医療ガバナンス学会 (2021年2月1日 06:00)
この原稿は憲法とメディア(2021年1月29日配信)からの転載です。
https://www.kempowmedia.com/
稲 正樹
2021年2月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
自民党の二階俊博、立憲民主党の福山哲郎両幹事長は28日、国会内で会談し、新型コロナウイルス対策のベースとなる、新型インフルエンザ等特別措置法案と感染症法の両改正案を修正することで合意した。政府案にあった、入院措置を拒否した人への懲役や罰金など刑事罰は削除されたが、前科のつかない行政罰の過料に切り替えられたため、結局、患者への罰則は設けられる。営業時間短縮の命令に従わなかった事業者への過料も、金額が引き下げられたとはいえ、依然として残ったまま。行政の権限強化に変わりはない。改正案は29日に衆院で審議入り。2月3日の参院本会議で、与党や立憲の賛成で可決、成立する見通しとなった。
こうした事態に、ネット上で反対キャンペーンを始めた毛利弁護士は、「日本の感染拡大の主たる原因が感染者が入院しないことにありますか。市民が疫学調査に応じないことにありますか。事業者が営業時間短縮の要請を聞かずに営業したことによるものですか」と疑問をぶつけ、さらに、コロナ禍を収束させるために立場を超えて一致団結しないといけないときに「分断を生むような法律が有効だと思いますか」と政治家らの姿勢を追及する。
一方、飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)、右崎正博さん(獨協大学名誉教授)、稲正樹さん(元国際基督教大学教授)ら憲法研究者は、有志で反対声明を出す準備を進めている。賛同者が29日現在、65人になった。
生命に対する権利、健康で安全な生活を送る権利は、憲法(13条、25条)で認められ、その保障こそが政府に課せられた最も重要な役割だ。ところが、政府は感染防止のために必要な検査体制をきちんと整備せず、医療機関への支援、感染者の入院、療養施設は依然として不十分。声明文では、今回の改正法案は「不適切なコロナ政策の結果として生じた状況に刑事罰や行政罰、公表などの威嚇で強権的に対応することを可能にする、本末転倒な法案であり、政府の失策を個人の責任に転嫁するものだ」と厳しく批判する。
改正案の罰則については、「社会的害悪が明確で悪質な行為だけを犯罪として法律で定めることができるという適正手続主義(憲法31条)からも問題がある」「憲法31条は刑事手続の規定であるが、刑事手続の規定も行政手続に準用されることは最高裁判所でも認められること、行政目的達成のために必要最小限の権利・自由の制約しか認められないという比例原則に照らせば、改正案に行政罰を設ける憲法上の妥当性には疑問がある」――など、憲法上の欠陥も詳細に指摘する。
苦しんでいる患者、事業者らを罰するという発想。一体、誰のための何のための法律「改正」なのか。「改正」すべきは、政権、政府の考え方の根本ではないか。