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Vol. 236 村重直子の眼4 ワクチン行政に患者の立場から

医療ガバナンス学会 (2010年7月12日 07:00)


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対談 村重直子・高畑紀一
構成 ロハスメディア 川口恭
2010年7月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


元厚生労働省大臣政策室政策官の村重直子氏が在野のキラリと光る人たちと対談していきます。4人目は、重大なラグを生んでいるワクチン行政に、患者の立場から異議申し立てをしている高畑紀一・細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会事務局長です。(担当・構成 川口恭)

村重
「細菌性髄膜炎の原因となるHibのワクチンと小児用肺炎球菌のワクチンの法定接種化を求めて活動していらっしゃいますね」

高畑
「3月23日に4度目の国会請願を行い、集めた署名は累計20万人分になりました。3月23日は、民主党の青木愛副幹事長にお会いして署名を提出した後で、長妻昭厚生労働大臣に面会して定期接種化の判断をしてほしいと求めました。長妻大臣は、予防接種部会の方で議論させます、必要性は感じていますという回答だったので、4月21日からまた予防接種部会のいわば第2ラウンドが始まりますけれども、その中で待ったなしの課題なんだという位置づけにしてもらって、少なくとも2010年度中には、いつ定期接種化するかという所まではハッキリと結論を出してもらいたいなと考えています。そのために、予防接種部会の議論に注目していくのは当然として、まだまだ細菌性髄膜炎のことや、ワクチンで防げるのに定期接種化されていないために、罹ってしまって亡くなったり重い後遺症に苦しんだりするお子さんがいるという現実を知らない方は少なくないので、そういったことを今まで以上に現実を知らせていくという努力もしていきたいなと思っています」

村重
「どういった経緯でこの活動を始められたんですか」

高畑
「実は立ち上げには関与してないんです。息子が2004年に細菌性髄膜炎に罹りまして、でも運よく後遺症もなく治って、それ以降はあまりそのことを考えないようにしていました。思い出したくもなかったという感じです。たまたまインターネット上で、読売新聞だったと思うんですけど、Hibワクチンが日本で承認される見通しだと言うのを見つけて、最初は良かったなと思ったんですよね。ワクチンができて、あんな疾病が防げるんだ、それに越したことはないな、と。読み始めはそう思ったんですけど、読んでいくと何かちょっと違うんですよ。その記事から知ったこととして、ワクチン自体は世界では昔からあったということ、それが遅れに遅れて日本で承認の見通しになっているんだということで。え、そうなの、という感じでした。そこから色々と調べていったら、うちの息子が罹った当時もワクチンがあって、なおかつWHOが全ての子供に接種すべしという勧告も出していたということを知ったんです。何なんだこれはと思って、ちょうどその時に代表の田中たち「細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会」が署名を行っているというのを見て、じゃあここに入会して自分も署名活動をしようかなと。きっかけとしては、それですね。

参加した当初は結構甘く考えていて、これだけ世界で実績があって、これだけ怖い疾病で、でお医者さんの団体、小児科の学会とかも要望書を出している、そして患者の団体も要望書を出している。これはすぐ定期接種化になるんだろうなと思ったんですね。事務局長をやらないかという誘いがあった時も、うちの家内とも相談して、1年か長くても2年くらいだろうから、ということでやったんです。まさか3年半経っても、まだ動かないというのは思ってもみなかったです」

村重
「他のワクチンについても、まだ承認されていないものとか、承認されていても定期接種の方に入って行かない、だからあまり知られていないとか広まって行かないという状況があると思うんです。なかなか進まないですよね。私がアメリカで研修した頃には普通にHibワクチンを接種していました。ワクチンの接種スケジュールも日本と全然違うんですよね。小児科ではないからあまり深く関わっていたわけではないですけれども、ERに患者さんが来る中で、やっぱりウイルス性髄膜炎はあるかもしれないけれど、細菌性なんて滅多にないだろうというイメージを持っていました。でも日本に帰ってきたら、全然ワクチンが普及してないんですよね。それで多くの方がこれだけご尽力して来られて、でもなかなか定期接種へは動かない」

