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Vol.052 医学関連出版物と著者の専門性保証。病理専門医のサブスペシャルティーの必要性

医療ガバナンス学会 (2021年3月16日 15:00)


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日本バプテスト病院 中央検査部
中峯寛和

2021年3月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1. はじめに
医療に携わる医師の大半は専門医資格を保有している。国が直接管理する例えば病理解剖資格(死体解剖保存法にて規定)などを除くと、専門医資格は当初はそれぞれの領域を対象とする学会ごとの基準により認定されてきた。筆者が保有する病理専門医資格は、1978に発足した日本病理学会認定病理医制度によるもので、最初の5年間は暫定措置として書類審査により1,143名が認定された1)。この資格は、その後は試験により認定され、資格名称が病理専門医に変更されて現在に至っている。因みに筆者は経験年数が1年足りなかったため、第1回試験にて資格を取得した[筆者の認定医番号(後の専門医番号)は1144番である]。

2. わが国の専門医制度
学会ごとに独自に運営されてきた専門医制度は、2018年度からは日本専門医機構により新専門医制度として統括されることになった。新制度では、内科、外科など19の「基本領域」と、それらの下位に29の「サブスペシャルティー(サブスぺ)領域」が設けられている。サブスぺ領域の専門医資格は、特定分野の狭い範囲で高い専門性を保証するものと言え、一例を挙げると、新型コロナウイルス報道で、医学的解説を担当する専門家のキャプションにある「感染症専門医」がそれである。このような専門医表示により、国民が「テレビなどで取り上げられているスーパードクター」についてイメージする専門医像は、「専門医だと思う」50%、「多分専門医だと思う」30% とのことである2)。

3. 日米の病理専門医制度比較
わが国では病理専門医は上記19の基本領域のひとつであるが、病理サブスペ領域は設けられていない註)。一方米国の病理専門医制度は、American Board of Medical Specialties3) のなかのAmerican Board of Pathology (ABPath、1936年設立) により管理・運営される。そこでは、専門医資格はSpecialty Certificates(2つのPrimary Examinations のいずれかに合格)およびSubspecialty Certificates(11のSubspecialty Examinationsのいずれかに合格)により保証される。資格の更新はContinuing Certification Examinationsにより管理されるが、米国は医療訴訟においても“先進国”であるため、高齢化による診断力低下が危惧されるなどの理由で、サブスペ領域についてはこれを受験せず、資格を自主返納する病理医もいると聞く。
註) 2018年に始まった分子病理専門医制度は、サブスペ資格の一つと言えなくはないが、特定の検査法に対する専門性を保証するものであり(特定の臓器組織を対象とするものではないため)、上記29のサブスペ領域とは位置づけが異なる。

4. サブスペ資格による専門性の保証
専門医制度の目指すところが医療の質向上であることは間違いないが、専門医資格の具体的意義は幾つかある。その一つとして、医学関連出版物の著者の専門性保証が挙げられる。医学関連出版物のうち「総説」あるいは「成書」は、出版社あるいは編者からの執筆依頼によるものが大多数を占める。依頼を受諾して作成された原稿のほとんどは厳密な査読(peer review)を受けることなく、なかには全く査読されないまま発刊されるものもある。このような出版物のうち専門性の高いもの読む際、とくに患者の診断と治療に直結する内容の場合には、その信頼性について著者の専門性を確認する必要がある。そのための判断材料の一つに、著者自身が関与した論文(peer reviewされたもの)の引用があるが、そのような引用文献が全くない総説もある。因みに筆者自身も、これまで執筆した総説・成書のなかにこれに該当するものがあり、そのうちには、今から思うと執筆依頼の辞退4) を考えなかったことに恥ずかしさを覚えるものもある。このような総説の場合、臨床医学関連のものでは、著者の専門性は専門医サブスペ資格がその判断材料の大きな一つとなる。一方、診断病理学は医療のほぼ全領域を対象としているにもかかわらず、病理専門医サブスペ制度がないため、これに関する出版物の著者が、実際にその分野を専門としているかどうか、客観的には不明である。
具体に例を挙げると、各種「癌取扱い規約」がある。我が国のがん医療はほとんどの場合これに基づいてなされるが、著者は当該領域を“専門とする”複数の臨床医と複数の病理医である。ところが、現在27領域について刊行されているなかで、「造血器腫瘍取扱い規約」以外には、査読されていることを示す記載は見つからない5)。また、それらの大半では、著者自身が関係する論文の引用はおろか、引用文献自体が殆どないのが実情である5)。しかし、論文の質・量と当該分野の診断力とは、必ずしも並行するわけではないため、著者の専門性について別の判断材料が必要となり、その一つとしてサブスペ制度がクローズアップされるわけである。これにより、規約執筆を担当する臨床医の専門性は明らかとなるが、病理医の場合はサブスペ制度がないため、そうはならない。著者の“ネームバリュー”は客観的とは言えず、今後の医療の担い手となる若手には通じないことが多い。

5. わが国の病理サブスペ制度
わが国の病理サブスペ制度設立については、特に神経病理、皮膚病理、および血液病理分野において、以前から数多の議論がなされてきた(この3分野はいずれもABPathのサブスペ領域に含まれている)。
このうち神経病理分野では、長年にわたる議論を経て2019度に、日本神経病理学会による神経病理認定医制度が発足した6)。その規程によれば、第1回認定は2022年4月に開始されると定められている。この資格は、病理専門医とは独立している(病理専門医でなくとも取得できる)ため、病理学会にとっては不本意かもしれないが、筆者は病理サブスペ制度設立という点では一歩前進と受け止めている。
皮膚病理については、調べた限りでは専門医制度は未設立であり、その一方で国際資格を取得している皮膚病理医が少なくない。そのような資格の一つ International Committee for Dermatopathology/Union Européenne des Médecins Spécialistesを保有する一人によれば、「この資格はヨーロッパで就職する際に有用であると聞いているが、日本国内ではほとんど意義はないと思う」とのことである。しかし、これまで述べてきたように、専門性を保証する点では大きな意義があると考えられる。
血液病理については、日本血液病理研究会がサブスペ制度設立を目的として1998 年に立ち上げられたが、学術情報の発信はともかく、サブスペ制度設立に向けての活動はかんばしいものではなかった。しかし、ここにきて日本リンパ網内系学会が、血液病理認定医制度設立を模索し始めている。この制度は、神経病理認定医制度とは異なり、病理専門医であることが前提(基本領域の下位にあるもの)として考えられているため、新専門医制度のサブスペ領域へ組み込まれることが可能である。

6. おわりに
病理分野のサブスペ認定医制度設立は、査読がなされない病理関連出版物を読む際の、著者の専門性(内容の信頼性)を担保する意味でも必要と考えられ、以上の3領域以外の領域についても、その制度設立が望まれる。
文献
1) 石河利隆。病理と臨床 1995, 13:457-61
2)(社)日本専門医制評価・認定機構「専門医に関する意識調査」調査報告書内閣府の調査報告書。
3) http://www.abms.org/
4) 難波紘二:「ノー」と言える総説執筆者。病理と臨床1990, 8:1091
5) 中峯寛和:病理医からみた癌取扱い規約の問題点とその解決に向けての提案。診断病理2020, 37:84-91
6) http://www.jsnp.jp/pdf/ninteiiseido1.pdf

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