医療ガバナンス学会 (2010年6月19日 07:00)
一般の方には、にわかには信じられないでしょうが、厚生労働省の官僚、特に技官が医療者に振るう暴力をお知らせして、それが結局は医療を歪め、その最終的なトバッチリは国民の皆さんがうけることになることを、厚労省の暗部をわかっていただきたいと思います。各事例につきましては、実名を出せば、またその医療者に暴力が向かうことなどを考え、全て実名を出せないのが残念ですが、そこはおわかりください。
平成18年8月に、兵庫県で女性歯科医師の保険の個別指導が行われ、男性の官僚が立場を利用して、セクハラが行われたとして、翌年、彼女は提訴しました。
事実関係につきましては、私は見たわけではありませんが、そのような趣旨での提訴があったことと、そして現在も係争中であります。
患者実態調査(患者実調)とは、歯科で申せば、技官が患者さんの口腔内検査をして、カルテや保険請求と合致しているかどうかを調べることです。これは不正が濃厚に疑われ、保険医取消などの処分がほぼ前提となった監査で行われるのは当然のことです。不正に対して甘い処分をしてくれと言っているのではありません。
しかしこれが、不正の疑いがない、または余りない時点での個別指導の段階においても、資料集めの名目でできることになっています。そのような通達がでており、日本医師会も日本歯科医師会も厚労省と申し合わせを行い、承諾してしまっているのです。その結果、患者実調がどのように利用されたか。
今から20年以上昔、上杉訴訟という裁判が静岡地裁で争われていました。争点は混合診療です。裁判は厚労省の圧倒的不利で展開しました。負ける寸前まで追いつめられた厚労省が取った作戦は、いつ終わるともない延々と続く患者実調です。技官が患者さんの家などまで出向き、口の中とカルテやレセプト(保険請求する用紙)が合致するかどうか調べるのです。聞き取りもします。終了後、患者さんには押印も求めていました。こんなことされたのでは患者さんは来なくなります。兵糧攻めにあい、厚労省が負けるはずの裁判は、結果としては和解となりました。
そうこうしているうちに、上杉歯科の6年毎の保険医療機関の更新の時期がきました。厚労省はこれも拒否。これの一時執行停止(係争中の間の再指定、更新)の提訴もしましたが、今度は厚労省は係争中につき「保留」の措置にでた。保留だから、再指定しないとは言ってないわけで、これでは裁判所も法的判断ができません。しかし、これでは保険診療はできず、上杉歯科は倒産の危機に直面します。さらに追い打ちをかけて、患者実調を繰り返し、負ける寸前の裁判を和解に持ち込んだのです。
厚労省は、このように「患者実調」と「保険医療機関の更新の保留」という武器をもち、意に沿わない保険医をいつでも倒産、屈伏させることができるのです。
1993年に富山県で内科医の自殺事件がありました。「開業医はなぜ自殺したのか」(あけび書房)より引用します。個別指導の指摘事項は、その内容は個別指導としては軽いモノであったそうです。注射や投薬が多いなど、ごく一般的な指摘ばかりで、少なくともこれ一度をもって保険医取り消しになるような事例ではなかったそうです。しかし技官は
・こんなことをしていると、医者ができんようになる
・厚生省の監査にならないとは僕は保証できない
・これでは私の金がいくらあっても足りない
・僕はねえ、厚生省の役人さえ連れてくる権限をもっているんだよ
などの言葉を、指導中、怒鳴りっ放しで言っていたと、自殺した被指導医や立会人は言っていたそうです。医師は鬱病になり、自らの命を絶ちました。これが懇切丁寧な行政指導なのでしょうか。技官の恫喝が自殺に至らしめたのです。
2007年に東京都港区で当時57歳の開業歯科医師の自殺事件がありました。私のHPから一部引用します。
http://www.saturn.dti.ne.jp/~thu-san/homepage/toukou59.html#629
2006年・・・・・
4月21日 個別指導(1日目)2時間行い、「中断」となる
2人の指導官から次のような発言がありました。
1.こんなことをして、おまえ全てを失うぞ!
2.今からでもおまえの診療所に行って調べてやってもいいぞ、受付や助手から直接聞いてもいいんだぞ!
