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Vol.098 弱者に寄り添う医師・弁護士の合同勉強会

医療ガバナンス学会 (2021年5月24日 06:00)


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この原稿は医療タイムスの「あの日から未来へ」からの転載です。

南相馬市立総合病院・地域医療研究センター
澤野豊明

2021年5月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

■医学的知識の相談を受ける場として

私が所属する南相馬市立総合病院を中心とした医療従事者で構成される研究チームは、東日本大震災・福島第一原発事故が起きた直後の2011年4月から浜通り地方で継続して、診療とその結果をまとめる研究活動を行っている。

その活動の一環として、16年6月から縁あって医師と弁護士が合同で相談を行う場を継続的に設けている。医師・弁護士勉強会と通称されているその会は、当院の坪倉正治医師といわき市の渡辺淑彦弁護士が知り合ったことをきっかけに始まり、現在も年4回ほど定期的に開催している。

主にこの勉強会は、原発事故がきっかけとなって生じた事象(例えば原発事故によって生じた原発周囲の住民避難)に関連して亡くなられたり、後遺障害が生じたと考えられる人やその家族が、東京電力に対して起こした法的紛争や法的紛争を計画する段階で、医学の専門的な知識が必要となった事例に関して、弁護士から相談を受ける場となっている。

具体的には、遺族や本人が「自身または家族の身に降りかかった死亡や障害はおそらく原発事故と関連していると思うが、どのように原発事故と関連しているか分からない」というケースを、医師と弁護士がそれぞれの専門的な見地から意見を述べ合い共同で紐解いていく場である。
■避難開始から約3年後に亡くなった事例も

実際に私たちの活動の結果、元々は原発事故の影響ではないと判断された事例が、後から原発事故の影響が認められ、和解金が支払われた事例もあった。その事例は、避難開始から約3年後に亡くなられた事例ということもあり、弁護士も和解金を得るのは難しいと考えていた。

私たちが相談を受け、話の詳細をうかがい医学的な考察を行うと、長期的な避難によって、徐々に持病が悪化し、最終的にその持病が極度に悪化したために感染症によって亡くなったように考えられた。その機序について丁寧に説明し、ADR(原子力損害賠償紛争解決手続)に提出したところ、原発事故の影響が認められることとなった。

この活動は、一見弁護士の仕事を医師が援助しているだけの構造に見えるかもしれないが、実はそうではない。医学的には、どのような人が原発事故によって健康影響を受け、その結果どんな顛末を迎えてしまったかを知り、次の災害に生かすことが重要である。

しかし、病院での診療だけでは知ることができないことも多く、紹介した事例のように弁護士との相談の場でどのように原発事故での避難が被災者の健康に影響を与えたかが初めて明らかになることもある。

実際に、今回紹介した事例は症例報告として医学論文にし、受理された後にADRの資料としても使用された。以前にまとめた記事があるため、症例報告の詳細はこちらを参照されたい。( http://medg.jp/mt/?p=9257 )
■専門性の高い多職種が補完しあう場

私たちの活動は、医師・弁護士がそれぞれ単独の力では原発事故による死亡/障害への影響を証明しづらい事例で、その機序を科学的に証明することに役立っていると思われる。

遺族の中には、和解金をもらうためというよりは、東京電力や国に家族の死への原発事故の影響を認めてほしいと願って、訴訟やADRを起こす人も少なくなく、科学的に事故と死亡/障害の関係を証明することは意義が大きい。

まったく行う業務は異なるが、医師と弁護士は社会で困っている人を助けるという点では対象者の多くがかぶる。しかし実際には医師と弁護士はほとんど業務上の接点がないため、私たちの勉強会のような場は少ない。

今後の災害後の被災者の支援活動として、医学・法学に限らず、専門性の高い多職種が補完し合って困っている人を助ける場がもう少しあってもよいと思う。

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