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Vol.037 大麻の医療目的使用を妨げるマリファナ解禁論

医療ガバナンス学会 (2021年2月22日 06:00)


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難治性疼痛患者支援協会ぐっどばいペイン代表理事
日本麻協議会事務局代表
若園和朗

2021年2月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1 はじめに
昨年暮れ、国連麻薬委員会はこれまで禁じていた大麻の医療利用を認める判断をしました。賛成 27、反対 25、棄権1と半数近くの国が反対する中での採決です。日本政府も反対票を投じましたが、厚労省はすでに大麻製剤の治験を認める判断をしていますので(参 1)、それとは矛盾した意思表示です。我が国は、なぜ大麻の医療利用を認めることができないのでしょうか。

大麻(マリファナ等)は乱用すれば社会や個人の健康安全への脅威となる薬物です。しかし、その作用機序が明らかになるにつれ、これまで治療の手立てのなかった患者を救うための医薬品としても期待されるようになってきました。であるなら、モルヒネなどと同じように乱用は禁じ、医療目的だけ認めればよいと考えるのが自然です。ですが、日本だけでなく世界中の多くの国で医療目的使用と快楽目的など非医療使用との切り離しができず歪んだ状況が続いています。

この歪みを解消して必要な患者に必要な大麻の薬効を届けることはできないのでしょうか。以下の文をお読みいただきこの複雑な問題解決のための一助としていただけましたら幸いです。

2 若者の未来を奪うマリファナ解禁論
近年、我が国において若者の大麻の乱用増加が社会問題になっています(参 2)。その原因の一つは、大麻の娯楽目的使用を解禁したいと目論むいわゆるマリファナ解禁論者が、大麻は安全などと SNS などで拡散していることだと言われています。若年層の大麻常用は、知能低下、自殺の増加など彼らの未来に深刻な害を及ぼすとの報告が増えているにも関わらず (参 3)本当に残念で腹立たしい行いです。

3 間違ったメッセージ
そんな中での、国連麻薬委員会の決定です。日本政府などは一定の医療的価値を認めながらも反対し、その理由として、大麻の規制が緩和されたとの「誤解」を招き、大麻の乱用を助長するおそれがあること(参 4)、特に青少年の非医療的使用の増加が心配されることを挙げました (参 5) 。

この国連麻薬委員会の決定について、日経新聞は、「大麻を“最も危険”分類から削除」とのタイトルで報道しました。ですが実際は乱用や中毒の危険性については三段階のうちの最も危険な分類のまま変更しておらず「“医療用途がない”分類から削除」と表すのが「誤解」を避けるためには適切です。大手新聞がこのような「大麻の害は大した事がない」という間違ったメッセージになりかねない形で報道してしまう状況では、日本政府が「誤解」を心配し反対するのも当然でしょう。日経新聞の報道方針に不安と疑問を感じます(参 6)。こうした「誤解」を生む情報があちらこちらに見られるようになっています。

4 賢明な判断を損ねる陰謀論
睡眠薬にしろ、痛み止めにしろ、医療目的のものを目的外に使ってはいけないのは当たり前ですが、大麻の場合それを理解できず「薬になるのだから安全、健康に良い」と解釈する残念な層が一部に存在するため大麻を医療目的に使用することをややこしくしています。

そのほか、「天然のものだから体に優しい」とか、「もともと体内にあるものだから安心」などという合理的とは言い難い理由で害がないかのように語ったり、あるいは、大麻規制の歴史をほじくり返して陰謀論を仕立て上げ、マリファナ解禁論が正義であるかのように喧伝したりする人までいます。

また、深刻な薬物禍に苦しむ欧米の一部の国がとっている「ハームリダクション」つまり、「現実に即した薬物危機の低減政策」の一環で行うマリファナへの寛容化を日本に当てはめるのも的外れです。もちろん、依存症になってしまった患者への治療方針など学ぶべき点は多いことは認めます。しかしそれ以前に、我が国は規制薬物の乱用が格段に少ない薬物禍から守られた社会である(参 4)ことを誇りとして、マリファナ等の蔓延防止に最善を尽くすことが肝要なのではないでしょうか。予防に勝る治療はないのですから。

5 最悪のドラッグラグ「医療大麻問題」
筆者は、7年前“最悪のドラッグラグ「医療大麻問題」”と題し脊髄損傷後の激しい痛みと対峙する患者家族の立場から、大麻の医療目的使用の許可を求める文章を公表しました(参 7)。

それは、ネット上に拡散されましたが、その多くが快楽目的と医療利用をごっちゃに語り、マリファナ解禁を正当化するためのものでした。快楽目的と医療利用では次元が全く違う事柄です。また医薬品を自由勝手に使えば害が益を上回るのは必至で、病に苦しむ患者をさらに窮地に追い込むことになります。

患者を救いたいとの願いで公開した文でしたが、趣旨に反する反応に困惑しました。このようなマリファナ解禁論者の言動があるため、純粋に大麻の医療目的使用を求める患者や医療者は声を挙げづらくなっています。

6 大麻等の薬物対策のあり方検討会
こうした複雑な大麻問題の解決を目指して厚労省は「大麻等の薬物対策のあり方検討会」をこの 1 月に立ち上げました。この検討会を通じて、ほかに治療の手立てのない患者には厳格な医学的な管理のもと大麻が施用できる体制づくりのための方向付けがなされることを期待します。その中で最大の課題とすべきは、安易なマリファナ解禁論の拡散をいかにくい止めるかいうことではないかと思うのですがいかがでしょう。

《付記》大麻とマリファナについて
大麻とは本来、アサ科アサ属つまり植物としてのアサ(麻)の別名で、亜麻(リネン:アマ科)や苧麻(ラミー:イラクサ科)やその他の「麻」と呼ばれる植物との混同を避けるためなどに用いられる名称です。そこから転じて「神社のお札」「アサから作られるマヤク」などの意味に用いられます。この文章では、「大麻取締法(参 8)」上の「大麻」、即ちアサの乱用目的で使用される可能性のある部位である主に葉と花穂とそれから作
られる製品の意味で用いました。

アサから作られるマヤクは、マリファナ・ガンジャ・ハシシなどと呼ばれますが本文ではこれらをまとめて「マリファナ等」または「マリファナ」としました。

【参考 URL】
(参 1) http://medg.jp/mt/?p=8992
(参 2) https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201806/3.html
(参 3) https://newsroom.unsw.edu.au/news/health/daily-cannabis-users-less-likely-finish-high-school
https://www.drugabuse.gov/publications/research-reports/marijuana/what-are-marijuanas-long-term-effects-brain
(参 4) https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000723426.pdf
(参 5) https://www.unodc.org/documents/commissions/CND/CND_Sessions/CND_63Reconvened/statements/02Dec_partI/Japan.pdf
(参 6) https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66935310T01C20A2I00000
(参 7) http://medg.jp/mt/?p=2081
(参 8) https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000124

なお、筆者は、伝統継承目的の麻栽培が認められた地域に生まれ育ち、言わば日本の大麻を守るべき立場にいます。日本の麻の伝統は乱用とは無縁ですが、マリファナ解禁論のあおりを受けて存続の危機にあります。この件については、別に述べさせていただきたいと思います。

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