最初の指導は、まさに恫喝で終始しました。
9月 問題と思われる患者リストを提出。
12月 指導「再開」の電話連絡があった。
2007年・・・・・
1月19日 個別指導(2日目)30分で「中止!」
カルテに不足があるとして後日持参するよう指示を受ける。
(2007年3月8日同)「指導は終わった」と言われた。
3月9日 「医療機関指導について」との連絡でカルテを持参(事務対応)
9月6日 M先生のもとに監査の通知着
10日 自殺未遂を行なう 発見され病院に搬送
12日 退院 自宅療養 15日 診療所に行く
17日 自殺 18日 朝、奥様が発見 20日 監査(予定)
最初の指導から約1年半後に監査の通知。苦しみを大きくし、長引かせるためにこれだけの期間を空けているのです。保険医取り消し処分を行うにしても、もっと迅速に行っていれば、自殺は防げたはずです。ワザとやっているのです。自殺未遂により入院し退院した後、9月20日の監査を延期するよう奥さんが東京社会保険事務局に頼みましたが、回答はありませんでした。鬱病を患った後の悲惨な自殺でした。日歯と都歯は全くのダンマリを決め込みました。
末端会員にはこのような仕打ちをしながら、あの橋本龍太郎の1億円授受事件の日歯事件で有罪となった元日歯役員たちには、退職慰労金1848万円、保釈金2000万円、弁護士費用7336万2262円を支払いました。我々は何度も返還要求しましたが、一言の返事もありませんでした。その後、数年も経たないうちに、また東京歯科大同窓会事件が起き、元日歯専務が逮捕されました。これでは日歯役員は犯罪者集団です。この事件のときに、ある者は、個別指導にかかる予定になっていない歯科医に「先生は個別指導にかかることになっている。ついては私は止めることができる。それには金がいる」と連絡する。そして中には金を払う者もいたそうです。最初から指導の予定に入ってないから、指導にはかからない。「私が動いたからだ」と言う、こんなことをしていた役員もいたという話でした。歯科の世界を知る者として、これは「あり得ます」ね。
また、個別指導の際には、歯科医師会の役員が立会うことになっていますが、あまり役員が被指導歯科医を庇ったり、弁明したりすると、「それなら貴方を指導にかける」という技官もいる、それが怖くて、被指導歯科医の立場に立った、あるいは現場の臨床に立つ我々一般歯科医の側に立った発言は非常にしにくいそうです。あるいは、技官の覚え目出度くなることを望んでいるのか、面白いからか、技官と一緒に被指導歯科医を責め立てる歯会役員もいるそうです。
保険医の資格の取り消し処分を受けても、殆どの場合、5年で再指定になります。前述上杉裁判での保険医療機関の更新が6年毎にきますが、これらの5年と6年を裁判中に迎えれば、たいてい医師たちは生活のために、勝てる裁判でも和解します。仕方のないところです。つまり下級審の勝訴の判決は消え、上級審の和解が残ります。厚労省は形の上では負けても、実質的には勝利します。生活を抱えた個人を兵糧攻めにして、苦しめて、負けることはない、心から厚労省に、技官に怒りを覚えます。
最後に私の友人のことを書きます。彼は厚労省と県の共同指導にあたり、それはそれは重箱のスミをつつかれたそうです。歯科衛生士は患者実地指導の後などに業務記録簿を書くことになっております。看護師のマネでもしたんでしょう。彼のところは患者数が多く、毎日てんてこ舞いだったそうです。当然、業務記録簿は仕事が済んでから、または昼休みになります。一人の患者さんに大学ノート1ページほどは書け、ちゃんとやればそれだけの診療情報があるはずだから、と言われたそうです。衛生士にそれを書けと言ったところ、当然診療時間外にやることになり、患者数が多い彼の診療所では、衛生士にとってシンドイことなのでしょう、「それなら辞めます」と言われたそうです。そこで彼は衛生士に辞められたら困るので、毎晩食事が済んだ後にテレビをみながら、業務記録簿を「作文」しているそうです。こんなことに意味があるのでしょうか。こんなことをさせるよりも、彼がもっと診療に打ち込めるようにすることが、厚労省の責務ではないのでしょうか。
難しいことを言ってるわけではありません。一国民として、一市民として、一歯科医師として「暴力は止めろ」と主張することが、この問題の根であると思います。歯科医師というよりも、一人の人間として皆様に知って頂きたかったのです。ご意見などあれば、下記にご連絡ください。
ホームページ 新日本歯科医師会 http://www.geocities.jp/tanus236/
開業歯科医師
津曲(つまがり) 雅美