Vol.011 コロナ病床増加のために本当に必要なことは?
■ 関連タグ
都内民間病院院長 匿名
2021年1月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
コロナ病床について誤った方向性の議論がなされている。
コロナ病床不足は民間が協力しないからだと言う論調だ。
病院数とコロナ病床を設置している病院の比率を比べると、公的病院に比べ民間は明らかに少ないから、この不足を解消するには民間にも協力させるべきとのことだ。
協力しない場合は病院名を公表するとの議論もあると聞く。
明らかに理不尽な話だ。
公的病院でも全てをコロナ対応としているのは、都立系3病院のみであり、多くは1~2割の病床を転換しコロナ対応としているようだ。
これを民間にもやれと言う事であるが、その論拠は果たしてどうなのだろうか。
一つにはこの提案ではコロナ患者は広く浅く分布することになる点が問題だ。
感染症治療においては感染者と非感染者を分けることで新規の感染が出ないようにするのが基本だ。入院患者ではコホートエリアを作り、コロナ患者と一般患者を明確に分ける。
全ての導線を明確に分ける事が重要であり、ダイアモンドプリンセス号でもレッドエリア、ブルーエリア等に明確に分けることで感染拡大を防いだ。
コロナ患者と一般患者を明確に分けるとは、トイレ、洗面所、入浴、歩行を含む全てを分け、間には清潔、不潔を分けるための中間エリアが必要となる。
ただ単純に病室をコロナ病室に変えるだけでは無く、専用のトイレ、洗面、入浴、看護ステーションが必要となると言う事だ。
しかし病院全てをコロナ化するならその心配は全く不要だ。コロナ患者しかいないのだから、導線を分ける必要は無く医療者の感染予防のみに注意するだけで済む。
コロナ患者と一般診療、救急患者を同時に扱うことは感染症の見地に立てば感染リスクとなるのだから、全ての病院で薄く広くコロナ患者を受け入れるよりもコロナ専門病院と一般診療病院を明確化することが一般診療患者への感染蔓延を防ぐ上で理想的だと思う。
皆が平等にコロナを診療すべきとの意見を聞くが、一般患者にコロナ感染リスクを倍加させかねないこの方策が本当に患者にとり正しい選択なのか?
さらに民間と公的病院では設備、人的資源が全く異なる点も問題だ。
民間急性期は医師、看護師を含む人員も最低限としており、使えるスペースは全て診療に転換し、人件費を含む固定費が増大する中で工夫しながら存続している病院が多い。コロナ病床は軽症者~中等症と重症で大きく設えが変わる。中等症までは酸素吸入までで済むが、重症となれば人工呼吸器に繋ぐことになる。
コロナはエアロゾル感染、飛沫感染等が感染伝播の中心とされている。酸素マスクのレベルではエアロゾルはそれ程飛散しないから狭い個室でも診療可能だ。しかし人工呼吸器が使用される時は、室内にエアロゾルが飛散してしまうため十分な換気設備が無ければ困難で、可能なら陰圧室が理想である。我々の病院を例に取ると、駅前で見かけは新しいが建てられたのは古く、個室は7~8平米で多くはトイレさえない。さらに人工呼吸器は無理やり置けても、そこで重症患者の処置は出来ない。
コロナ患者は中等症として入院しても突然急変して重症化することが知られている。
狭い個室をコロナに転用するなど、患者生命に対する責任を考えれば選べるはずもない。
今一度、公的医療機関を統括されている方々にお願いしたい。
医療全体から考えれば今こそ棲み分けを明確に決めて欲しい。コロナ専門病院はコロナに特化し、他の一般診療や救急診療はコロナ以外を見る医療機関で行う。
この2つの機能を明確に分けることで患者の感染リスク低減が得られ、最終的には医療崩壊が避けられる。
ご英断を重ねてお願いしたい。