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Vol.113 「大麻取締法改正」の難しさの本質 ~保健衛生上の脅威としてのマリファナ解放論~

医療ガバナンス学会 (2021年6月15日 06:00)


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難治性疼痛患者支援協会ぐっどばいペイン 代表理事
日本麻協議会 事務局代表
若園和朗

2021年6月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

5 月 14 日各報道機関は、大麻*を使った医薬品の使用を解禁する方針を厚労省の有識者検討会が固めたと報じました。また、報道はされていませんが、この検討会では一般農作物としての大麻草栽培への不合理な規制を見直すことでも合意されています。

ご存知無い方も多いのかもしれませんが、現段階では大麻*を原料とする医薬品は一切使う事ができません。「大麻*から製造された医薬品を施用すれば、医者も患者も懲役刑などでもって罰する」と「大麻取締法」により定められているからです。
しかし、大麻*の薬効成分である「カンナビノイド」の働きが解明されるにつれ、てんかんや慢性疼痛などの治療に役立つのではないかと期待されるようになってきました。そのため次第に大麻*の医療利用を認める国が増えてきました。国内に於いても難治性てんかんの患者会などが大麻製剤である「エピディオレックス®」の承認を求めて要望活動を始めるなどの動きも出てきました(参考1)。そして、昨年暮れに、国連麻薬委員会が大麻*の医療利用を容認する決定をしたことがこの検討会開催の大きな理由の一つだと思われます。

また、大麻は今の日本では乱用薬物のイメージが強いですが、大麻とはアサ科アサ属の植物、つまり麻の別名で戦前までは乱用されることなく普通の作物として盛んに栽培し活用されていました。日本在来の大麻は、乱用される心配はほぼありません。なぜなら遺伝的に乱用のもととなる THC という物質の含有率が低い品種だからです。にも関わらず、厚労省 麻薬対策課の通達により栽培が許されるのは「伝統の継承などにどうしても必要な場合」のみ。また盗難防止のため見回り、柵や監視カメラの設置などの重い負担が求められるため栽培者は次第に撤退。日本の麻(大麻)の文化は存続の危機に追い込まれています。

「大麻取締法」は、戦後の混乱期に制定されて以来、大きな見直しがなされなかったため、このような多くの歪みが放置されたままになっています。筆者はこれまで、慢性疼痛患者家族の立場から医療利用の容認を、また伝統的な麻(大麻)栽培に携わる者として、不合理で行き過ぎた規制の見直しを繰り返し主張してきました。この検討会を機に多くの部分で筆者の訴えが実現される見通しが出てきました。これまで拙文に共感し応援していただいた皆様と、「大麻取締法」の見直しという難しい課題に果敢に取り組んでいただいている麻薬対策課の方々に心より感謝いたします。この検討会を通して、乱用や不適切な処方を防止した上で大麻*の薬効を必要とする患者に届けることができたり、麻(大麻)に関わる伝統文化や一般産業が健全に発展する事を願っています。

■やっかいなマリファナ解放論
しかし一筋縄ではいかないかもしれません。なぜならこの検討会開催を受けて、マリファナ等(大麻*)の快楽目的使用の合法化や非犯罪化を目論む、いわゆる「マリファナ解放論者」の活動が活発になっており、ともすると乱用抑制のための検討会なのに乱用拡大のきっかけになる心配があるからです。

栽培も加工も容易なマリファナ等(大麻*)は、世界で最も乱用されやすい規制薬物です。
また、「マリファナ解放論者」が発信する偏った情報の影響で、その乱用拡大に歯止めが効かず、合法化して法の管理下に置きその害を減らす道を選択する国や地域も出てきました。ですが、わが国は他国から奇跡と評されるほど格段に規制薬物の乱用抑制に成功しているクリーンな国。言葉を代えると規制薬物の害悪から国民が守られている国です。こうした健全な状況を次世代につないでいくことは、日本社会に生きる者の義務だと私は考えています。

■マリファナは、どう見ても有害
公の機関でマリファナ等(大麻*)に害がないとしているケースは、合法化しているカナダを含め一つも見つかりません。医療目的使用についても益が害を上回ることは限定的とされています。

例えば、世界医師会は、マリファナ等(大麻*)を非医療目的に使用すれば、致命的な自動車事故の原因になり、精神病のリスク高め、記憶力、注意力を低下させる。また依存に陥る場合があり、特に 18 歳前に使用すれば精神病性障害のリスクが 2 倍になるなど深刻な健康への悪影響があるとしてその防止や抑制を訴えています。また医療目的であっても承認された従来の薬物による治療で効果が得られない場合のみ、かつ専門的知識をもった認可された医師などにより処方すべきなどとして極めて慎重な対応を求めています。(参2)

