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Vol. 222 「選定医療機関」制度と医療安全

医療ガバナンス学会 (2010年6月28日 07:00)


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健保連 大阪中央病院 顧問 平岡 諦
2010年6月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


「政府、未承認薬を使用可能に 約200の医療機関で」というタイトルの記事が6月16日に報道された。これは、週刊東洋経済6月12日号の民主党新成長戦略の特集に掲載された仙谷官房長官のつぎの考え、「一定水準以上の病院では安全性、有効性が未確認な医療技術であっても医師と患者の選択に任せる」を具体化したものであろう。

「ドラッグ・ラグ」「デバイス・ラグ」を解消して世界レベルの医療を受けたい、与えたいということは患者・現場の医者の切なる願いである。それを叶えたいというのが上記の新戦略である。「私は能力と判断の限り患者に利益するとおもう養生法をとり、悪くて有害と知る方法を決してとらない。」これは「ヒポクラテスの誓い」の徒弟制度についての誓いに続く、医療に関する最初の誓いの言葉である。上記の新戦略はこの医療倫理の前半に適うことであり、大いに進めなければならない。しかし、つぎの二点が問題であり、これらの解決を図りつつ新戦略を進める必要がある。

第一は、「ヒポクラテスの誓い」の上記後半にあるように「患者を害さない」こと、すなわち医療安全の問題である。
第二は、「病者に対しては唯病者を見るべし。貴賎貧富を顧みることなかれ。(後略)」(緒方洪庵「扶氏医戒之略」)の医療倫理を具体化した国民皆保険制度との関わりである。

(1):医療安全との関わり。

「脱」官僚統制をめざす平成新政府は、医療先進国をも目指すらしいし、目指してほしいものである。そのためには「ドラッグ・ラグ」「デバイス・ラグ」を解消して医療内容を世界レベルにすることが必要である。そしてまた、医療安全を世界レベルに引き上げることも必要である。MRICに投稿中の「医療安全の『基本的考え方』に対する二つの障害」で詳しく述べたので、ここでは要点のみを述べる。

世界レベルとは、医療安全を「個人の努力まかせ」にせず「個人の努力だけでなくシステムで補完しよう」ということである。ご存じの「To Err is Human」という米国IOMのレポートがキッカケとなった考えである。医療ミスは「患者を害する」ことに通じる。戦後、世界の医療倫理観は、医療倫理の遵守を「個人の努力まかせ」にせず「個人の努力だけでなくシステムで補完しよう」へと変わってきた。この医療倫理観のもとに「個人の努力まかせ」にしない医療安全観が持ち込まれ、容易に「文化」となっているのである。これが世界レベルである。

日本ではいかがであろうか。医療現場では「患者を害さない」ために「To Err is Human」を実践しようと努力している。しかし、上記の医療安全観を「日本の文化」とするための障害が二つある。それは医療法第6条の10.と日本医師会の医療倫理観である。

まず医療法第6条の10.の構造である。国(政府、官僚)は病院管理職に、病院管理者は現場の医師に医療安全の責任を押し付ける構造、すなわち「病院の管理システムを利用して、個人に努力を強制」する構造(官僚統制の構造)になっているのである。また「個々の病院の努力まかせ」であり「個々の病院の努力を補完するシステム」は存在しない。
つぎに日本医師会の医療倫理観である。「医師の職業倫理規定」の序文では「倫理は社会的ルールと言えるが、基本的には個人的、内省的、非強制的なものであり、各個人が自覚をもってルールを認識しそれを遵守することが最も大切である(後略)」となっており、医療倫理遵守は「個人の努力まかせ」と言っているのである。医療安全観を世界レベルにするための障害である。

今回の「選定医療機関」制度(仮称)を見てみよう。もちろん具体的な内容を把握しているわけではないが、メディアと通じて見る限り、構造は国(政府、官僚)、病院管理者、現場の医師という従来の官僚統制の構造であろう。安全は個々の病院の努力まかせ、また個々の現場の医師まかせになっているのであろう。これらを世界レベルに持っていくためにはどうすればいいだろうか。

「選定医療機関」制度を「自律医療機関」制度(仮称)とすることである。国(政府、官僚)の責任は「自律と自浄機能を持った医療機関グループ」を認定することと「自律と自浄機能」がキッチリと機能しているかを監視することである。病院管理者の責任は現場の医師グループを認定することと医療安全を監視することである。それぞれの責任を明確にすることにより、現場の医師の、あるいは個々の病院の「個人の努力まかせ」だけでなく「システムで補完」できるのである。こうしてやっと世界レベルに近づくのである。

(2):国民皆保険制度との関わり。

「戦後の復興」を目指した昭和新政府は官僚統制を必要とした。昭和33-34年という早期に国民皆保険体制が導入されたのは官僚統制のメリットである。そして医療倫理に適った国民皆保険体制は、ぜひともさらに拡大していきたいものである。

「自由診療」による高額の医療費問題、「混合診療全面解禁」による国民皆保険体制の破綻、「ドラッグ・ラグ」「デバイス・ラグ」をもたらす承認問題、これらを解決するために出されてきたのが、今回の「選定医療機関」制度(仮称)であろう。それぞれの問題点の一部解決になっていることは評価できる点である。

さらに国民の理解を得るためには、国民皆保険体制のさらなる拡大につなげることが必要である。それには「自律医療機関」制度(仮称)とすること、そしてグループの診療内容を医薬品・医療機器の承認に繋げることである。すなわち診療内容は「医師主導の治験」であり、その費用は患者負担である。患者の負担は二重となる。第一は「治験」の対象となることの医学的負担であり、第二は承認さらに国民皆保険体制への組み込みのための医療費負担である。ともにボランティアである。そうすれば「一部金持ちのための医療」ではなくなり、国民も納得するのではないだろうか。
(2010.6.19.脱稿)

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