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Vol.004 東京体験記(2020/11/7〜8)

医療ガバナンス学会 (2021年1月6日 06:00)


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奈良女子大学附属中等教育学校3年
東桃子

2021年1月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2020年11月7日、慣れないスーツを着て、1人大阪から東京の建築会館までやってきた。第15回現場からの医療改革推進協議会シンポジウムにスタッフとして参加するためだ。

医療に何の関わりも専門性も無い普通の中学生である私が何故、シンポジウムの会場に、それもスタッフとして立っているのか。まず簡単な自己紹介と共にその経緯から書いていきたいと思う。

私は先程も書いたとおり特別な才能があるわけでも特別な家庭に生まれたわけでもない。普通の中学生だ。ただ、周りの環境に恵まれた。

3歳からモンテッソーリインターナショナルスクールに通い、6歳から地元大阪の公立小学校に進む。その後中学受験を経て奈良女子大学附属中等教育学校に進学。現在中学三年生だ。

人が人生のうちで最も身体的に成長し、自分の価値観を形成すると言われる幼少期にインターに通っていたせいか、公立小学校での生活では幼稚園とのギャップに戸惑いを覚えることが少なくなかった。皆が当然の様に飲み込むルールが理解出来ず、教科書で学ぶ道徳の授業に一々疑問を感じ、教育を変えたいなど大それた事を考えるようになった。

そんな中、両親の勧めもあり短期留学をすることになった。
小学校4年生でポーランド、中学校1年生でベルギー、中学校2年生でエジプト。
初めはただ「外にでたい」「新しい世界で新しい何かを学びたい」とあやふやな気持ちで望んだ留学だったが、そこで私は想像以上のインスピレーションを受ける事になる。
その話は今回は省略するが、今思えばここが人生の転機その1だろうか。
スラム視察を目的に向かったエジプトで、自慢のパートナー、高久夢華に出会ったのだ。環境問題に興味を持つ夢華と、教育面から様々な問題にアプローチしたい私。意気投合した2人は中学2年生の夏、一般社団法人bearth(ベアース)を設立した。

ただ漠然と、自分たちがこれまでの留学で見てきた現実を変えたい。という思いだけで活動していたある日。父に東京のある研究所を紹介される。父は灘校出身である。そう。ここで私の人生2つ目の転機になるであろう上昌広先生との出会いがあった。

父から話を貰った時、上先生が誰なのかも何をするのかも分からなかったが、「会ってみるか?」「行きたい」と気づけば飛び込んでいた。

そうと決まればすぐ東京に飛び、中学生1人、リュック1つで研究所を訪れた。医学生だという吉田誠さんが出迎えて下さり、お菓子まで頂いてしまうほど、私は研究所での時間を満喫した。

上先生と1度お会いしてからは凄いスピードで話が進んで行った。そしてここでもまた「行きたいです」と気づけばシンポジウムへの参加が決まっていた。

当日はスタッフ手伝いとして夢華と二人で参加させて頂いた。マイク係を任されながら空いている時間ひたすら講演を聴く。聞いた事も無い専門用語やシンポジストの方々の壮絶な経歴に圧倒されながらもどんどんのめり込んでいく。聴く。何それ分からない。それほんと?対策って、具体的に、何。それは病院がすること?政府がするべきこと?え、初めてしった。そうなんや。あ、マイク呼ばれた。まって今の聞けなかった。それどこまでが真実?どうやって確認しよう。あ、またマイク。え!そんな事があるんだ凄い!反対意見も聞きたいなぁ。
次から次へと流れ込んでくる情報に必死でついて行こうとする。誰かが話す内容一つ一つに疑問が浮かび、確認する間に話は次へと進んでしまう。知らない単語の意味を推測し、後になって調べて初めて間違っていたことを知る。今となってはどこまで正しく理解出来ていたのかも分からない。熱中しすぎて頼まれた仕事を忘れてしまう事もあった。本当に無責任な事をしてしまったと後悔した。私の頭は2日間ずっとフル稼働だった。甘い物が食べたくなった。

このあまりに濃い2日間の全てを述べるには残り1000字強ではとても足りない。

死因究明を専門とする近藤稔和さんは講演後、死者本人の意思と残された生者の意思の尊重について等沢山の私の興味や質問に付き合って下さり
かの有名な島津家の島津久崇さんは、薩摩の郷中教育について実際にその教育を受けてきた方がどう感じているか等個人的な疑問に答えて下さった。
元財務省事務次官の佐藤慎一さんには後日学校で講演をして頂けることになり、
モーニングショーで人気の玉川徹さんとはその後もメールで若年層向けの番組について語らせて頂いた。

現役医学部生の方、医療のグローバル化に向けて活動されている方、地域医療の発展に尽力する方、各専門分野からの見方をお話くださる方。どのシンポジストの方も皆、その分野の第1線を見てきたのだと分かる。だからこそ、当然その第1線を経験してない私の中にはどの講演にも自然と、納得と同時に疑問が生じる。

休憩時間やその後の懇親会では感じた疑問を率直にぶつけ、頂いた答えにまた疑問をぶつけた。この瞬間。自分の中で疑問と答えが段々と結びついていく時間。ここに何より自分の成長を感じ、楽しくなってしまう。

無知な中学生に時間を取らせてしまい本当に申し訳無いという気持ちもある中、それでも根気強く相手して下さる皆さんの暖かさ。上先生を通じて出会った方々に、自分のなりたい「大人」の姿を重ねた。

最後に、私が結局シンポジウムで何を学んだかを書いて終わりたいと思う。

私は元々、最近立ち上げた一般社団法人の活動を生涯通じて生業にしていきたいと思っていた。簡潔に言うと発展途上国支援。大学の志望学部は総合政策。そうは思いながらも、具体的に自分に何が出来るんだろう。支援には当然お金もかかる。本当に必要とされる能力はなんだろう。自己満足じゃないだろうか。偽善的では無いだろうか。自分の行動への疑いや不安は絶えなかった。そんな中出会った上先生に言われる。初対面でハッキリ一言「専門性を持たないと、それは自己満足に終わるよ」と。私の中で何かがストンと落ちた気がした。

そしてその後のシンポジウムで、専門性を持って確実に世の中のニーズに応える多くの方々に出会う。これまでに無い程強く感じてしまった。

私は医者になりたい。

いたちごっこから抜け出すには根本の問題から変えるしかない。だからといって目の前で苦しむ人を見捨てたくない。医者だ。私がなりたかったものは、医者だ。現実はそんなに甘くないかもしれない。医者になったからと言って思った通りの活動ができるかは分からない。それでも私は医者になりたい。確かに、はっきりと、そう思った。

理数は得意じゃないと自覚している。だからといって逃げたくない。今回のシンポジウムで出会えた皆さんを見て感じた。本当に必要とされる能力を、楽して手にすることはありえない。楽して手にしたそれは多くが自己満足に終わる。と。

陳腐なセリフだが、本当にこのシンポジウムで学んだ事は数えきれない。初めて聞く言葉、知らなかった見方、膨大な新しい知識を得た。
しかし何よりも、この経験そのものが私に与えてくれた価値観と決意。それだけで本当に参加して良かったと思う。

上先生をはじめ、今回出会った方々には言葉では言い表せない程の感謝を感じている。今後またお会いする約束をして頂いた方もいる。本当に素敵な方々に出逢えた。

正直まだ現実感はない。ただ、手元のパンフレットにびっしり書き込まれた講演内容のメモが、これが現実であることを今もひしひしと私に伝えてくれている。

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