基地の移設問題のように代替地を一生懸命探したり、米国や地元住民や市長や知事たちとの対話を何度も繰り返す必要もありません。
「1点=10円」と設定されている診療報酬を、単純に「1点=12円」にするだけです。政府機関お得意の通達1本ですむことです。

しかし、2010年度の診療報酬改定は2割アップどころか、マイナス改訂を食い止めるだけ(実質プラス0.03%)でした。これは、子供手当の月2万6000円の実行を見送ったのと同じく、財源の確保ができなかったからです。
それなのに、民主党が掲げようとしている公約では、「医療財源をどう確保するか」という方策が全く見えてこないのです。

■診療報酬をアップするだけで雇用創出効果は絶大

また、「メディカルイノベーション」と称して、医療周辺分野への投資予算を付けることは心地よく聞こえます。しかし、これは「ばらまき」に近い形 でお金を消費するだけになるでしょう。既存の医療を立て直さずに「医療を成長産業に」と言ってみても、それは絵に描いた餅に過ぎないのです(関連コラム「『医療を成長産業に』なんて夢のまた夢」 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/2968 も参照ください)

実は、そんなことをしなくても、医療機関の診療報酬を2割アップするだけで、雇用創出効果は絶大なものになります。
政府が予算を使った際に、その予算額よりも国民所得が大きく拡大することがあります。これを「乗数効果」と呼ぶそうです。
子供手当の場合は、半分近くが貯蓄に回ってしまう可能性が高く、乗数効果は1以下です。つまり、支出額を下回る額しか消費は拡大しないと予測されています。

では、医療費を増額した場合はどうなのでしょうか? 公的な診療報酬を手厚くすれば、乗数効果は公共投資と同様に1を大きく超えるはずなのです。
なぜならば、まず医療機器の更新が活発になり、医療周辺産業にお金が回るようになります。また、医療事務などのコメディカルスタッフの雇用創出を促します。さらには、従業員の待遇が改善されることにより、消費の活性化に直接つながるのです。

現在、医療法人は利益の配当が法律で禁止されています。しかし利益を貯蓄しておこうとすると、最終的には国庫帰属になってしまうのです。
ですから、増額された医療費が貯蓄としてとどまることはないでしょう。医療崩壊を食い止め、雇用も創出する「生き金」となるはずなのです。

■結局、医療財源はどう確保するのか?

現在の日本で、医療費負担を国が負担せずに、「自己責任」の名のもとに各個人に負わせるというのは、決して現実的ではありません。つまるところ、医療費にまわす財源をどこから確保してくるのかまでを議論しないと、医療問題の解決にはつながらないのです。

事業仕分けが実行される前までは、民主党政権の「特別会計の無駄な1割を削減するだけで、20兆円の財源が捻出できる」という文言が説得力を持っているように感じました。
しかし、昨年度の第1回の事業仕分けの削減額は、その1割にも満たない6770億円でした。今月行なわれた第2回の削減金額が第1回を大幅に下回っているのは間違いないでしょう。

以前、このコラム http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/3308 で取り上げた診療報酬支払い基金(診療報酬の審査や支払い業務を行っている機関)についても、業務を効率化して無駄を省く、という方向には向かいませんでした。
逆に、さらなる予算を使って、「指導監査体制の充実を図る」(つまり、医療現場を締め上げる)という決定だったのです。

結局、いくら「無駄を省く」といったところで、各々の予算には意味があり、そう簡単には削れないものばかりなのでしょう。「事業仕分けによる予算無駄削減で、財源が捻出できる」という主張は、もはや非現実的な政策にしか聞こえません。
社会保障を抑制して国民の不安を煽り、消費を萎縮させていては、内需は拡大しません。経済成長など望めないはずなのです。
結局は予算を増額することが、現在の公的保険診療を維持し、医療を成長産業として育てるために一番効率的です。そのことについて早くコンセンサスが得られるようになってほしいと思います。
そして、その財源をどう確保するのか。そこまで具体的に議論しないと、最前線の公的医療崩壊はもはや待ったなしの状況なのです。

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