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Vol.051 医学部の授業を教員と学生双方にとって有意義に

医療ガバナンス学会 (2021年3月12日 06:00)


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秋田大学医学部医学科 4年
鈴木智也

2021年3月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

●医学部の授業形態に関する問題提起

医学部の授業は学生と教員にとって、メリットがあるのだろうか。2019年4月に秋田大学へ学士編入して以来、この疑問が消えることはなかった。本記事における結論を先にいうと、教員及び学生双方の貴重な時間と医学の理解のために、基礎知識のインプットのため授業は、(1)外部機関に委託する、(2)大学独自のオンデマンドにするのが良いのではないか、ということである。他の大学の事情や代替案があると思うので、この記事を読んで頂いた方々の意見を是非聞いてみたいと思っている。次に、何故このように思ったのか、私の体験を書きたい。
●私の授業へのスタンスと実体験

私は今年度新5年になるが、すでに実習が始まり座学は一部を除き受ける必要がなくなった。2年〜4年を振り返ると基礎と臨床の授業は、出席はしていたものの、まともに聞いていない。もちろん、初めから意図的に聞こうとしていなかったわけではない。27歳でわざわざ医学部に学士編入するからにはそれなりの勤勉さは入学当時はあった。しかし、月曜から金曜のほぼ毎日朝8時50分から夕方17時10分まで、一部見にくい資料やわかりにくい説明を受け身で聞き続け、集中力も続かず疲れてしまった。特に3年〜4年の臨床科目に関しては、授業の内容が全く記憶に残っていない。

では授業を理解せず、試験はどのように乗り切ったのか。当時、ある予備校が無料で臨床の授業を公開していてくれたので、それを見て基礎的な知識と理解を得た。あとは市販の参考書、過去問や友人らから得た試験情報である。それ以来、基本的に予備校頼りの学習となってしまっている。

特にそう思った出来事があった。3年のある臨床科目では、授業担当者が授業資料を工夫し、一見わかりやすい資料を作っていた。しかし、その資料を復習していると、試験前に頭が余計混乱し、整理できないまま試験1週間前に突入した。順位が常に一桁台の友人も同じようなことを言っていたので、私の感覚は間違っていないと思う。焦り焦った私は予備校の講義動画をみた。その結果、授業資料の復習をしなくとも、8割近く点数が取れた上にその科に興味がもてた。その講座と予備校の大きな違いは色々あったが、一つは覚えにくく似たような疾患を対立させて説明していたかどうかにあったと思う。
●授業の改善点

次に授業形式についての具体的な問題と改善点について述べたい。まずは授業時間が長い。80分が1コマであるが、80分喋り続けられ誰が聞きつづけるだろうか。映画並のストーリーがない限り、私には厳しい。個人的には80分を40分毎に分け、20分を授業、20分を演習にし、その演習問題から試験に出すというスタイルがシンプルだと思う。コア・カリキュラムをこなすためには適さないかもしれないが、工夫の余地はあると私は思う。基礎のある講座では、教授が新しくなったが、その評判が良かった。それは基礎知識インプット→問題演習という一定リズムがあり、試験問題もその問題演習を完璧にしておけば問題ないという話まであったからである。

次に、授業内容のまとまりのなさである。科目や先生によってスライドの形式も異なっている。秋田大学として、ある程度統一したフォーマットでも作り、それに当てはめて授業を作るのは大学らしくないのであろうか。また、紙資料の印刷具合の悪さも目立つ授業もあった。何度も改善を求めたが、頑固な教員もいた。今は大学全体として電子媒体による配布が主流となっているようなので、印刷の問題はおそらく改善されたようである。
●秋田大学の授業評価システム

秋田大学では主に1年〜2年で基礎医学、3年〜4年前期で臨床医学を学ぶが、これらの授業に関して、学生が教員の授業を評価し、評価の高い先生を表彰するシステムがある。これは学生の意見を取り入れ、授業をより良くするための評価システムである。個人的には素晴らしいと思っている。しかし、担当者によると学生側の回答率も低く、良い先生のみを評価するアンケート形式であり、授業がわかりにくい先生の授業の質を上げるためには使われない。これは担当者側の「悪い先生を吊るし上げることは、望ましくないし、授業が下手だと公表されるような大学には人は集まらないから」との考え方によるもので理解できる。ただ、授業が上手い先生は常に同じであり、表彰される先生はいつも固定メンバーであることが多い。そもそも授業に工夫をしたところで、先生方の給料が上がるわけでもなく出世に関わるわけでもないため、力が入らないのは自然なのかもしれいない。
●大学教員の実情

実習をしていると、臨床の先生方がいかに忙しいか伝わってくる。朝からカンファ、朝回診、外来、夕回診、急変対応、手術もある科もある。これに加えて、研究と教育も加わる。大学や診療科によって、医局員数や忙しさは違うのはもちろんであるが、大学病院勤務の職員の優先順位は、臨床>=研究or学会等>>教育のように思えてしまう。それならば、教育は専門機関に任せ、授業資料作成や講義の代わりに、もっと有益な時間の使い方があるのではないか、と私は考えてしまう。一生懸命授業準備しても学生側はそれを受け止めきれないからである。私だけかもしれないが。。。
●医学教育に関する最近の動向

