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Vol. 221 増税するなら全額を社会保障の充実に

医療ガバナンス学会 (2010年6月27日 07:00)


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武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
多田 智裕

※このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)に掲載されたものを転載したものです。
URLはこちら→http://jbpress.ismedia.jp/

2010年6月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


菅直人首相は6月11日の所信表明演説で以下のように語り、社会保障の充実を宣言しました。

「医療・介護や年金、子育て支援などの社会保障に不安や不信を抱いていては、国民は、安心してお金を消費に回すことができません。(中略)他国の経験は、社会保障の充実が雇用創出を通じ、同時に成長をもたらすことが可能だと教えているではありませんか」

菅首相は、巨額の公共投資による経済政策(第一の道)、厳しい市場原理にさらされた中のリストラ断行による業績回復(第二の道)を明確に否定しました。その上で「強い社会保障」を通じて成長を目指す「第三の道」を進むというのです。

「社会保障の充実が雇用創出を促し成長をもたらす」ことについては何の異論もありません。また、「経済・財政・社会保障の一体的建て直し」と財源部分にまで踏みこんで議論しようとしていることは、一歩前進と言っていいでしょう。

しかし、この「第三の道」進め方によっては、「増税だけ実行され、公的医療費増額が全くなされない」という最悪の結果になる危険性もはらんでいるのです。

■議論され始めた増税による社会保障充実

現在の医療財源問題を巡る立場を大きく3つに分けると、以下のようになります。

<第一の立場> 社会保障の政府支出は最低限にとどめ、市場原理に任せる立場
この立場の人たちは、株式会社の医療機関経営参入解禁や混合診療の全面解禁を主張します。しかし、これらが解禁された場合、現在の公的医療は解体され、富裕層しか十分な医療を受けることができなくなるでしょう(コラム「解禁してはいけない『混合診療』」http://medg.jp/mt/2010/03/vol-117.html#more も参照ください)。

<第二の立場> 公共事業などの無駄を排して、その分を社会保障費に当てる立場

<第三の立場> 医療などの社会保障を守るために社会保険料と租税の引き上げを行なう立場

第二と第三の立場は、世界第一位と認められた日本の国民皆保険による公的医療を維持するという方針は同じです。ただし、財源確保の方向性が違います。
第二の立場は、無駄を削ることで財源を捻出しようという考え方です。昨年の衆院選前までは、「天下り廃止と事業の無駄の整理で、財源が10兆円か ら20兆円は捻出できる」と主張していた人たちがいました。しかし、大々的に事業仕分けを行ったものの、目標としていた3兆円にすら大きく及ばなかったの は周知の通りです。

そこで浮上してきたのが第三の立場です。
今回の演説の中で管総理は、「(日本の)財政は先進国で最悪という厳しい状況に陥っています。もはや、国債発行に過度に依存する財政は持続困難」とこれ以上の国債発行による財政調達に難色を示しました。

国債を発行しない以上、財源は増税以外にありません。つまり、民主党はこれまで主張してきた「増税なしに社会保障が再生できる」という第二の立場を捨てて、社会保障を守るために増税を行なうという第三の立場へ転換しようとしているのです。

■増税分はすべて財政再建に回されてしまうのか

JBpressの「日本国債を国内で消化できなくなる日」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/3403)
「ギリシャ危機は日本国債暴落序曲」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/3442)
などの記事に詳しいように、日本国債残高のGDP比は、ギリシャが102%なのに対し日本は180%程度でOECD加盟国の中で最悪だそうです。

管首相が超党派による「財政健全化検討会議」の設置を呼びかけ、消費税増税の議論を始めようとするのも当然でしょう。

しかし、ギリシャでは現在、消費税2%から23%への増税をはじめとする数々の増税、年金減額、年金の支給開始年齢を60歳から65歳に引き上げ、公務員のボーナスゼロなどの政策が取られていると聞きます。
日本より債務GDP比が大幅に低いギリシャであっても、これほどの増税および社会保障削減を同時に行なわないと財政健全化が成し遂げられないのです。

財政健全化を視野に入れた場合には、消費税10%程度ではとても財源としては足りない気がしてなりません。
増税が行われても、医療を含む社会保障費は増加しないどころか、ますます縮小されるのではないかという危惧を感じるのです。

■増税するなら「社会保障に全額当てる」と明言を

民主党は前回の衆院選で「誰もが安い医療費で気軽に受診できる医療システムの維持が負担増なしにできる」と主張していました。しかしここに来て、 その主張を大きく変換しました。社会保障システムの維持に増税が必要なことを明確に打ち出したのは、歴史的転換と言ってよいでしょう。

鳩山前首相は、そう簡単にできない普天間基地移設を「やる」と言い続けました。その結果、今では誰もが「大きく失望させられるのはもう二度とごめんだ」「現実的な話をしたい」と思っているはずです。
増税は確かに現実的な選択肢でしょう。とはいえ、増税分が国債債務の返済に消えるだけでは、国民の暮らしはただ悪化するだけで、全く良くなりません。

私は、民主党は「増税分は全て社会保障費に回す」と公約で明言すべきだと考えています。
まずは社会保障の充実とそれを通じた雇用創出に十分な金額を使う。その上で、もし余るならば、その金額を借金の返済に回すということです。この順番を厳守してほしいと思います。

日本の医療は報酬が公的に決められているため、政府の財政支出が医療の成長にも盛衰にも直接つながります。医療現場で働いているのは、医療職の仕 事に意義を見出し、働きがいを求めて仕事に就いた人たちです。その人たちが、過酷な現場と収入、将来性に失望して辞めていくのをこれ以上見るのは忍びない のです。

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