医療ガバナンス学会 (2021年1月13日 06:00)
株式会社メディエコ研究開発
槇 和男
2021年1月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
昨年11月27日のBS・TBSの『報道1930』で、「北九州市では、感染第1波が終息した後、思いもかけず、その余波(第1.5波)がやってきた為に、感染の疑われる無症状者の殆どを検査する(積極的PCR検査)体制を採った」ということを知りました。実際に陽性者の推移を見ると、その効果があったように思われましたが、「どの程度の効果があったのか?」については、外来の感染者数や社会的活動への制限等の因子がありますので、それほど明確ではありません。そこで、地理的に近い福岡市があまりPCR検査に積極的でないようですので、検査・隔離だけの効果を福岡市と比較して解析を行いました。使ったデータは12月7日までです。詳細は http://www.asahi-net.or.jp/~aw7k-mk/efPCRmaki.pdf ( もしくは http://expres.umin.jp/mric/mric_2021_007.pdf )をご覧ください。下記に要約します。
方法は、文献的に確立している発症日基準でのCOVID-19の感染力時間分布を隔離日まで積分することで、隔離が無ければ実現したであろう二次感染をどれくらい低減できたかを計算するというものです。例えば、発症日に全員隔離したとすれば、再生産数は隔離しない場合に比べて 0.41 倍になります。この評価には発症日から陽性確定日までの日数の分布(隔離遅延分布)が必要になりますが、実際にはデータに不明点が多い為に推定範囲が広がりますので、どうしてもその説明が必要になります。
各市による公表だけでなく、別途福岡県による公表の中にも各市公表のデータに含まれていないものを拾い出す必要が生じました。また、発症日だけでなく、発症したのかどうかさえ不明なケースも多数あったために、それらを既発症とするか無発症とするかによって、無発症者数の推定範囲が拡がりました。発症日不明発症者については発症日の明確な発症者と同じ隔離遅延分布とします。無発症者数からは、文献データに当たって未発症者比率の分布(平均は0.41)を推定し、不顕性感染者を排除して、あり得る未発症感染者数の最大ー最小数を割り出しました。未発症者が後に発症した日も記録がありませんので、1日後と2日後で場合分けをしました。都合4つのケースで再生産数への隔離にる効果(隔離しない場合の何倍になるか)を計算しました。未発症者数を最小に見積もり、1日後発症する場合が一番効果が少なくて(倍率が大きくて)、未発症者数を最大に見積もり、2日後発症する場合が効果が一番大きく(倍率が小さく)推定されます。
福岡市の場合、再生産数が隔離無しの場合に対して、0.90から0.83倍、北九州市の4月までの場合、0.85から0.62倍、北九州市の5月以降の場合、0.76から0.46倍と推定されました。(数値は未発症者比率の推定精度によって変わるが、傾向は変わらない。)
今回の推定には不顕性感染者を排除していますが、最近の2報のメタアナリシスによると、全感染者に対する不顕性感染者比率は 0.17 と 0.20、発症者に対する感染力比は、0.42 と 0.35 と推定されており、無視できないことが判ります。北九州市の場合は無発症者数が多いことから、より多くの不顕性感染者を隔離していることになりますので、今回の結果よりは効果がより大きい筈ですが、その推定は今後の課題です。
いずれにしても、積極的PCR検査が再生産数を下げていることが、ある程度定量的に、判りました。12月8日以降、北九州市は再び積極的PCR検査を始めた様子で、第3波も抑え込んでいるように見えますので、引き続き解析を続ける予定です。