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Vol.006 自費PCR検査の自律的な活用と高齢者の宿泊 保養システムの導入

医療ガバナンス学会 (2021年1月12日 06:00)


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この原稿は月刊集中1月末日発売号(2月号)に掲載予定です。

井上法律事務所 弁護士
井上清成

2021年1月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1.自費PCR検査の自律的な活用

1月8日(金)、1都3県で緊急事態宣言が出された。
新型インフルエンザ等対策特別措置法(「特措法」と略称されている。)第32条第1項に基づく。開始初日の全国の新型コロナ感染者数は過去最多の7882人、死亡78人、重症者826人とのことである。
感染も拡大し、これからはPCR検査の需要がさらに高まるであろうから、「それに応じてPCR検査が拡大されていくであろう。」と思われたが、実はさほどではないらしい。前日の7日の菅首相記者会見では、「検査が必要であれば、」という留保付きであったので、必ずしも今以上に飛躍的にPCR検査を増加させるわけではないようである。
しかし、それはそれでやむを得ないように思う。所詮、感染症法第15条に定める積極的疫学調査の一環としての行政検査(としてのPCR検査)に過ぎないのであるから、予算・人員などの縛りがあるのは当然であり、その縛りの結果、必要性・効率性によって絞られざるを得ない。
そうしてみると、これからは量的には自費のPCR検査が主力とならざるを得ないであろう。しかし、翻ってみると、その方が市民社会の多種多様な需要に即応できて良いのかも知れない。行政検査に頼っていても、それらの需要に応えてくれないであろうし、現に、応えることはできないであろう。この点、自費PCR検査ならば、需要に応じて自律的に活用可能なのである。
特に必要な分野は、先ず、事業活動であろう。事業所(会社や各種施設など)の需要に応じて、事業主負担で従業員・職員やお客さん・取引先に対して自費PCR検査を行えばよいのである。そして、それが健診に準ずるような性格のものであれば、健保組合や都道府県・市町村による費用補助があってもしかるべきであろう。
いずれにしても、事業主や市民個々人が自らの必要に応じて、自律的に自費PCR検査を活用すればよい。
たとえば、特措法第4条第1項には、「事業者及び国民は、新型インフルエンザ等の予防に努めるとともに、新型インフルエンザ等対策に協力するよう努めなければならない。」と定めてある。そこで、この自費PCR検査の自律的な活用を促すべく、「事業者及び国民は、自主的に新型インフルエンザ等の予防に努めるとともに、自らの自律と負担において検査や治療を自発的に受けるなどして、新型インフルエンザ等対策に積極的に協力するよう努めなければならない。」などと改正するのが良い。
2.高齢者の宿泊保養システムの導入

今回の緊急事態宣言において特に注目されるのが、学校の一斉休校は無い、ということであろう。保育園や小・中学校などは、原則として平常通りということである。新型コロナは、子ども自身には余り悪影響が無いようであるから、登園・登校ができて、それはそれで良いことであろう。
しかし、ここで考えなければならないことは、家庭内感染である。子ども自身は大丈夫であったとしても、家庭内に高齢者や基礎疾患を有する者が同居している場合には不安が生じよう。現に、今は施設内感染以上に多いのが家庭内感染である。
病院内ですら院内感染が起きるのだから、家庭内感染を防ぐことは甚だ困難だと言ってよい。そうすると、一時的なことだから我慢して、家庭内を区分・分離することもやむを得ないことであろうか。子どもと若い親、それと、高齢者たる祖父母と基礎疾患を有する者とに、家庭を一時的に区分・分離する手立てもあってもよいように思う。
極端に言えば、家庭内感染とそれによる重症化を予防するために、たとえば、一時的に祖父母が保養地か湯治に出掛けるみたいな感じの手立てである。新型コロナからの疎開や避難というイメージにもとれて、余り感じのよいものではないが、一つのありうる手段のようにも思う。新型コロナから離れ、体を休ませて健康を養うというイメージであるから、「保養」という言葉が適するであろうか。感染状況が酷くなっている期間は、旅館・ホテルなどの場所に家庭から離れて逗留するのであるから、宿泊療養をもじって「宿泊保養」とも言えよう。
当然、自費での自律的な宿泊保養ではあるが、そこそこの期間だと費用もかさむので、割引き制度を施策として導入することが適切である。大きなホテルグループが大胆な割引きキャンペーンを行うとか、国土交通省が公費を投入するなどの方便も考えられよう。
ただ、宿泊保養を実施するに当たって、特に留意しなければならないことがある。それは、宿泊保養に移動する高齢者が地方などに新型コロナを蔓延させないようにすることにほかならない。このことを徹底させるため、宿泊保養には少なくとも事前のPCR検査をパッケージとしなければならないであろう。
なお、細かいことではあるが、主に高齢者が対象となるので、割引きなどの方便の手続の主力はネットではなくて、アナログの方が適しているかも知れない。
3.特措法の改正の仕方

