医療ガバナンス学会 (2021年5月31日 06:00)
東京理科大学基礎工学部名誉教授
山登一郎
2021年5月31日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
説明捕捉です。
1.まず無症状感染者の存在は周知されています。
2.第一波のあと、政府は行政・保険適用検査の他に、主に無症者対象の民間自費検査を容認しました。行政・保険適用検査の対象は、基本的に有症状者です。クラスター対策などでは無症者も検査対象になります。また民間自費検査での陽性判明者は、行政検査を受診して陽性確定されます。
3.厚労省や各自治体は、その行政・保険適用検査結果を公表新規感染者数情報として公開しています。
4.しかし市中感染状況を調べるためのモニタリング検査も実施せず、市中感染状況を反映すると考えられる民間自費検査の検査情報も収集・公開していません。だから実際の市中感染状況は未だに不分明のままです。
5.一方、政府自治体行政専門家たちや報道・メディアは、公表新規感染者数情報だけに基づいて、緊急事態宣言やオリンピック可否など重要施策を策定し、またそれに対する議論をしています。
例えば、都で500人程度の新規感染者数(5月24日)で、陽性率5%などと報道します。5%の陽性率が市中感染を表すなら、都民の70万人が感染者になります。しかし報道も行政も専門家もそんな陽性率など意味がないと考えています。ところが、500人の感染者数はさも意味ありげに、「下がりきらないから緊急事態宣言延長かもしれない」と議論します。本来は市中感染者数を推定して、その情報を基に分析判断すべきでしょう。
6.メルマガ投稿分069では広島市の例を用いました。今月広島では広域PCR検査を実施しています。そのような情報が全国で充実することを祈ります。
そんなモニタリング検査や大都会で普及している民間自費検査の情報から、市中感染率や感染者数が明らかになり、無症者の特定隔離も行われるようになれば、国民性と生活習慣からは、緊急事態宣言など不要なままで済ますことができると考えています。
7.そして政府自治体行政専門家報道などが、どうして実際の市中感染状況のデータが無いにもかかわらず、公表新規感染者数情報だけを頼りに分析判断するのか、不思議なのです。また国民の誰もが、そのことに疑問を差し挟まないのも、とても不思議なのですが。
問題点が分かりにくいかもしれませんので、追加で例を用いて説明します。
ある日の都の市中での新規感染者数1000人とします。有症者2割の200人は、行政・保険適用検査で陽性隔離されます。残り800人は市中に滞留します。未だに不分明なのですが、例えば都の市中感染率を0.001とします。民間自費検査が例えば10万件行われれば、10万×0.001=100人が陽性判明し、行政検査再受診で確定隔離されます。その結果、その日の公表新規感染者数として300人が計上されます。ところが、1000人のうち残りの700人は市中に残り、感染源になります。その感染者たちの治癒・感染無効化日数を例えば20日かかるとすると、延べ1万4千人がある日の市中感染源として滞留しています。ちなみに、都の人口1400万人の0.001分が感染者に対応するので、市中感染者数1万4千(+300)人に合致します。
これまで政府自治体行政専門家や報道は、この市中感染源数1万4千のことには目も向けず、単に公表新規感染者数として計上される300だけを基に、その増減などの議論をして緊急事態宣言等の対策を打ち出しているのです。
市中感染状況の詳細把握無くして、どんな科学的な議論なり対策が打てるのでしょうか?