上記では秋田大学に絞った話をしてしまったが、他の大学ではどのような動きがあるのだろうか。文部科学省のHPによると、平成30年度厚生労働科学研究費補助金により「ICTを活用した卒前・卒後のシームレスな医学教育の支援方策の策定のための研究」【1】が行われ、いくらかのチームに分かれて研究成果がまとめられている。例えば、自治医科大学の松山らの「コロナ時代のオンライン医学教育」【2】によると、オンライン授業は、視覚への負担や学習状況が見えにくいというデメリットがあるものの、各々のペースで学習ができ、予習・復習がしやすいというメリットがあると報告している。また、成績下位者に対する有効性も感じられたと報告しており、オールジャパンでメディア教育コンテンツ作成体制を構築していくべきとも伝えている。(大変興味深い取り組みだと思い、私が関係者に連絡を取った際、門前払いを食らってしまったが、今後もこのような議論がされることを願っている。また学生側の意見も聞いてみたいところである。)
●新しい授業形態導入の提案

以上を踏まえ、冒頭でも述べたように、教員と学生双方にとってより良い授業形態の具体的なアイデアとしては次の2つを考えている。
1つ目は医学部の基礎医学と臨床医学は、予備校等の外部機関に授業を委託して、オンデマンド等でいつでもどこでも無料で、何度も繰り返し聞けるせようなシステムである。そのようなメリットは様々あるが、大きくは大学教員と学生の時間の効率化と明快な授業の提供にあると考えている。教員と学生、双方によって自由な時間が増える結果、教員は研究や臨床に費やす時間が増えるかもしれない。学生は学生のときにしか経験できないことに挑戦できるかもしれない。プロの講師が授業を行うことで、授業のわかりやすさも担保され、理解しやすい授業を聞くことにより、医学への興味を失わずに、ある程度のモチベーションを保って、医学の勉強を続けられるかもしれない。大学らしくないという方もいるかも知れないが、基礎知識のインプットのための資料作りや講義時間を節約する代わりに、参加型の基礎研究活動や臨床推論などの時間が増えるかもしれない、また夏、冬、春の長期休みを増やし、学生が海外渡航など有意義な時間を過ごすことにつながるかもしれない。
2つ目はほとんど同じであるが、予備校ではなく、大学が独自に授業資料や形式を統一化させることである。ウェブクラスもあまり有効に活用されていないように見受けるため、これらのシステムを有効に活用し、いつでもどこでも何度でも授業が見れるシステムを構築する。初めは大変かもしれないが、一度作ってしまえば更新も楽になるのではないか。
●最後に

以上のことを実現するのは、相当な時間と労力がかかるかもしれない。言うは易く行うは難しである。ただ、一度非医療系大学を卒業したものとして、医学部の授業や教員の多忙さを見ていると、教員が非常に気の毒に思えてくる。ただでさえ、医学部の教員は多忙そうであるのに、その時間を授業に充て、一生懸命授業をするが興味をもってきいている学生は何人いるだろうか。この度は私の浅はかな経験と知見から、以上のような問題提起と提案をしてしまった。ぜひみなさんの意見を聞いてみたいと思っております。最後に、私の疑問に耳を傾けてくれ、発信の機会をくれた上先生、また、私の意見を聞き、ともに議論してくださった秋田大学の教員らに感謝申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。

(私の大好きな秋田大学医学部医学科の教員と学生がもっと充実した時間を送れることを願って。)
【1】特集 パンデミック下の医学教育―現在進行形の実践報告― 【3-2 教育リソースの共有】 医学生臨床実習,Pre-,Post-CC OSCE の代替コンテンツ ――河北班からの提案――

https://www.jstage.jst.go.jp/article/mededjapan/51/3/51_216/_pdf/-char/ja
【2】日本医師会COVID-19有識者会議、コロナ時代のオンライン医学教育

https://www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp/topic/3020

 

著者情報

秋田大学医学部医学科 新5年 鈴木智也

趣味:ブレイクダンス、スノーボード
略歴(兵庫県尼崎市生まれ、東京都武蔵野市出身)

2009年03月 拓殖大学第一高等学校 卒業

2009年04月 電気通信大学 電気通信学部 量子・物質工学科夜間コース入学

2011年04月 休学(主に中国とタイに半年ずつ滞在)

2014年04月 電気通信大学 電気通信学部 量子・物質工学科夜間コース卒業

2014年10月 青年海外協力隊 スーダン コミュニティ開発 派遣開始

2016年10月 青年海外協力隊 スーダン コミュニティ開発 任期満了帰国

2018年04月 秋田大学医学部医学科 2年次学士編入学

2021年03月 秋田大学医学部医学科 新5年次在籍

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