高畑
「私自身、長男の予防接種を受ける時に定期接種のものを受けていれば、それで十分なんだという認識だったんですね。水痘ワクチンとかが任意接種のものとしてあるということは知っていたんですけれども、任意だということは打つ必要性が低いんだという認識でしたし、家内に打とうかと言われた時も、別に打たなくてもいいんじゃないという回答をしていたぐらいなんですよね。この活動をしていて非常に感じるのは、そういう認識をされている方は非常に多いと」

村重
「法定接種があるがゆえに、逆に任意のものは余り打たなくてもいいように思えてしまうということですね」

高畑
「定期は必要なもの、任意は必要じゃないものという意味合いで勝手に感じ取ってしまうと思います」

村重
「そういう悪影響がありますね」

高畑
「あと、任意のものに関して、行政サイドはほとんど情報を伝えません。行政の方の立場からすれば、当然伝えられないということなのかもしれないんですが、Hibワクチンがありますよ、生まれて2カ月から接種できるんで、小児科の先生と相談してくださいと、そういう話が基本的になされないですね。そうすると一番危ない罹患の確率の高い時期に、全く情報に接することもないまま、実はワクチンがあったのにという疾病に罹って初めて知るということが、未だに繰り返されていますので、やはり定期だ任意だという括りは根本的に改めないといけないなという風に思っていますね」

村重
「定期接種化が進まない一番根っこの所に、無過失補償制度や免責制度がないということがあると思います。もし免責とか無過失補償がきちんとできたなら、今までのように役所が頑なに法定接種に持って行かせない、法定接種に加えることにすごく消極的だったわけですけれど、そこで抵抗する理由がなくなると思うんですよね。打たないで病気になって後遺症が残ってしまうような方たちがいて、それをワクチンで防げるという、すごく大きなメリットがある。一方で、ワクチンを打つことによって、もの凄く稀ですけれど、メリットに比べると少ない数ですけれど副作用もゼロではないから、ちゃんとその人たちもみんなで支えようということができれば、みんながハッピーになると思います。そうなれば法定接種だ任意接種だ、という線引きをするんじゃなくて、できるだけ広く使っていただくためにきちんと接種スケジュールに組み込んでいくことができると思うんですよね」

高畑
「薬の薬害のコントロールの仕方、対応の仕方とも共通すると思います。ドラッグであれば効能効果に対して副作用がある。ワクチンであれば予防と言う効果に対して副反応がある。その二つと言うのは必ず表裏一体であって、どちらか片方だけということはあり得ないものですから、その二つをうまくコントロールしていくことが求められていると思うんですけれど、日本の歴史を振り返ると、副作用が出てコントロールができずに薬害事件になると、もう副作用のコントロールにしか目が向かない、ワクチンも副反応が出るとそちらにしか目が向かないという状態がずっと繰り返されてきたと思います。それを変えるいい機会に来ているんじゃないかなと思います」

村重
「データがないから、きちんと冷静な議論ができないんだと思うんですね。ちゃんとデータベースを公開して、レセプトデータとか、副作用の報告を集めたデータベースとか、既存のデータベースがたくさんあるのですから、それを生かしてきちんと公開して、皆さんが病気の起こる頻度がどれ位で、ワクチンを打ってこれが防げる、こんなにメリットがあるというのを数字で見えるようにする、それと、そのワクチンを打った後の副作用と言うのも、広く使っていただきながらきちんとモニタリングして、じゃあどれ位の頻度で副作用が起きるんだろうかということも、両方数字を出して、メリットはこれ位、デメリットはこれ位と数字を出して議論できるようになると、もう少し皆さん冷静に判断できるでしょう。行政側も副作用とか副反応のネガティブな部分にばかり気を取られるんではなくて、両方の数字を見ないといけませんし、打つ打たないの判断をする親御さんも両方の数字を見たら、納得して受けられるじゃないですか」

高畑
「本当にデータが足りない、整っていない、公開されていないというのが、大きな障壁になっているというのは実感しています。細菌性髄膜炎についても、私たちが当初厚生労働省へ行って定期接種化してくれと言った時も、ワクチンの有効性も分からない危険性も分からない、その検証をこれからスタートしますという話だったんですね。20年前にはアメリカで導入されていて、10年前にはWHOが勧告を出していたものに対して、なぜ今になって、すべてのデータ収集から始めなければならないのかということが非常に疑問でした。これは細菌性髄膜炎に限ったことではありません。医療全体として改善しなければいけないことだと思います」