それにも関わらず、マリファナ等(大麻*)やその薬理成分であるカンナビノイドについて、まるで副作用もなく様々な疾患を治す夢の薬のように主張する人が医師免許を持つ人の中にもいます。また、マリファナ等(大麻*)は様々な疾患の症状を和らげるので、その患者が自己治療に使っているのだから大目に見ないといけないとか、依存症の治療の妨げになるから非犯罪化すべきだと主張する依存症の専門医がこの検討会の委員の中に含まれており大変心配しています。

医薬品には必ず副作用による害があり、全く安全な薬などはあり得ないことを伝えること、また依存性のある医薬品を自由・勝手に使えば患者をさらに窮地に追いやるのは当然で、勝手な使用はしないように指導管理することが医師の義務なのではないでしょうか。
更に、依存症の治療の妨げになるから規制を緩めるというのも納得できません。一次予防を蔑ろにして二次三次予防を優先するというのは本末転倒ではないのでしょうか。少なくとも乱用抑制のための検討会の委員が乱用拡大を助長しかねない情報を発信するというのは慎むべきなのではないかと感じます。

■弱者や若者の未来を奪うマリファナ解放論
なぜマリファナ解放論者は、大麻*の乱用を広めようとするのでしょう。かつて 1960 年代に流行したヒッピーと呼ばれる人たちがマリファナ等の薬物によって Love&Peace を実現しようとしたことに由来するのかもしれません。また、依存症は否認の病とも言われますが、否認の言動の一つの現れかもしれません(参考3)。あるいは、依存性薬物はリピーターの獲得が容易いおいしい商売ですので一攫千金をねらう意図があるのでしょうか。

愛や平和は、不断の努力によってしか勝ち取ることはできません。依存症患者の否認の言動に社会が振り回されているのだとしたら、悲しむべきことです。そしてもちろん、不健康を売り物にする商売には手を出すべきではありません。

また、マリファナ解放論者はしばしば弱者の味方のふりをします。しかし、マリファナは若者が常用すれば、知能低下など精神の発達に不可逆的な障害を与えるとされています。
また、精神に脆弱性のある人の精神病を誘発したり、もともと精神を病んでいる人の症状を難治化させるとも見られています。つまりマリファナ解放論は、若者の可能性を奪い、もともと弱い立場にある人を更に窮地に追い込む考え方で、まさに弱者や若者の敵です。

問題なのは、こうしたマリファナ解放論者が発信する「マリファナ等(大麻*)は安全」などとする彼らにとって都合の良い偏った情報が SNS 上などにあふれていること。そしてそれが、若者のマリファナ等(大麻*)の乱用拡大の大きな要因になっていることです。
■マリファナ解放論から日本の社会を守れ
戦後のある時期から、良識ある多くの日本人は「大麻」はすべて「悪」として、語ることさえタブーにしてしまいました。そのため、日本社会は大麻の良い部分と負の部分について知的に判断することができなくなっています。

一方で、マリファナ解放論者たちは、自分たちに都合のよい偏った情報の収集に努め、着々と理論武装を強化してきました。そして、インターネットという査読なく誰もが対等に情報を発信できるツールを得て、その情報を爆発的に拡散させることに成功しました。
つまり、「大麻取締法改正」の問題解決の難しさの本質は、日本の良識がマリファナ解放論に知識面と情報発信力において完全に不利な状態にあることだといえます。

それを乗り越え、マリファナ解放論者がもたらす保健衛生上の脅威から日本社会を守るためには、正当な目的を持った栽培者と真摯に大麻の薬効を必要とする患者団体が乱用防止に携わる方々と十分に知識と情報の共有をし連携していくことが必要です。そして「乱用や不適切な処方は許さない」と強いメッセージを発信していくことが求められます。
6 月 11 日には、検討会のとりまとめが行われ、その後改正のための具体的な作業が始まる見通しです。筆者は、引き続き大麻取締法の改正がより良きものとなるよう、できるだけの働きかけを続けていきたいと思います。皆様の応援に期待しています。

【付記】
(参考1) https://www.jea-net.jp/wp-content/uploads/2019/09/4486f8b26bf9b304c7197c6cc755db0d.pdf
(参考2) https://www.wma.net/policies-post/wma-statement-on-medical-cannabis/
(参考3) https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-039.html
これらの他に、第 5 回大麻等の薬物対策のあり方検討会での筆者の発言や、これまでの拙文を参考にしています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000031ehd_00005.html
http://medg.jp/mt/?tag=%e8%8b%a5%e5%9c%92%e5%92%8c%e6%9c%97
なお、現大麻取締法上の「大麻」、つまり大麻草の成熟した茎や実を除いた部分については「大麻*」と表記しました

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