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Vol. 228 学習障害

医療ガバナンス学会 (2010年7月5日 07:00)


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東京女子医科大学先端生命医科学研究所 田中祐次
2010年7月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


【学習障害とは】
最近、発達障害・学習障害に関する興味深い本(精神科セカンドオピニオン2~発達障害への気づきが診断と治療を変える~)が出版された。本の中で驚くべき現役の精神科医の訴えが書かれていた。それは、発達障害を別の精神的疾患と診断され、本来きくはずのない抗精神病薬などを大量に投与され続けられた患者がおり、その結果、症状は治まらず治療の副作用が生じているというのだ。

もともと、学習障害(Learning Disorders,Learning Disabilities, LD)という言葉は、1963年マミュエル・カークにより提唱された。日本では1999年に旧文部省が学習障害を以下の通りに定義した。
「学習障害とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。」

学習障害における学習の遅れなどは、周りの人から理解されにくい。その為、両親や教師の叱責、友人などからのからかいやいじめにあいやすい。その結果、本人の学習意欲が低下、強い劣等感を感じ、時には不登校や暴力行為など起こすことがある。この様な背景があり、文部科学省による小学・中学・高校の学習障害の生徒数の調査が行われた。この調査では、担任教師が知的発達に遅れはないが学習面や行動面で著しい困難を示すと考える生徒を学習障害と考えた。そして、調査の結果から、小・中学校 6.3 % 、高校 2.2% もの学習障害の生徒がいることが明らかとなった。成長とともにその割合は減るものの、高校生でも約ひとクラスに一人の割合で存在していることは驚きである。

【医療と学習障害】
医学領域では軽度発達障害をさす用語として「微細脳機能障害(Minimal Brain Dysfunction, MBD)」を用いていたられていた。しかし、診断基準などがあいまいなためにMBDという用語は使わなくなった。現在では、多動などの行動の問題を行動障害(Attention Deficit / Hyperactivity Disorder,ADHD)と、学力を中心とする学習の困難さを学習障害に区別している。1992年には、日本LD(学習障害)学会(http://wwwsoc.nii.ac.jp/jald/)が設立された。正会員5900名。医療者だけでなく、心理、教育に関わる人、また研究者だけではなく実践者も多く会員となっている。このことは、学習障がいが医療だけではなく社会全体の問題であることをあらわしている。学会では、医療者、研究者はまだ解明されていない原因の究明や治療の開発、教育者は学校、そして社会へ適応できるような検討が行われている。

一方、精神科医は治療として抗精神病薬最少量とし精神療法や居場所探しをすすめている。また、医療だけではなく、学校レベルでの対応も重要と考え、これまでとは違った展開に変わると予想している。更にその障害特性を把握し、あるべき共有・共生を目指すためには、精神医療従事者のみならず、教育関係者も学習障害の事を共に学ぶことが大切であり、特に、不登校への対応では、これまでのような画一性を脱して、柔軟に対処していくべきと考えている。

【教育と学習障害】
教育界の一例として、実際に、この様な学習障害の生徒が多く通う星槎国際高校、そして併設されている星槎大学を紹介する。
星槎国際高校、星槎大学の創設者である宮澤保夫氏の原点は、1972年に始めたツルセミ(当初は鶴ヶ峰セミナー)という塾だ。生徒はわずか2人のスタートであった。子供中心、と考える宮澤氏は、ツルセミを有名高校、有名大学を目指す学習塾ではなく、集まる子ども達の個性を生かしながら学ぶ場とした。数学が得意な生徒は他の生徒に数学を教え、音楽が得意な生徒は他の生徒に音楽を教えていた。子どもはみな自分の得意なことがある。それを生かそうという方針だ。たった2人からはじまったツルセミは、その後、人々の評判をよび、口コミで広がり、たくさんの子ども達が通うようになっていった。

宮澤氏は学校で「学習障害」の問題を持つ子ども達に出会っていた。その生徒の居場所を作るため、日本で始めての学習障害や不登校傾向の子どもを対象とした星槎国際高校を設立した。星槎国際高校は通信制高校である。通信制高校では年間のうち定められた日に学校に登校して授業を受ける。これをスクーリングと呼ぶ。星槎国際高校ではスクーリングを週2日行うことを基本としているが、週1日と少なくてもよく、その逆に、週3日、4日、5日でもよいとした。その選択は生徒側に任されており、いつでも変更可能となっている。このように、学習障害の生徒、不登校の生徒など登校することが苦手なこどもが学べる環境として「通える通信制高校」を設立した。 更に、星槎大学では、通信教育により学習障害や不登校の生徒にたいする教育者が勉強するためのコースが設置された。こうして、星槎大学では、学習障害の子供に対する教育の方法の講義がはじまった。

有名人の中にも学習障害を持つと言われた人はいる。うまく言葉がしゃべれなかったアインシュタイン、母親に知的障害と思われたエジソンなどがそうだ。近年では、米国俳優のトム・クルーズは自分自身が学習障害であることを告白した。2003年7月26日、アメリカ合衆国ミズーリ州スパニッシュレイクでの出来事だ。学生時代に本がきちんと読めずいじめられ、俳優になって台詞を覚えることに苦労していたという。しかし、彼にあった教育を見つけ、ご存知の通りハリウッドスターになっている。

【まとめ】
学習障害に関しては、まだ治療方法が確立していない。医学では精神科医が診断の確立と治療の開発を進めている。また、教育現場の取り組みも始まっている。今後は、医療や教育などが共に効果を上げ、学習障害の子供たちが社会で活動できるようになることを望む。

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