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Vol.031 自宅療養等も含めた行政の医療提供体制確保措置義務

医療ガバナンス学会 (2021年2月10日 06:00)


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この原稿は月刊集中2月末日発売号(3月号)に掲載予定です。

井上法律事務所 弁護士
井上清成

2021年2月10日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1.措置法・感染症法の改正

この2月3日にやっと、措置法(新型インフルエンザ等対策特別措置法)と感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)が改正された。一般には、やれ刑罰がどうだとか過料ならばどうかとかが中心として、議論されていたらしい。しかし、今回の改正で最も大切なことは、医療提供体制の確保措置に関する法的根拠を補充することだったと思う。

その代表例は、「臨時の医療施設」の定めである。従来は、緊急事態宣言の期間中しか開設も維持もできなかった「臨時の医療施設」が、今回の改正によって政府対策本部が設置された段階から開設でき、緊急事態宣言の有無にかかわらず、維持することもできることとなった。

法律の条文上は、措置法の「第4章 新型インフルエンザ等緊急事態宣言」の中にあった第48条の「臨時の医療施設」の条文を、ほぼそのまま「第3章 新型インフルエンザ等の発生時における措置」の中に第31条の2として移しただけである。しかし、たったそれだけの措置法の改正によって、新型コロナが流行している間ずっと、国や都道府県には、新型コロナウイルス感染症の患者(無症状病原体保有者も含む。もちろん、自宅療養者も宿泊療養者も含む。)に対する医療提供体制の確保措置を実施する義務が課せられることが明示されたのであった。

新型コロナウイルス感染症自体は、指定感染症(入院・医療や無症状病原体保有者に関してだけは、一類感染症並びとされていたのである。これらに関してだけは、二類並びではない。)から、今回の改正によって、それとほぼ同列の「新型インフルエンザ等感染症」に横滑りしたのである。そのことと相まって、「臨時の医療施設」が恒常的なものとして普遍化したことは、まことに意義が大きい。この点で、有意義な法律改正だったと評しえよう。
2.臨時の医療施設の定め

「臨時の医療施設」について定めた措置法の第31条の2第1項は、次のとおりである。「都道府県知事は、当該都道府県の区域内において病院その他の医療機関が不足し、医療の提供に支障が生ずると認める場合には、その都道府県行動計画で定めるところにより、患者等に対する医療の提供を行うための施設(・・・「医療施設」という。)であって都道府県知事が臨時に開設するもの(・・・「臨時の医療施設」という。)において医療を提供しなければならない。」

つまり、重症者用のコロナ専用病床が不足していれば臨時の病院や有床診療所を造り、無症状病原体保有者や軽症者用の診療所が不足していれば臨時の無床診療所(対面診療、訪問診療・往診、電話やオンラインでの診療、PCR検査その他の諸検査、時には在宅酸素療法も。)を造り、全ての患者に対して、それぞれに適した医療を提供しなければならない、と明記されたも同然なのである。(なお、念のため付言すれば、「新型インフルエンザ等感染症」においても、「無症状病原体保有者」は「新型インフルエンザ等感染症の患者」として取り扱うものと感染症法第8条第3項に定められているが、この点は改正前の「指定感染症」でも「一類感染症」と同等として取り扱っていて同様であった。つまり、改正前も改正後も「無症状病原体保有者」に関しては取り扱いが変わらない。)

これらの諸点について、「逐条解説 新型インフルエンザ等対策特別措置法」(新型インフルエンザ等対策研究会編、中央法規出版、2013年12月30日)181頁においても、「都道府県知事に対し、臨時の医療施設において医療を提供する責務を有することを規定するものである。」「既存の医療施設を使用するほか、それ以外の施設の用途を一時的に変更して使用し、又は新たに仮設の医療施設を設置する必要がある。」などと明言されている。

実際は、「既存の医療機関の敷地外などに設置したテントやプレハブ、体育館や公民館などの公共施設、ホテルや宿泊ロッジなどの宿泊施設などを想定」(同書182頁)しているらしい。国や地方公共団体などの国公有財産(公共用物、公用物、遊休地など)に臨時の仮設病院・診療所を応急に建築することでも十分であろう。特にこの「臨時の医療施設」は、医療法・消防法・建築基準法の一部が適用除外されているので、極めて機動的・柔軟に活用できる。
3.自宅療養や宿泊療養への医療提供

今回の改正では、自宅療養や宿泊療養の法的位置付けも明示された。近時、自宅療養や宿泊療養中の死亡が相次ぎ、その対策が課題となっている。そのような折に、自宅療養や宿泊療養を明文で示したこと自体は、評価に値しよう。

ただ、補充された感染症法第44条の3の各条項は、医療施設でもなく医師が配置されてもいないからなのか、「医療提供」の側面については触れることを避けているように思う。たとえば、同法同条の第2項では新型インフルエンザ等「感染症の患者に対し、当該感染症の病原体を保有していないことが確認されるまでの間、当該者の体温その他の健康状態について報告を求め、又は宿泊施設(…)若しくは当該者の居宅若しくはこれに相当する場所から外出しないことその他の当該感染症の感染の防止に必要な協力を求めることができる。」とされ、そして、「感染防止の協力を要請するに当たっては、その実効性を高めるため」(「詳解 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律・四訂版」厚生労働省健康局結核感染症課監修、中央法規出版、平成28年5月10日)、「都道府県知事は、第1項又は第2項の規定により協力を求めるときは、必要に応じ、食事の提供、日用品の供給その他日常生活を営むために必要なサービスの提供又は物品の支給(…)に努めなければならない。」(同条第4項)と改定された。

しかしながら、改正前の条文は「当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者」(つまり、患者ではない。)を対象にしていたに過ぎなかったのでそれで良かったけれども、改正後の条文は「当該感染症の患者」とその対象を変更したのであるから、「医療提供」が明示されなかったのは、立法技術としていささか当を欠く。したがって、感染症法第44条の3の第2項にも第4項にも、当然、「医療提供」が含意されているものと法解釈すべきものであろう。
4.行政には医療提供の作為義務

そもそも感染症法上、入院勧告や入院措置は行政にとって義務的なものである。感染症法の前掲116頁でも、以前からそのことが明示されていた。「一類感染症、二類感染症及び新型インフルエンザ等感染症は通院治療では対応できない感染症であることから、確実に入院させる必要がある。そこで、強制的に入院させる権限を都道府県知事に与えている。条文上『入院させることができる』とされているが(第19条第3項、第20条第2項)、…権限規定の一般的法制の用例から、『入院させなければならない』という表現にはなっていないものである。であるからといって、裁量と義務は表裏一体の関係にあり、当該裁量権を与えられた趣旨が没却してしまうような裁量権の不行使は違法となり、許されないものであり、状況によっては都道府県知事に入院勧告又は入院措置をとる義務が生じる。」という具合いに断言されていたのである。

今回の措置法の改正でも、第63条の2第2項として、「国及び地方公共団体は、新型インフルエンザ等が発生したときにおいて医療の提供体制の確保を図るため、新型インフルエンザ等対策に協力する病院その他の医療機関及び医療関係者に対する支援その他の必要な措置を講ずるものとする。」という義務的な規定を新設した。

以上のとおりであるから、行政(国、地方公共団体)は、新型コロナ対策として、医療提供体制の確保を図って、そのために諸々の措置をとる義務を負ったのである。PCR検査体制やコロナ専用病床の充実は当然であり、さらには、臨時の医療施設の開設なども含めて、入院治療は言うに及ばず、自宅療養や宿泊療養においても適切な医療を提供しなければならない。

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