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Vol.024 有事に真に機能する法改正実現を

医療ガバナンス学会 (2021年2月4日 06:00)


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この原稿は塩崎やすひさ『やすひさの独り言』(1月17日配信)からの転載です。
https://www.y-shiozaki.or.jp/oneself/index.php?start=5&id=1336

衆議院議員
塩崎やすひさ

2021年2月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

15日(金)、厚労省で感染症部会が開かれ、今国会で早期成立を図ろうという感染症法・特措法・検疫法改正法案の骨子が、様々な異論もあったようだが、結果、了承されたと聞く。これを受けて、明日18日(月)朝8時から、自民党のコロナ本部・関係部会合同会議が開催され、その法案審議が行われる予定だ。

2度目の緊急事態宣言の下、新型コロナウィルス感染症の深刻な「有事」に対処するにふさわしい、感染拡大と経済規制の悪循環を断つ、真に機能する、確かな法改正が不可欠だ。しかし、感染症部会の資料を見る限り、そのままの内容の法改正では、現在の感染急拡大を阻止し、同時に医療崩壊を回避するには、いくつか重要な課題があると思う。

本年明け2日から4本のメルマガにおいて、私なりに考える感染症有事対応に必須の法改正案内容をお示ししてきたが、先週金曜日に示された厚労省案に対し、明日以降、皆の英知を結集し、修正すべき点は修正し、足らざる点は足し、早期の感染拡大阻止と経済と暮らしに活力を取り戻さねばならない、と強く思う。

感染症部会資料を見ると、大きく分けて、3点の重要な点の修正と補足が必要と私は思う。

1.重症等患者と医療資源の公的病院等への「選択と集中」
(厚労省案の内容と課題)
厚労省案では、現行感染症法第16条の2に定める「医療関係者への協力要請」の「要請」に代えて「勧告」ができるよう改正し、コロナ患者引き受けを推進し、正当な理由なく勧告に従わない場合にその旨を「公表」可能とするものだ。

しかし、この条文の「医療関係者」とは、通常、医師、看護師等の有資格者全般を指すものであり、この規定を使ってコロナ重症患者等の受け入れを要請しても、病院組織としての義務や責任を負わせるのではなく、院長(管理者)であっても個人の医師への要請となり、従わない場合に公表しても、それはあくまで個人名公表となるはずだ。

マスコミでは、しきりに「公立病院71%、公的病院83%、民間病院21%」という相対的に民間病院が低いコロナ患者引き受け病院数比率であることを良く取り上げている。そして厚労省も、あくまで民間病院に、より多くのコロナ患者を受け入れさせるために、今回、報酬面でのインセンティブに加え、担保措置として新たに制裁的にこうした「勧告・公表」との厳しい仕組みを導入しようとしている、と聞く。

しかし、医療崩壊に瀕する今、われわれに必要なのは、政府を含め国民が揃って心を一つに力を合わせ、相協力して問題解決を図る事であり、病院数でこそ全体の7割を占める民間病院は、病床数では半分強しか占めておらず、経営体力的にも、人材調達力においても脆弱な民間病院が、有事にあって制裁手段を恐れながら強制されて渋々コロナ患者を受け入れる事が問題解決につながるとは到底思えない。

むしろ、報酬面でも「特定機能病院」として優遇され、人材も豊富でありながら、22もの大学病院が重症患者を一人も受けていなかったり、今でも法的に厚労大臣が有事の要求ができる国立国際医療研究センターが重症患者をたった一人しか受けていない状態を放置している事の方が問題だ。ちなみに東大病院には約1000人の医師がいるが、重症患者受け入れはたった7人だ(いずれも、1月7日現在)。ハーバード大学の附属病院的な存在のマサチューセッツ総合病院は、昨年春、ICUに120人余りのコロナ重症患者を受け入れていたのとは雲泥の差だ。有事にあって、平時の発想は通用しない。

(あるべき法改正の姿)
やはり、それぞれの地域でのコロナ重症・中等症患者引き受けは、1月13日付「独り言」で書いたように、有事に限っての対応として、専門人材的にも、ICU等の設備面でも大学病院や公的病院(地域の実情によっては、これに準ずる相当規模の民間病院を含む)中心で、コロナ病棟の切り分けも可能な大病院に集中させ、この病院だけで必要な人材が足りなければ、他の施設から募るべきだ。同時に、「コロナフリー」の一般医療病院も地域で守り切らないといけない。

従って法改正では、知事と厚労大臣に重症・中等症者の入院につき、大学病院、公的病院等に対し、要請と指示ができるよう明確に法定するとともに、そうした受け入れ病院への公費補助、および他の医療機関からコロナ中核施設に一時的にサポートに入る医師の身分保障などを明確に規定すべきだ。当然、地域によって民間のゆとりがある大規模病院があるならば、ともに重症等患者引き受けを積極的に進めるべきだろう。

2.徹底検査による無症状患者の積極的把握と隔離推進
(厚労省案の内容と課題)
無症状患者が感染拡大の最大の源、とされていながら、病院、介護福祉施設等でのスクリーニング検査を行政検査の対象とすることを明確にせず、検査を単なる都道府県の「努力義務目標」に止めている。また、民間検査センターへの支援導入による検査促進を明確にしていない。

(あるべき法改正の姿)
病院、介護福祉施設等の職員・入所者全員へのスクリーニング検査を行政検査としてできるように法定し、民間検査機関等による検査費用への公費補助を規定すべき。

3、有事の最終責任者・司令塔としての国の位置づけ:「直接執行」により明確化
(厚労省案の内容と課題)
感染症法第63条の2に基づく緊急時における国による都道府県知事等に対する「一般的指示権」を、「緊急の必要があると認めるとき」以外のいつでも発動できるようにする、との案だ。

しかし、「一般的な指示」では、緊急時において、的確、迅速に必要な対応ができず、国民の生命は守り切れないだろう。

(あるべき法改正の姿)
感染症有事にあっては、1.の公的病院への重症等患者の「選択と集中」指示、でも、また、2.の広範かつ大規模な病院・介護福祉施設などでの、全員に対する行政検査としての「スクリーニング検査」実施などが、有事対応として必要でありながら知事が執行しない場合でも、また、特に必要性・緊急性が高い場合に、厚労大臣、特措法大臣が知事に代わって自ら執行できるようにすることが、真の国の司令塔機能であり、感染症有事の国のガバナンスの基本だと思う。この仕組みは、武力事態法にも入っており、動こうとしない知事を批判しても危機回避はできず、国が代わってやるべきことをやって初めて国民を守ることができるのだ。当時野党の民主党は、この事を含め、武力事態法案に賛成している。

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