村重
「そうですね。今からデータを集めるとよく役所は言いますけれど、過去のデータベースがあるわけですから。公開してないだけですよね。そういう今までの貴重なデータをどうして活用しないのかと凄く思いますね。アメリカではワクチンの無過失補償と免責制度は1988年にもうできているので、たぶんその前に今の日本と似たような状況があって、ワクチンを打てない人がいたり、メーカーがリスクが高いからここでは作らないというようなことがあったんだと思うんですね。相当、議論を重ねてできてきた制度だと思うので、日本も全く同じものにするかは色々と考え方があるとは思いますけれど、日本でもメリットが大きいからみんなで打つんだけれど、その分副作用が出た人はみんなで支えて行くんだという、そういう概念を日本の人たちもちゃんと考えて議論できるといいですよね」

高畑
「そうですね。無過失補償制度であったり、免責制度であったり、海外からのワクチンを導入しやすい、なおかつ国内企業の競争力を高めていくという政策というのは大切なことだと思いますし、制度をつくって運営していくことは不可欠なことだと思うんですね。それと併せて接種を受ける側、国民の意識というのも変えていく必要があるんだなと思います。
自分自身がまさに、国が言っていることはすべて正しい、お上が言っていることはすべて正しい、間違いがないという考え方をしていましたので。基本姿勢はそれでもいいのかもしれませんけれど、やはり自分で疑問を持ったら、インターネットだったり色々アクセスできるツールが発達してきていますので、自分で考えるという癖をこれから付けて行くと、本当の意味での民主主義につながりますよね」

村重
「そうです。お上の言っていることが必ず正しいとは限らないので、そこはデータを見て、皆さんが、ちゃんとご自身でデータを見て、判断材料を持った上で、お上の言っていることは正しいのかどうか、一人ひとりがそれぞれ判断していただきたいと思いますね。数字を出して議論すれば、それに対する判断というのは人によってちょっとずつ違うかもしれないですけれど、でも元にある数字というのは、データを公開していけば、そこがブレることはないのです。その数字に対してお上が何らかの解釈を加えてこうですよと、それが今はたぶん法定接種はここまでですよというのが、それにあたるメッセージなのかもしれないですけれど、そういう解釈が加わる前のデータ、生の数字というのをみんな一人ひとりが共有して考えられるようになるといいですね」

高畑
「ワクチン接種を推進する立場で活動していると、どうしても逆の慎重な意見の人たちとも接触することがあるんですけれど、その中のごく一部だとは思いたいんですが、元のデータ自体が違ってしまっているという方というのもいらっしゃるんですね。事実は事実として共通の認識を持ったうえで、でもメリットとデメリットの考え方が違うというのは、これは価値観なのでやむを得ないと思うんですよね。でも、元のデータが全然違ってしまっている、事実認定の部分が違っているということが往々にしてあるので、それは辿って行くと情報公開の在り方が非常に十分じゃないということにつながります。ある意味不毛な議論につながってしまいますので。データと言うのはどんどん出してほしいです」

村重
「データも数字も一つではないので、たくさん色々な数字を見て、そのバランスを見て、副作用頻度というのはこれ位なのかなと、いくつかの分母と分子があって確率がある、そういう数字もちょっとずつバラつきがありながらも、色々なデータをたくさん見て行くと、でも大体この辺なんだなというバランスを取った見方ができるじゃないですか。そういう形で、たった一つの数字とか、たった一つお役所が言っている解釈とかに縛られずに、信じ込まずに、ある程度バランスを保ちながら、他の人はどう言っているのかなとか、他の調査や研究結果はどういう数字があるのかなとか、そういう全体を見渡しながらバランスを持って判断できるといいですよね。でも、きちんとデータベースが公開されて、色々な数字がたくさんたくさん出始めると、たぶん皆さん、こういう数字もあるんだ、ああいう数字もあるんだというのが分かってきて、慣れてくると思うんですよね」

高畑
「大雑把な乱暴な言い方になるかもしれないのと、他国がどうか分からずに言いますけれど、日本人全体としてマクロのものの考え方とミクロのものの考え方の切り分けが凄い苦手ですよね。それって、正しい判断材料が提示されたうえで訓練されていくべきものだと思うので、それがなかったから未成熟だったということもあるんじゃないでしょうか」

