医療ガバナンス学会 (2021年2月18日 06:00)
わだ内科クリニック
和田眞紀夫
2021年2月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
ワクチンの有効性を検証することは容易ではない。ワクチンを接種した群と接種しなかった群に分けて統計を取らなければならないからだ。しかし、ワクチンを接種した多くの人たちを注意深くフォローアップしていけば、それだけでもワクチンの効果について推測することはできる。そのためにはワクチンを接種した人をきちんと把握してその後にコロナを発症するかなどの追跡調査ができるようなシステムを作っておかなければいけない。さらには(これまでも散々議論してきたように)多くの人がコロナの検査をすぐ受けられる体制を用意しておかなければ発症者は捉えられない。
にもかかわらず、コロナの検査は必要最小限に絞るという方針を続けていくのであれば、日本におけるワクチンの有効性を検証することは最初から放棄していることになる。医学的なデータを外国にばかり頼っていないで、日本でも(感染研以外の)多くの研究者がアクセスできるような情報収集システムと情報公開を進めてもらいたい。誰がワクチンを接種したかの登録制度は現在、V-SYSというネット登録制度が用意されてはいるが情報公開に関しては閉鎖的で、また医療機関や接種者自身に対して有効性検証のために協力を呼びかけるという努力も全く払われていない。(ワクチンを接種した医療従事者に日誌を付けさせるというのはあまりにも前時代的で周到な準備のもとに行われているとは到底思えない)。
2.コロナワクチン接種における混乱
コロナワクチンの接種方法に関しても問題が山済みだ。練馬区では集団接種に加えて診療所でも接種ができる個別接種を模索していたが、厚労省はファイザー製のワクチンを凍結せずに運搬すると振動のために品質や有効性までが低下する恐れがあるとして、急きょバイクや自転車による運送をしないように通達を出した。つまり、mRNAを覆っている被膜は容易に壊れやすく、そのためにマイナス75℃で凍結保存していたのだ。
厚労省はファイザー社と協議したうえで対応を決めたとのことだが、果たしてバイクと自転車がだめで車がいいというのは科学的な根拠に基づいているのだろうか。車による配送まで禁止したら診療所における個別接種自体ができなくなってしまうことを考慮して、科学的な判断というより政治的な線引きをしたというのであれば到底受け入れられない。車だから安全だという保障はないはずで、解凍後の運搬が危険だというならすべてを禁止すべきではなかろうか。マイナス75℃で凍結したまま運搬すればよいわけで、諸外国での実例に学ぶべきである。
1バイアルから何人分の接種量が取れるかについても紛糾している。通常のシリンジではデッドスペースに薬液が溜まるので、 シリンジのメモリで0. 3mlを吸っても実際はデッドスペース分多く吸っていて全体で0. 4mlぐらい吸っていることになる。ワクチンを少しでも節約して使うためにデッドスペースのない特別なシリンジを使って、1バイアル5人分を6人分として使用する試みが世界でも行われている。ところが日本ではすでに通常のシリンジを大量に発注してしまっていた。
実は当院では日頃からデッドスペースがないシリンジをワクチン接種用として使用している。シリンジに針が最初から付いていて作業自体がとても楽なためだが、針の長さが短くて皮下接種向きだ。しかしこのようなシリンジでも皮下脂肪が少ない人や痩せた人なら筋肉に届くばかりでなく、接種前に皮下脂肪を圧迫すれば筋肉が近づきやすくなる。コロナワクチン用に新たに長い針の付いたシリンジの生産を始めたようだが、すでに大量に生産されているこの既成のシリンジを使うことも考慮すべきだ。
もうひとつ、採取量を節約するいい方法がある。シリンジにあらかじめ0.1ml相当分の空気を吸っておいて、それで薬液をメモリで0. 3mlまで吸えば、ちょうど0.3mlの薬液が吸える( メモリで0.3mlまで引くと空気分も含めて全体で0.4ml になる)。空気をシリンジ内の最後部に移してからそのまま全量を接種すれば、0.3mlの薬液が注入されて0.1mlの空気がデッドスペースに残るので、普通のシリンジでも薬液を無駄にしないで接種することができる。間違って空気が少し入っても静脈注射ではないのでほとんど問題なく、十分検討の余地はあると思われる。ただし、デッドスペースが0.1mlかどうかはシリンジによって異なるのでそれぞれ使うシリンジで確認する必要がある。
今からちょうど2か月前の12月13日にアメリカで先行して医療関係者のワクチン接種が始まった。その後一般市民に向けての接種に移行したが、様々な問題が噴出した。ちょうど今の日本が直面している問題に酷似していてその報告は大いに参考になる。連邦政府はワクチン接種のガイドラインを作成せずに、州政府や市町村に委ねた。地方政府が中心となってインターネット上に多くの予約サイトが設けられたが、詳細な健康データを入力してやっと予約カレンダーにたどり着いたと思ったら、すべての日程が予約で埋まっていて予約ができないという事態が起きた。カリフォルニア州では予約のアクセスが集中して回線自体が接続不能となった(現在は民間のエンジニアの協力を得てアクセス増大負荷にも対応できる予約サイトが出来上がった)。
日本でも多くの一般市民に対する接種が始まった途端に、同様の事態が起きるかしれないことを想定して準備をしておかなければならない。ワクチン接種の予約のための電話が殺到し、電話回線がパンクするかもしれない。「PCR検査が受けたくても受けられない、保健所への電話すらつながらない。」、そんな事態が繰り返されないように十分備えておかなければならない。
ワクチン接種後の副反応に対する相談窓口に関しても同様のことが考えられる。集団接種後に帰宅してから起きた有害事象が発生したら誰がどのような形で対応するのか、そのためのシステムを構築しておく必要があるかもしれない。コロナ自宅療養者がなかなか医療の恩恵にあずかれない状況を繰り返してはいけない。
*ワクチン配布・接種に関してはアメリカでもスムーズではなかった(以下参照)。
「新型コロナウイルスのワクチン不足と、“お粗末な予約サイト”という米国の惨状」
https://news.yahoo.co.jp/articles/e8811dee4564c6215fff951987eddd2dc7916b1f?page=1
「新型コロナウイルスのワクチン接種が本格化すれば、「物流」などの新たな課題が顕在化する」
https://wired.jp/2020/12/18/first-americans-vaccinated-now-hard-part/?utm_source=yahoo.co.jp_news&utm_campaign=yahoo_ssl&utm_medium=referral”utm_medium=referral