医療ガバナンス学会 (2021年6月14日 06:00)
わだ内科クリニック
和田眞紀夫
2021年6月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
集団接種会場でのワクチン接種が始まってからダブルブッキングが可能となったため、結果的に診療所での予約キャンセルが一定の割合で発生している。これが接種人数の多い集団接種会場であれば難なく吸収されていくのだが、1日の接種回数が少ない診療所では1バイアルで接種しきる6人をそろえなければならず至難の業だ。すでに2か月後ぐらいまで埋まっているスケジュール表を見ると軒並み歯抜け状態になっていく。そこをどうやって埋めていくかが問題で、キャンセル待ちリストを作成してはいるものの、最近リストに載せたばかりの比較的若い人が2か月後の予約待ちをしている高齢者を飛び越えて打つことになったりする。かといって2か月に渡って高齢者の予約がずらっと入っているのだから、全員に連絡をして1日ずつずらすことなどは到底できない。また、予約状況を見ると後の方に行くにしたがって予約希望者がまばらになっていき、キャンセルがなくても6人集めるのが難しくなっていく。誰でも希望した時にすぐに接種できたらどんなに楽な事か。そもそも「貴重なワクチンを廃棄してはいけない」というルールさえなければもう少し柔軟な対応が取れるだろう。
2.ワクチン接種が急速に拡大しているために1ml容量のシリンジが不足している
報道によると、ワクチン接種が急速に拡大しているために1ml容量のシリンジが不足していて2ml容量のシリンジが配給され始めているらしい。2ml容量のシリンジで0.3mlのワクチンを注入するのでは正確な摂取量が計れない可能性が高いし、できないとは言えないが相当時間のかかる厄介な作業になる。本来1バイアル5人分の接種液を6人に接種できるようにデッドスペースのないシリンジの供給を受けて使っているのだが、廃棄の基準を緩めれば、通常の注射針と通常の1mlシリンジを使って正確に接種を行うことができる。
隣国の台湾でワクチン需要が高まって、相互扶助の精神から日本からアストラゼネカ製のワクチンを供与するというニュースが飛び込んできたが、関係閣僚の談話では日本ではすでに十分量のコロナワクチンが確保されているという説明がなされていた。それが真実であるならば、厳格な廃棄基準を緩めて事情に合わせた最小限の接種液廃棄処分を認め、1バイアルからの接種人数や接種用の使用機材の基準を緩めるべきである。
3.ワクチン廃棄量を少なくするための練馬区の取り組み、「リザーブワン」
このような状況の中で、練馬区では現在の基準を遵守する範囲の内で少しでも廃液量を減らして接種予定を組みやすくするような工夫をしている。実はデッドスペースのないシリンジを使うと1バイアルから6人分どころか7人分近くの接種液をとることができて、現状ではその1人分に近い接種液を廃棄処分しているのだ。ところで1日に2バイアル使うならその残余分を足すと十分1人分になるのである。そのことはすでに議論に上がってはいたのだが、衛生上の観点から2バイアルから接種液を集めて使ってはいけないという見解が示されていた。
しかし、1バイアルから6人分の接種液を引く場合は6回針を刺しているわけで、同じ針を2回刺すことが問題視されたことになる。このリスクを許容範囲と考えるなら、あらかじめ2バイアルに対して13人分の予約を取って置き、1人のキャンセルが出たときには接種者を追加せずに残余分を破棄するというものである。その場合でも12人には接種ができるわけで、現行の廃棄量と変わらないというわけだ。「2バイアル枠で、1名のリザーバーを設ける」という意味で、「リザーブワン」と名付けられた。この「リザーブワン」がメディアで報道されるなり、厚労省、さらにはファイザー社から医師会に対して問い合わせがあり、医師会の見解を伝えたうえで最終的には自治体の判断で実施するということで決着をみた。
このような涙ぐましい取り組みも、ワクチン配給量が潤沢ではなかったことのしわ寄せによるものなのだが、国がワクチン供給の目途が立ったというのであれば現状を放置せずに素早い対応をしていくべきだ。そもそもコロナワクチンだけが通常の医療問屋を経ずに自治体が直接医療機関に供給するシステムを敷いたために新たな運搬業者を頼まなければいけないことになり、この供給体制の困難さがワクチン接種を遅らせる原因にもなっている。ワクチン供給が安定してきたならば、厚労省の直接管理をやめてインフルエンザやほかのワクチンの供給体制と同じ通常ルートに速やかに戻すべきである。もはやコロナワクチンの接種優先順位は全く度外視されているのだから。