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Vol. 207 「ヒヤリ・ハット」と「インシデント」は同義なの?

医療ガバナンス学会 (2010年6月14日 07:00)


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東京歯科大学社会歯科学研究室 平田創一郎

2010年6月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

Vol.178 『「ヒヤリ・ハット」この幼稚な言葉を日本の医療界から駆逐してほしい』
Vol.192「ヒヤリ・ハット」が幼稚な言葉で医療界から駆逐すべきものだろうか?
この2つの「ヒヤリ・ハット」についての議論を拝読し、なぜ、「ヒヤリ・ハット」と言う言葉をわざわざ日本で作ったのかを振り返ってみました。

その前に、医療事故とヒヤリ・ハットの相違点について理解しておく必要があると思います。ヒヤリ・ハットと医療事故を区分するのは結果論、すなわち人身事故を招いたか否かです。行為の内容ではありません。結果の重大さと事後処置の点で全く異なる対応が必要となることは言うまでもありませんが、原因分析と対策立案においてはさほど区別する必要がないと言っても過言ではないでしょう。
安全管理の上で重要なのは、原因分析と対策立案であることは皆さんご承知の通りです。ハインリッヒの法則における比率(1:29:300)が正しいかどうかは実は問題ではなく、人身事故に至らなかった多くの災害、すなわち「ヒヤリ・ハット」の原因分析をすることで対策立案が可能となり、重大事故を未然に防ぐことができるであろう、という点です。重大事故や軽度な事故よりも、ヒヤリ・ハットが多いということも明らかな事実と思われます。

次に問題となるのは、ヒヤリ・ハットとインシデントは同義なのか、ということです。結論から言えば、厳密には同義ではないようです。incidentという単語を英和辞典でひくと「出来事」と訳されています。すなわち、結果論である「人身事故を招いたか否か」は関係なく、「予定していたあるいは予見される出来事と違うことが起きた」場合すべてを指す言葉と考えるのが正しい使い方のようです。もちろん、同義で用いられることもあります。また、重大事故につながる重大インシデントは別扱いされることが多いですが、ここでポイントとなるのは、医療事故=重大事故では必ずしもないということです。さらに、重大事故が結果からとらえた出来事で、重大インシデントが原因からとらえた出来事であるという点で、概念として重大事故と重大インシデントは言葉のニュアンスが違うこともおわかりいただけますでしょうか。

したがって、医療の安全管理において、報告をするという観点からは医療事故とヒヤリ・ハットを区別する必要はないように思います。いずれにせよ両者とも報告は必要なのです。当事者や発見者が、転帰の違いから報告様式を区別して報告することに何の意味があるでしょうか。報告の目的はあくまで原因分析と対策立案であって、個人の責任の追及ではありません。であるならば、「医療事故報告」と「ヒヤリ・ハット報告」は「インシデント報告」に一本化すべきではないでしょうか。結果論として医療事故である場合には別の対応が必要となるというだけです。当事者・発見者からのインシデント報告が医療事故であった場合に、安全管理委員会等で改めて医療事故報告書を起こせばよいし、実際に現在もそのようにしているはずです。

「ヒヤリ・ハット」は明らかな日本語で、福田先生がおっしゃるように非常に現場の感覚を直接反映したわかりやすい言葉だと思います。普及啓発に用いるには非常に優れていると思います。英語圏ではヒヤリ・ハットに相当する言葉はnear-missなどが用いられているようですが、安全管理の上では軽微な事故とわざわざ区別して重要視はしていないように感じます。もちろん、重大事故とそれにつながる重大インシデントは別扱いですが。これはおそらく、インシデント報告の文化が醸成されているからなのでしょう。しかし、未だ個人の責任追及を重視する傾向がある我が国においては、医療事故報告は出すのがはばかられ、ヒヤリ・ハット報告の方が出しやすいという側面があることは否めません。ヒヤリ・ハット報告でさえ出してくれれば、安全対策の立案が可能です。ですから日本では独自に「ヒヤリ・ハット」という言葉を作り、平成14年の時点で厚生労働省が用いた意味が見えてきます。
さて、厚生労働省の普及啓発が始まってからすでに8年がたちました。我が国の医療界もそろそろ「ヒヤリ・ハット」から卒業してもいいのではないでしょうか。

最後に、ヒヤリ・ハットという言葉はやめてインシデントを用いましょう、という点で神津先生に賛成いたします。ただし、インシデントの定義は異なります。また、ヒヤリ・ハットが幼稚な言葉であるという点も、報告の文化の醸成が十分でないという観点からは同意いたします。一方で、できるだけ多くの報告を得るために、抵抗感の少ないヒヤリ・ハットを用いること、その他のカタカナ言葉(インシデントも含む)をやめて誰もが理解しやすい日本語を創る必要があるという点について、福田先生に賛成いたします。インシデントの意味も正しく伝わっていないのですから。
インシデント、私は「何かが起こった!」なんて説明していますが、いい日本語になりませんでしょうか?

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