村重
「本当にそうですね。今まで役人の側は全然数字を出してきませんでしたから。元の情報は開示しないで、役人が決めたことだけを発表して、国民は黙ってそれをそのままやっていればいいんですよ、という、それこそパターナリズムでずっと来ているので、皆さんあんまりそういうデータとか数字を見たことがないし、数字が示されないことに対してあまり不思議に思ってないですよね。そこは数字がないんじゃなくて、数字があるのに公開されてないんだ、公開するべきだという風に皆さんも思えるといいんですけれど」

高畑
「数字を見ると拒絶反応を示す方もいますからね。そういう意味では、昨年お医者さんの中でも話題になったレセプトのオンライン請求義務化についても、私は非常に複雑な思いがあります。レセプトのデータ自体がどれだけ良質なものかという議論はあるにせよ、今の日本の現状からすればないよりはあった方が絶対にいいものなんですよね。だから私は患者会の人間として、それは集めてほしい、活用してほしいという思いは持っているんですね。一方でオンライン請求の義務化というあの手法がそれに資するものだったかと言うと、あれだけ現場の先生たちの反発を食らったわけですから、非常にマズイやり方だったと思います。何のためにやるのかを考えて行けば、自ずからやり方というのは見えてくると思うのに、ああいうことをやっちゃうと進むものも逆に進まなくなっちゃうので、今回の顛末は誰のためにもならないと思いました。非常に反省してもらいたいです」

村重
「レセプトデータは、仰ったように100%完璧なものではないですけれど、ないよりはあった方がいい、公開した方がいいということですよね。既に既存のデータベースがあるので、紙で提出されても、データベースにあるものを公開すればいいんです。役人はいつも、これから新しく集めますって言うんですけど、その前に既存のものをそのまま出せばいいじゃないかと。誰の労力もかからず、まあちょっと整理してからじゃないと出せないというのはあるかもしれませんけれど、今から新しく作る労力と時間とを考えたら既存のものをそのまま出せばいいじゃないですかと、いつも凄く思いますね。だからレセプトデータも不十分ではあるにせよ全部出すと。あるものを出すと。それで、何が足りないかとか、何をもっとよくしたらいいかとか、出してみてからじゃないと議論できないのに、まだ不十分だから出さないというのはおかしいと思いますね」

高畑
「その類の話は多いですよね」

村重
「先ほど仰ったようにマクロのものとミクロのものというのは、使い方をうまく工夫すれば、両方とも役に立つし両方が互いに補完するようなデータなのです。よくレセプトデータというのは詳しく患者さんの状況を反映してないから使えないんだという人がいますけれど、あれはマクロのデータなので、大雑把に全体の傾向が分かればいいんですよね。一人ひとりの患者さんにどんなことが起きたのかということを調べたい時は、本当にミクロで、それこそ一人ひとりのカルテのレベルまで戻って調べるしかないので、そこは両方の性質を理解して、うまく使い分けていけばいいんですよね。ただ、今はマクロのデータベースが公開されてないから、互いに補完するべきデータベースの片一方がすっぽり抜けちゃっているという状況で、レセプトのデータベースがあるのに使ってないのは凄く勿体ないなと思いますね」

高畑
「そういったデータがオープンになることによって、もしかしたら薬剤の適応外使用に関してもかなり有効なデータにつながる可能性もありますし、それこそ希少疾病の治療法の標準化ですとか、そういったものに関しても一定の効果が望めるということだと思うので、ぜひ活用していただきたいと思います」

村重
「希少疾病とか副作用とか、頻度の少ないものは、やはりマクロで大勢のデータを集めないと見えてこないので、ぜひ公開しないと分からないことってたくさんありますね」

高畑
「学校教育あたりからやんないとダメな部分もあるかもしれませんけどね」

村重
「でも今までマクロのデータベースってほとんど公開されてなくて身近なものと感じていないので、皆さん慣れてないんでしょうね。たくさん出してたくさん議論するようになると、慣れてくるというか、こんな数字もある、あんな数字もあるというのが段々バランス持って見れるようになると思うんですけど」

(この文章は、ロハス・メディカルweb http://lohasmedical.jp に4月20日付で掲載された記事を一部改変したものです)

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