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Vol.012 感染症法の適用対象である無症状病原体保有者の存在を数多くのPCR検査によって把握すべき

医療ガバナンス学会 (2021年1月19日 06:00)


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井上法律事務所 弁護士
井上清成

2021年1月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1.中国・石家荘市でのPCR検査

中国の首都・北京市に隣接した河北省の省都・石家荘市(日本語だと「せっかそうし」と読むらしい。人口は約1100万人で、東京都の約1400万人に匹敵する。)では、新型コロナの感染が発生し、全市民にPCR検査を実施したらしい。1月9日付けロイター(上海)の「中国河北省省都、地下鉄の運行停止 コロナ感染拡大を警戒」という記事によれば、「当局は1100万人の全人口に対する大規模な核酸検査を実施している。国家衛生健康委員会の発表によると、8日中国で新たに確認された感染者は33人で、前日の53人から減少した。無症状感染者は38人で、こちらも前日の57人から減少した。」とのことであった。

全人口の1100万人すべてにPCR検査を実施したらしい。まず、日本と比較して、その大規模なことに驚く。大雑把な目安としては、後述のとおり、割合的には日本の約20倍以上といった感じであろう。

しかも、その陽性者たるや、1日当りは110人とか71人とかいうのであるから、陽性率はやはり大雑把に見て、0.001%(10万分の1)程度のレベルであろうか(ただし、トータルは、300人から500人以上の水準らしいので、数倍以上にはなっていたであろうが、トレンドにやはり大差はなさそうである)。

そして、何よりも発表の仕方に驚く。感染者33人(53人)、無症状感染者38人(57人)と分けて、発表しているのである。無症状感染者が陽性者全体の52~54%で、約半分を占めているらしい。
日本とはケタ違いな検査数・陽性率だけでなく、「無症状」感染者にも注目して政府は発表をしているようである。特に、この点が目を引く。
2.日本でのPCR検査

厚生労働省発表の「新型コロナウイルス感染症の発生状況」によれば、「上陸前事例」「クルーズ船事例」において、3711人のうちPCR検査陽性者が712人であったとある。陽性率が19%と明らかに高いのは、状況からして仕方ない。ただ、そこには「PCR検査陽性者712人」だけでなく、そのうち「無症状病原体保有者数331人」という人数も明示されている。中国・石家荘市と同様に、やはり陽性者の半分近く(46%)が「無症状病原体保有者」だったらしい。つまり、有症状者とほぼ同数近くが、無症状者として存在していたというのであろう。

今度は、「国内事例」(令和3年1月14日24時時点)を見てみると、「PCR検査実施人数」約572万人のうち「陽性者数」は約31万人とある。日本の人口は約1億2571万人なので、PCR検査実施人数の割合は約4.6%に過ぎない(中国の約20分の1)が、その陽性率も約5.4%とそこそこの水準にあると言ってよいであろう。なお、「陽性者数」のうちの「無症状病原体保有者数」は明示されていない。(「クルーズ船事例」では明示されているにもかかわらず、直ぐ隣の欄の「国内事例」には明示されていないのである。後述の感染症法との関連で、重要な数値なのであるから、今後は十分に分かりやすく明示しておくことが望ましい。)そこで、推測ではあるが、「陽性者数」の約半分近くである15万人くらいが「無症状病原体保有者」であったのであろうか。さらに、PCR検査の未実施者も推測して加えれば、潜在している「無症状病原体保有者」は(単純計算通りならば約300万人だが、そこまでとは言わずとも、)そこそこの人数がいたと言いえよう。
3.無症状病原体保有者は感染症法の適用対象

感染症法第6条第2項第11号によれば、「無症状病原体保有者」とは、「感染症の病原体を保有している者であって当該感染症の症状を呈していないもの」を言う。そして、同法第8条第3項によれば、「一類感染症の無症状病原体保有者又は新型インフルエンザ等感染症の無症状病原体保有者」の2種類についてだけは、「それぞれ一類感染症の患者又は新型インフルエンザ等感染症の患者とみなして、この法律の規定を適用する。」こととされている。

さらに、新型コロナウイルス感染症は一般的には「二類相当」の「指定感染症」であって普通は適用されないはずのところ、この「無症状病原体保有者」については、政令第3条の定めによって特に「感染症法第8条第3項」を適用することとしたのである。

つまり、新型コロナの「無症状病原体保有者」は、感染症法の適用対象なのである。特に若者の行動変容が求められている現在、その「無症状病原体保有者」の中核かも知れない若者の多くにこそ、PCR検査を実施し、偽陰性のリスクも理解してもらって行動の変容を促していくことが、感染症法の趣旨に即しているものと思う。
〈今までの新型コロナ関連の論稿〉

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