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Vol.028 世界各国のCOVID-19対応法制と政策から学ぶ(4/4)

医療ガバナンス学会 (2021年2月6日 15:00)


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https://reconnect-europe.eu/wp-content/uploads/2020/08/RECONNECTPB_082020.pdf

この原稿は長文のため4回に分けて配信いたしますが、以下より全文をお読みいただけます。
http://expres.umin.jp/mric/mric_2021_025.pdf

元国際基督教大学教授・憲法
稲 正樹

2021年2月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

◆緊急事態を脱出する

コロナウイルスに対するワクチンもCOVID-19に対する治療法もいまのところない。本稿の執筆時点で確認された時点のケースは世界中で550万⼈になっている。何ケ月ものロックダウン、制限、閉鎖のあとで、国々はいまやどうやって緊急事態から出て行くかについて会話を始めている。社会的・経済的回復を始めるために現在の措置を排除しまたは減少させる長い過程を、どうやってデザインし実施するのかを考える。「地政学的には粉々になった世界」においてそれが必要である。しかし、まったく討論されていない問題は、グローバルなまたトランスナショナルな制度のあり方である。それらは大体のところ決定策定から外されている。 COVID-19と戦うために採用された措置は、政治的国境と国家予算の範囲の両方によって限定されている。これが潜在的に、ウルトラ・ナショナリズムと保護主義(ギリシャ)の新しい時代を牽引している。しかしながら、ナショナリズムがコロナウイルスに対する当初の法的・政治的対応を特徴づけたが、貿易・運動・医学・研究における国際協力は、我々が緊急事態から出る次の段階を決定するであろう。

ひとたび現在の危機が過ぎ去ったときに、諸国家にも国際機関にも憲法的・法的アーキテクチャー、保健と危機対応の準備を検討・審査する機会が生じるであろう。緊急事態の再建において、現在利用できるデータと持続するトレンドの仮定を基礎にして、以下の所見を述べたい。
第一に、緊急事態を宣言することまたは通常立法に依拠することは、権力の乱用の可能性を高くも低くもしない。むしろ乱用に対する法的セーフガードの効果性は、ルールについての執行府の遵守とそれを実施する権力分立の強さにかかっている。第二に、反応の軍事化は犯罪化および比例的でない制裁に強く相互関連しているが、より良い結果とは相互関連しない。第三に、ジャーナリストや医者を沈黙させることは情報の誤りの拡大を導きうる。法の(しばしば正当な)批判に対応しないことまたは二重基準を適用することは、ルールの貧弱な遵守を意味するだけである。第四に、そして最後に、最良のプラクティスを確定するにはまだ早すぎるが、よいプラクティスの証拠が出現している。法的確実性、透明性、明白なコミュニケーション、早い反応に基礎づけられた国家の政策は、より低い死亡率とより早い制限の解除に強く相互関連している。これらの原則はシンプルであり普遍的である。
◆おわりに

以上が、特集シンポジウム ”COVID-19 and States of Emergency”の総括論文の内容である。以上の内容を発展させたものとして、Joelle Groganらはその後、公衆衛生緊急事態のための法の支配と良い統治の諸原則、緊急事態の国内的・国際的反応のすべての側面を支える
8つの原則を、以下のように提唱している*8。

*8 Joelle Grogan & Nyasha Weinberg, Principles to Uphold the Rule of Law and Good Governance in Public Health Emergencies, Reconnect Policy Brief, August 2020. https://reconnect-europe.eu/wp- content/uploads/2020/08/RECONNECTPB_082020.pdf

1. パブリック・コミュニケーションにおける法的確実性と明確性を確保する。
2. 意思決定の透明性を確保する。
3. 国際法および人権基準に準拠する。
<応答の開始 >
4. 迅速で協調的かつ集合的な行動を提供する。
<緊急事態時>
5. 緊急措置が健康危機の解決のみを目的としており、他の政策目標の達成を目的としないことを確認する。
6. 法律、政策、コンプライアンスの質を高めることを確保するために、監視メカニズムを保護する。
7. 外部の(科学を含む)専門家や利害関係者と連携し、国際的な経験から学ぶ。
<緊急事態を超えた行動>
8. 国内および国際レベルでのベストプラクティスの特定と分析に従って法律を改革する。

