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Vol.010 政治決断で医療崩壊回避のための法改正を

医療ガバナンス学会 (2021年1月16日 06:00)


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この原稿は塩崎やすひさ『やすひさの独り言』(1月13日配信)からの転載です。
https://www.y-shiozaki.or.jp/oneself/index.php?fbclid=IwAR1W9q0_AAOa2GT9tj_3vdbFf4OTv1CqAGVrABA1edfOzoqSeBdux-wKjXQ

衆議院議員
塩崎やすひさ

2021年1月16日MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

本日夕刻、大阪府を含め7府県に緊急事態宣言が追加的に発出された。これまた遅きに失した、との声が私の周りには多い。

官邸コロナ対策本部後の総理会見の最後に、核心を突く質問があった。残念ながら、総理は正面から答えておられなかった。

その記者は趣旨としては以下のような論理を展開した。「総理は今日、国民への協力を多々お願いしたが、政府がこうする、との話は結局出てこなかった」との前置きの後、「日本は、人口当たりの病床数が世界一多い国である一方、コロナ感染者数は米国の100分の1程度。なのに、なぜか日本は医療逼迫、緊急事態。総理は、その理由に関する質問に対し、医療の体制が国によって異なることが原因、と回答したのみ」とした。そして、「しかし、その他国と異なる体制を作っているのは政治であり、政治が法制度を変えさえすれば、体制を変え、問題解決できるのではないか。なぜ医療体制改革のために、通常国会に病床転換のための改正法案を提出しないのか?」と核心に迫った。

これに対し総理からは、医療機関に対しては、豊富にある病床をコロナ病床へ転換するよう、民間病院中心に、経済的支援を提供しながら継続的に働きかけて来ており、政府としてやるべきことをやってきた、と応えられたが、残念ながら、医療崩壊寸前の結果についての責任に言及されることはなかったし、通常国会への法案提出についての回答もなかった。すなわち、今国民が最も望んでいるはずの、医療崩壊回避のための具体的、積極的な政策や法案の提起はなく、その記者が提案した医療法改正について今後検証する、と応えるにとどまった。

厚労省から聞こえてくる声も、総理同様、民間病院に、重症患者の場合、一床当たり最大1950万円の支援をするなど、支援継続とともにさらにお願いする、との流れしか聞こえてこない。

しかし、それでは、事態の打開には決して結びつくことはなく、医療崩壊は避けられないと思う。

この問題を議論続けてきた我々有志議員の医療崩壊回避のための政策・法改正提言の結論は、「感染症有事における医療資源再配分に関する『選択と集中』の徹底」しかなく、各都道府県において、知事中心の要請によってコロナ重症・中等症患者を大学病院をはじめとする公的医療機関(日赤、済生会などを含む)に集中させ、そのための必要人材に関しても、調整を行う、というもの。同時に「コロナフリーの一般病院・病棟」のリスクを軽減し、よって各地域医療全体の崩壊を防止する、というものだ。(「感染症法改正の追加すべき主要条文案のイメージ」 )
昨晩、BSTBSの「報道1930」に出演し、長野県松本市の「松本モデル」こそが医療崩壊を防止する、とのテーマから大いに学んだ。それは、まさに我々の提案と原理は全く同じで、当初からコロナフリーとして最後まで残す病院以外の病院は、経営主体に関係なく大規模病院がコロナ患者を順次引き受け、松本市を中心とする3市5村の医療圏の医療を守り切る、との仕組みだ。それを、法律の後ろ盾なしに地域の指導者のリーダーシップと皆の理解の下での話し合いの仕組みだけで実現しているのだ。ちなみに、日本病院会会長の相澤孝夫先生の病院も、民間ではあるが400床ある中核病院のひとつだ。

日本では、大病院は基本的に公的医療機関であり、医療人材も豊富だ。民間病院は病床数、医療人材も少なく、少しでもコロナ患者を受け入れると、その病院全体が機能低下しがちだ。一方、大病院の場合は、コロナ病床・病棟を完全に切り分けることもでき、その他一般診療を継続しながらコロナ患者受け入れが可能なのだ。

ところが、コロナ重症患者の受け入れ状況を、厚労省が漸く出してきた本年1月7日現在のデータで見ると、東京都内の全ての病院の中で、「10人以上」受け入れている病院は、何とたった4病院。一方、「4人以下」しか受け入れていない病院が360もあり、数多くの病院が散らばって苦労している姿が見えてくる。米国などでは、1病院で50~100人のICU受け入れは当たり前だ。

また、大学病院が太宗を占め、診療報酬も割増しで支払われる「特定機能病院(全国で87病院)では、「10人以上」がたった6病院。「4人以下」が62病院もあり、受け入れゼロの先も、22病院に上るとのことだ。他の類型の病院に比べて実力が相対的に強い特定機能病院(例えば私の愛媛県では、愛媛大学医学部付属病院のみ)による受け入れが余りにも少ないことが明確となった。

こうしたデータから見て、「薄く、広く」の負担で、多くの病院が疲弊し切っている実態が透けて見えよう。

全ての地域で、松本市医療圏のような患者引き受け調整の有力な旗振り役に恵まれ、なおかつ皆が心を一つに譲り合いながら協力体制を組むことは簡単ではなく、時間もかかるから、やはり法律の権限などのバックアップなしには、「選択と集中」の実現は不可能だ。

なぜならば、実は、知事は都道府県立の直営病院に対してのみ業務命令権があり、厚労大臣は国立病院、国立国際医療研究センター、旧社会保険病院に対してのみ法律上、公衆衛生上の緊急時の措置要求権がある。これに対し、80ほどある大学病院や日赤病院、済生会病院などに対しては、コロナ重症患者の引き受けなど病院業務についての指揮命令は、現行法制上、誰もできない。

となれば、感染法改正により、地域医療の責任者である知事や、医療全体の責任者である厚労大臣に、感染症有事の際に、大学病院等を含めた公的病院全体に対し、重症・中等症患者等の受け入れ等の要請・命令権を付与しなければ、コロナ療養の「選択と集中」ができないのだ。

東京都は、昨年の春頃から、コロナ専門病院を都立病院・公社病院に作るべき、と言われながら医療崩壊回避策は取ってこず、ここに来て、広尾病院など600床分の東京都関連病院をコロナ病院として、「選択と集中」に踏み切るという。遅きに失する感があるが、方向は正しい。

今日、厚労省の官房長が、今国会での提出法案のラインアップ説明に来た。その中に、医療崩壊回避のための法律案は何も入っていなかった。改めて、私たちの提案法文案を官房長に渡し、法改正なしに、緊急事態宣言下の医療崩壊を食い止めることはできないことを説き、再考を促した。

日本の医療崩壊は、日本国民の命の選択を迫られることに繋がることを銘記すべきであり、それを回避するためには、政治が決断をしなければならない。

 

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