特措法の改正というと、往々にして、規制・強制・罰金などといった規制強化の方向ばかりに流されてしまい勝ちである。しかし、新型コロナ対策の行政手法の本質は、規制行政ではなく給付行政であろう。
そして、その給付の仕方も、直接的な現物給付の方法(たとえば、行政検査としてのPCR検査や宿泊療養)だけでなく、間接的な現金給付の方法(たとえば、自費PCR検査や宿泊保養への補助金給付)も活用すべきである。
給付行政と間接的な現金給付を重視していくため、「新型インフルエンザ等緊急事態に対処するための国の財政上の措置」を定めた特措法第70条を改正して、少し補充を加えるべきであろう。現行法は、「国は、前条に定めるもののほか、予防接種の実施その他新型インフルエンザ等緊急事態に対処するために地方公共団体が支弁する費用に対し、必要な財政上の措置を講ずるものとする。」とあるが、「予防接種の実施」だけでなく、「予防接種、PCR検査、及び宿泊を伴う保養の実施」と補充し、「地方公共団体が支弁する費用に対し」だけでなく「地方公共団体、事業者及び国民が支弁する費用に対し」と補充するのが良いと思われる。
〈今までの新型コロナ関連の論稿〉

Vol.244「すべての医療機関に前年対比の収入減少額を補填して医療崩壊を防ぐべき」
(2020年12月7日)

Vol.235「一般市民法的センスを込めてPCR検査の議論を」
(2020年11月19日)

Vol.201「新型コロナワクチンには手厚い健康被害救済と医療免責を」
(2020年10月13日)

Vol.187「新型コロナ対策特措法を新型コロナ専用に新たに制定すべき」
(2020年9月23日)

Vol.186「感染症法による新型コロナ過剰規制を政令改正して緩和すべき」
(2020年9月16日)

Vol.165「PCR検査は感染症法ではなく新型インフル特措法の活用によって拡充すべき」
(2020年8月12日)

Vol.147「新型インフル対策特措法を新型コロナに適するように法律改正すべき」
(2020年7月16日)

Vol.131「新型コロナで院内感染しても必ずしも休診・公表しなくてもよいのではないか?」
(2020年6月23日)

Vol.127「新型コロナ流行の再襲来に備えて~新型コロナ患者は「状況に応じて入院」になった」
(2020年6月17日)

Vol.095「新型コロナ感染判別用にショートステイ型の「使い捨てベッド」を各地に仮設してはどうか」
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Vol.080「善きサマリア人の法~医師達の応招義務なき救命救急行為」
(2020年4月23日)

Vol.070「医療崩壊防止対策として法律を超えた支援金を拠出すべき」
(2020年4月9日)

Vol.054「歴史的緊急事態の下での規制を正当化するものは助成措置である」
(2020年3月18日)

Vol.031「新型コロナウイルス感染症が不安の患者に対して応招義務はない」
(2020年2月18日)

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