それぞれの原則は以下の項目から構成される。
第1原則は、
1a. 法的規則と制限はその意味が確実であり、適用において一貫性があり、予期されるものでなければならない。また準備のために行動する必要のある人には十分な通知を行って、変更を事前に発表する必要がある。
1b. パンデミックに関する公共的なメッセージは明確で、アクセスしやすく、一貫している必要がある。
1c. 誤った情報や憶測を避けるために、発展、政策、行動に関する初期のかつ定期的な更新が不可欠である。
1d. 政府は、個人や企業が何をすることができ、いつ行うことができないかを示し、新しい情報や証拠が利用可能になったときに必要に応じて更新する、段階的かつ順序付けられた対応計画の実施と普及を目指す必要がある。
第2原則は、
2a. 主要な意思決定機関のメンバーシップ、および意思決定のプロセスは、一般に公開されるべきである。
2b. 公共政策と法的措置の根底にある科学的証拠と理論的根拠は、公開Webサイトの完全かつアクセス可能なエグゼクティブ・サマリーの形態で利用できるようにする必要がある。
第3原則は、
3a. 国家は、本質的に必要で、比例的で、一時的であり、人権と合法性の原則を尊重する措置のみを導入すべきである。
3b. 国家は、通常適用可能な権限の制約内で可能な限り危機に対応する必要がある。
3c. 国家は、COVID-19措置の違反に対する実力と罰則の不釣り合いな使用を避け、これらの措置の恣意的または差別的な適用を防ぐべきである。
3d. 政府は、脆弱な人々がCOVID-19に対応して講じられた措置によって不釣り合いに影響を受けないように努めなければならない。
3e. 対応措置は、メディアの自由に対する制限を必要とせず、政敵に対する的を絞った使用を可能にするべきではない。
3f. 政府は、国家の監視を拡張する、またはパンデミックに目的を限定しないデータ駆動型テクノロジーの導入に抵抗する必要がある。
第4原則は、
4a. 危機に取り組むための戦略的アプローチの迅速で体系的な政府間の採用は、国家にとって最も有益である。
4b. 地方の状況への適応を促進する集団行動を確保するために、国、地域、地方レベルを横断した行動計画を調整する。
4c. 健康緊急事態において、過小反応のコストは過剰反応のコストを上回る可能性がある。
第5原則は、
5a. COVID-19介入が、緊急事態にのみ対応するように調整されていることを確認する。
5b. 採用された措置が差別的でなく、脆弱な状況にあるグループを保護することを確保す る。
5c. 客観的に正当化され、健康に基づく理由においてのみ治療を差別化し、関連する規則の平等で一貫した適用を確保する。
第6原則は、
6a. 立法府が合理的な調整を通じて可能な限り、通常の機能を継続することを確実にする。
6b. 合理的な調整を通じて通常の司法行政を保障するために裁判所の継続性を確保する。
6c. 緊急事態規制の適用に異議を唱えるプロセスを可能にする。
6d. 緊急事態措置の適用を特に対象とした追加の監視メカニズムを提供する。
6e. メディアへのオープンアクセスを通じて、公共の精査と説明責任を確保する。
第7原則は、
7a. 多国間組織からのガイダンス、特に世界保健機関のガイダンスに従う。
7b. 国際的な経験を確認して学ぶ。
7c. 法的措置の起草において、市民社会や非政府組織を含む幅広い利害関係者からの意見を求める。
7d. 幅広い分野の外部専門家から導入される対策に対する建設的なフィードバックと批判を呼びかける。
第8原則は、
8a. 「緊急事態」宣言に関する法規定を審査する。
8b. パンデミックに関連する保健法の規定を見直し、改革する。
8c. パンデミック中にすべての国家アクターが取った行動を審査して、対応能力、有効性、適切性を確認する。

これらの諸原則に即して、日本の関連法と政策を精査し、コロナの蔓延を終熄させ、いのちとくらしを守る緊急政策の具体化と新自由主義政治に代わるポストコロナの新しい国家と社会のあり方を今後探究していきたい*9。

*9 渡辺治『安倍政権の終焉と新自由主義政治、改憲のゆくえ−「安倍政治」に代わる選択肢を探る』 旬報社、2020年が有益である。

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