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Vol.089 東京のコロナ感染者数報告における異常な状況、民間検査数の急増と行政検査数の激減

医療ガバナンス学会 (2021年5月11日 06:00)


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わだ内科クリニック
和田眞紀夫

2021年5月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

東京のコロナ感染者数の報告が異常なことになっている。東京だけ突出して無症状のコロナ感染者数の割合が異常に多くなっているのだ。これは大阪や全国のコロナ感染者の大半が有症状者で占められていることと対照的だ。その原因は東京では民間検査会社での検査が急増していることと、保健所か取り仕切る行政検査、主に症状のあるひと(およびその濃厚接触者)に対する検査が激減していることによる。以下に当院で実際に体験した例を挙げて説明する。

1.民間の検査数の急増とその舞台裏

連休前にK工務店が運営する民間PCR検査でコロナ(+)の結果を受けたという方が当院を受診された。提携している医療機関がゴールデンウィーク中ずっと休みということで、都発熱センターに相談した上で当院を受診された。検査会社からは陽性なら必ず医療機関を受診して再検査を受けるようにと説明されたとのこと。いまだに民間検査会社の検査結果が信頼されていないことは驚きだ。そこで管轄の保健所に電話して確認したところ、やはりPCR検査で再確認するようにと指示された。

連休中も当院はほぼ発熱外来を続けていたが、大手の検査会社が連休中は休みに入ったためにPCR検査はできなかった。東京都からの要請があったので連休中の診療を実施したのに、東京都は検査会社へは連休中の検査体制を維持するように依頼はしなかったのは全くの片手落ちだ。それで保健所にPCR検査は連休中はできないと告げると、患者さんがすでに当院を受診されているにも関わらず、保健所がこれからPCRができる診療所を探すと言い出した。どこのクリニックでも状況は同じはずだと話したら自分の施設で検査解析までできるところがあると言い張って主張を曲げなかった。そこでそんなに行政検査によるPCRの再検査にこだわるなら、連休中にコロナ抗原定性検査で陽性の症例は確定診断として届けなくてもいいことになるのではないかと問いただしたところ、急に方針を覆して抗原検査でもいいと言い出して前言を撤回した。抗原検査を含めた行政検査で高額な助成金を使って再検査を実施する必要はないと思われたが、保健所が引き下がらないので仕方なく抗原検査実施、たちどころに陽性とでて保健所に届け出を済ませた。

要するに民間検査でコロナ(+)出た人でもその人がその後に診療所を受診して再検査を受けなければ、東京都のデータに上がってこないのだ。検査会社から保健所に届けを出すシステムにすればそれで終わりのはずで全くばかげた話だ。もちろん保健所の職員は上からの指示に従っているだけなわけで、政府や分科会が無策なだけだ。感染者が蔓延している状況の中では行政検査だけでは処理しきれないことは明白で、民間の検査をどんどん利用すべき状況だ。しかしながら現状では民間検査の結果は東京都のデータに上がりにくい。それでも指示通り提携診療所を受診して再検査した例は統計に上がってくるので東京では無症状のコロナ検査数としては急増していると思われるが、統計に載っているのは氷山の一角ということになる。このような状況はもう1年前からずっと続いているわけで、こような検査体制での陽性率などは全くあてにならない。それでもランダムなサンプリングのデータを採ろうとはしない行政、今や現行の指導者が指揮をとっているあいだに大きな改革が行われることは期待できないし、もはや期待していない。

2.このところの保健所の対応が相当ひどく、行政検査が激減している現状

1)同居の家族の濃厚接触者ですら全員検査してもらえていない

濃厚接触者の認定基準がおかしいことはすでに周知のことだが、同居の家族の濃厚接触者ですら全員検査してもらえていない状況にある。以下に例を示して説明する。

先日、ご主人が当院のPCR検査でコロナ(+)、家族(奥様と娘さん)は当然PCR検査済と思ったら「検査しなくてよい」と保健所に言われたとのこと。自宅療養の14日目に奥様が発熱して当院でPCR検査を実施したらコロナ(+)と判明。この結果を保健所に届けたら新たな感染の可能性が否定できないのでさらに10日間自宅療養を言い渡された。娘さんは小学校の新1年生なのにお父さんの影響で新学期初日から14日間1回も登校できず、さらに14日目にお母さんが陽性となったためにさらに14日間自宅療養追加された。

お母さんは14日間ずっと自宅療養を守ってきたとのことで、お父さんからの感染は確実。保健所長に直談判して新たな自粛はおかしいと交渉したが受け入れられなかった。もっと早い時期に家族のPCR検査をしていればこんなに長い自宅療養を強制されなかったはず。これは明らかに同居の家族のPCR検査を省いた保健所の判断ミスで、最初の対応が緩かったのに最後の対応だけがやたら厳しいのはバランスがおかしい、保健所の対応不備なのだから保健所長の判断で情状酌量すべきと進言したが受け入れず、全く呆れるような結果となった。かわいそうなことに新入学の1年生は1か月もの間学校に行けなかったことは全くひどい話、保健所の人災だ。

2)同居の家族への説明や対応指示がなされていない

別なケースだが娘さんが当院PCR検査でコロナ(+)。同居の80歳代と高齢の両親はこのケースではPCR検査を受けて(-)だった。そこまではよかったのだが、濃厚接触者は検査結果が(-)であっても14日間自宅療養となることは何も聞いていないとのこと。コロナ(-)の結果だったのだからコロナではないと思い込んで自粛をしていなかったことが当院を訪れて発覚。このケースでは説明不足以外にも問題あり。

コロナは接触日(ウイルスに暴露)から発症するまで平均6日なので濃厚接触者が無症状の場合はあまり検査が早すぎると偽陰性になってしまうが、保健所の職員はこのことを全く考慮に入れていない。せめて3-4日間を開けてから検査すべきところだ。また、高齢の濃厚接触者が症状が出て来たら繰り返しPCR検査を指示しなければいけない。そのことが全く抜けていてあまりにもお粗末な対応だった。これが今の保健所の実態と思われる。

個々の保健所の職員は必至に頑張っているのはわかるのだが、残念ながら保健所に感染者の対応を任せていてもほとんど機能しておらず、医療機関が対応するようにシステム自体を変えるべきだ。MRIC記事ほかでも何度もそのことを指摘してきたが、NHKをはじめ民放の多くも根本に存在するこのような問題点までは理解できないようだ。これまで筆者も多くのメディアの取材に協力してきたが、2時間も話をしても放映されるのは1分だけ、それも報道が使いたい部分だけ切り取って放映されるので、重要な主張は伝わらない。

感染者数に話を戻すと、以前に比べて行政検査のPCR検査が激減しているのは明らかである。とにかく保健所のキャパシティー自体はだいぶ余裕が出てきていると知り合いの保健所長から伺ったが、すべてとは言えないがそれに胡坐をかいて改善努力をしていない保健所があることは残念だ。最近の政府のコロナ対応はあきれるばかりで、その暴走を止められないことが大きな問題だ。どうしたらこの暴走を止められるか。やはり与党自民党内の有識者がもっと声を上げるべきだし、コロナ分科会は総入れ替えして組みなおし、統計の専門家、危機管理の専門家を入れるべきではないか。

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