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Vol.036 ワクチン接種の問題点~現場から

医療ガバナンス学会 (2021年2月19日 06:00)


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都内民間病院院長 匿名

2021年2月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

新型コロナ患者数は緊急事態宣言前後から比べ大幅に減少している。現場でも発熱患者が明らかに減っていることを実感している。一方入院高齢者や施設入所者では新たな発症者がいまだに見られ一部は重症化、クラスター化している。

この状況を大きく転換させてくれる期待感を持つワクチン接種が始まる。
当初は副作用(副反応)に対する過剰ともいえる報道が多かったが、最近の報道を見ていてもワクチン接種に肯定的な意見が中心になっている。
実際のワクチン接種を行う体制については各自治体に任されており、報道では〇〇モデルと言う自治体独自の取り組みが取り上げられている。
現場での会議に参加している中で感じた疑問を取り上げてみたい。

このワクチン事業は感染の終息のために早期により多くの国民に接種することであり、そのために迅速承認され医療従事者が先行しロードマップが示されている。現場では実際の接種に向けて実務者会議が行われている。ところが会議の場では不思議な話が出る。ワクチンの廃棄はやむを得ないとの意見だ。

集団接種等の大規模接種では接種会場乃至近傍にワクチン保存用のディープフリーザーが設置されている。突然のキャンセルを見込んで多めに予約を入れることである程度は廃棄を避ける事が可能になる。それでもアメリカのワクチンチェイサーでは無いが、キャンセル待ちが必要かもしれない。

一方個人開業医で接種する場合は、冷蔵庫での保存となり保存期間5日間にすべてのワクチンを接種しなければならない。またワクチン接種のため小分けした後では6時間しか使用できない。出来る限り廃棄を無くすように対策が練られているが、予約が突然キャンセルになればその分のワクチンは廃棄するしかないとの判断だ。

ワクチンは貴重なものであり、さらに十分な数を確保できるかも現時点では不透明と言わざるを得ない。それなのになぜ廃棄の話が出るのだ。
廃棄論が出る原因はフレキシビリティの欠如だ。余ったワクチンは翌日等の予約者でも予約外の人間に打つことが疑問視され、付き添い者等の接種区分が異なる住民への接種も推奨出来ないと言われる。

確かに順番待ちをしている方から見れば、順番飛ばしに当たり不公正感が指摘されかねない。しかしこの方々もいずれは接種することになるのだから、廃棄するくらいならその場で接種するのが当然であろう。行政側も何とか早く多くの住民への接種を実施したいと頑張っているが、全国統一様式の集合契約に縛られておりフレキシブルに動くことが出来なくなっている。しかし大事なことは貴重なワクチンを一人でも多くの住民への接種することではないのか。効率を考えるなら、無駄を省くなら、現場の自主的な取り組みも許容すべきではないか。実施するのは現場の自治体と医療者なのだから現場の意見を重視すべきであろう。

17日、首相がワクチン接種事業の全責任は私にあると言ってくださった。本当に有難いと思う。副反応への不安を訴える住民への対応に多大な時間を要することは、川崎市の模擬接種でも証明された。しかし本番の接種現場ではそれだけで済むとは思えない。一部の住民は執拗に安全かと聞くだろうし、一部は責任問題を口にするのではないかと心配する医療従事者は少なく無い。ワクチン接種に二の足を踏む医療従事者がいるのはこのような事例が少なからず起こり、副反応が出た場合は責任を問われかねないと危惧するからだ。

本来予防接種は国が責任を負うものであり、摂取する現場の医療者には責任は無いはずだ。しかし今回は住民の自主的な同意のもと接種が行われる。状態の悪い高齢者は必ずしも打つ必要は無いと説明するようにと言う専門家もいると聞く。確かに説明と同意の上に医療は成り立っているが、今回のワクチン接種は迅速さが求められているのでは無いか?

国の試算では一人3分での接種が考えられており、それに基づいて行政側も接種人数を計算している。国民全体で2億回に及ぶ接種と考えればもっともな話しだ。一方で副反応のリスクとワクチン接種のベネフィットを接種場所での問診で説明するようにとか、予診で異常が認められたら接種せずに精密検査を指示するようになどの文言もある。3分間でどうやって予診、問診、接種を行うのだ。

現実的には公に住民への十分な説明を行った上に、住民が十分に理解出来る説明書を事前に送り、公的コールセンターで質問対応を行っていただく等の方策を実施しなければ3分間での接種など不可能だ。いまさらながらリスクを説明するよう現場に求めるなどあり得ない。現場には心配する住民を相手に短時間でより多くに接種するように求めて置いて、一方で不安を煽る説明をさせる。そんなことをすれば納得するまで聞きたくなるのが人情だろう。特例承認を行ってまで迅速にワクチン接種を始めると決めたのだから互いの責務を果たすべきではないのか。

大事な事は一刻も早く多くの住民にワクチン接種を行うことに他ならない。すでに我々現場は腹をくくり全力で頑張るつもりでいる。覚悟を決めて皆でこのプロジェクトを推進すべきだ。

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