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vol7 造血幹細胞移植における制御性T細胞

医療ガバナンス学会 (2004年4月9日 23:16)


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岡山大学 豊嶋先生

移植片対宿主病 (Graft-versus-host disease: GVHD)は同種造血幹細胞移植後
の最も重大な合併症である。移植片中には、末梢性T細胞が混入しており、その
一部のアロ応答性T細胞が、移植後にリンパ節に集積し、抗原提示細胞によって
提示されたアロ抗原を認識、活性化し、リンパ節を出て標的臓器である、肝臓、
消化管、皮膚を攻撃する反応である。しかし不思議なことに、GVHDを発症しない
場合もあれば、GVHDを発症しても、時間の経過とともに消腿することもある。そ
のメカニズムは長い間大きな謎であり、多くの研究者がそのメカニズムを解明し
ようと努力してきている。

1980年代に、慢性GVHDを発症していない患者の末梢血リンパ球にアロ応答性を抑
制しうるリンパ球が存在することがシアトルからNature誌に発表された(1)。
つまり、GVHDは自然に消腿するのではなく、何らかの”能動的”なメカニズムに
より抑制されている可能性が示唆されたわけである。このような観点から臨床的
観察も行われるようになった。例えば、重症免疫不全症(SCID)患児へのHLA不
一致胎児肝移植で、ドナー由来のT細胞が生着するにもかかわらず、GVHDの発症
がみられない症例で、ドナー由来のIL-10産生性制御性T細胞が同定された(2)。
これらの結果から、実はGVHDを抑制する細胞も、原因細胞と同様に、ドナーのT
細胞ではないかという、きわめて興味深い仮説が生まれた。

自己免疫疾患の動物モデルにおいて、京都大学の坂口志門教授が同定した制御性
T細胞(3)  が、このような”能動的”な抑制に関与している可能性を示唆
する研究結果が最近マウスモデルにおいて集積されつつある。CD4+CD25+T細胞が
それで、その抑制効果は細胞接触依存性で、TGF-betaやIL-10の関与も示唆され
ている。造血幹細胞移植において初めて本細胞が注目されたのは、マウスにおけ
る副刺激阻害によるGVHD抑制法開発途上においてであった(4)。CD40/CD40L系
やB7/CD28/CTLA-4系をモノクローナル抗体の投与によって阻害するとGVHDが抑制
されることが知られていたが、この抑制効果はドナーの移植片からCD4+CD25+細
胞を除去することにより消失したのである。

この研究を端緒に、マウスモデルにおける制御性T細胞に関する報告がミネソタ、
スタンフォード、パリのグループから相次いだ。すなわち、ドナー由来の
CD4+CD25+細胞を移植片から除去するとGVHDが重症化し、逆に、同細胞を移植片
に混入するとGVHDの軽症化がみられるというものであった(5-7)。これらの
結果から、移植片に混入しているナイーブT細胞と制御性T細胞の比率がGVHDの発
症、重症化を規定する因子である可能性が示され、制御性T細胞が俄然注目を集
めることとなった。しかし、臨床応用を考える上での大きな障害はこれらの実験
で、ナイーブT細胞と制御性T細胞の比率が1:1といった、大量の制御性T細胞を
投与しないと十分な抑制効果が発揮されないことであった。CD4+CD25+細胞は末
梢血中のCD4+細胞のうちわずか数パーセントにしかすぎず、このような大量の細
胞を一人のドナーから得るのは困難であるからである。そこで、この制御性T細
胞のex vivoでの培養増幅に研究者の興味が集まった(7,8)。その方法は
anti-CD3抗体とIL-2存在下に非特異的に増幅する方法と、IL-2とホスト由来抗原
提示細胞存在下に抗原特異的な制御性T細胞を増幅する方法と大きく2つの方法に
わけられるが、後者で増幅された制御性T細胞の抑制作用はより強力であった。
一般に、in vitroでの研究結果からは、制御性T細胞の抑制作用は抗原非特異的
であるとされてきたが、このようなGVHDにおける研究結果からは、in vivoでは
抗原特異的に増幅された制御性T細胞の作用は抗原特異的である可能性を示して
いる(8,9)。もしそうであれば、危惧される免疫再構築への悪影響を最小限
にすることが可能となる。

この制御性T細胞がGVHDを抑制する詳細な機序も明らかにされつつある。移植後
にはアロ応答性T細胞は二次リンパ組織のホスト由来抗原提示細胞に反応して活
性化し、Th1分化を起こす。しかし、制御性T細胞の存在下ではその後の増殖が抑
制され、引き続く炎症性サイトカインの産生が抑制される(10)。一方T細胞
活性化は阻害されないため、perforin依存性のGVL効果は保持されるようだ(8,
10)。

GVHD予防の中心的薬剤であるCyAやFK506はカルシニューリンを阻害してIL-2の産
生を障害し、アロ応答性T細胞の活性化を阻止する。ところが制御性T細胞の増殖
にもIL-2刺激は必要なため、これらの薬剤は実は免疫寛容導入を阻害する可能性
が指摘されている(11)。

こうした動物実験での成果から、臨床例において、移植片中、あるは移植後の末
梢血中の制御性T細胞の数の測定が行われ、GVHDとの相関が調べられるようになっ
てきた。しかし、これら臨床での観察は動物実験の結果と必ずしも一致していな
い。MDアンダーソンにおけるHLA一致同種PBSCT 60例における検討では、移植片
中のCD4+CD25+細胞が多いほうが急性、慢性GVHDの発症率が高かった(12)。
英国における、BMT、PBSCT計40例の検討では、慢性GVHD患者では非発症患者に比
較して、末梢血中にCD4+ CD25+細胞が増加したという(13)。

これらの研究の結果は注意深く解釈する必要がある。よく知られているように、
CD4+CD25+細胞は活性化T細胞と制御性T細胞の両者を含んでいる。両研究では両
者が区別されていないので、著者らも述べているように、制御性T細胞とGVHDの
関連を結論づけることはできない。CD25はIL-2レセプターであり、活性化された
T細胞に発現される。例えば前者では、ドナーへのG-CSF投与やアフェレーシス自
体がドナーT細胞を何らかの形で刺激して、CD25の発現を促す可能性も否定でき
ない。あるいは、もともと何らかの形で免疫系が活性化されたドナーからの移植
でGVHDが出やすいという解釈も可能である。いずれにせよ、PBSCTのGVHD発症危
険因子の候補が挙げられたという意味で価値のある研究だと考えられるが、まだ
まだ検討が必要である。後者でも慢性GVHD発症例でのCD4+CD25+細胞のCD62の発
現が低く、活性化T細胞をみている可能性が否定できない。

いずれにせよ、’”能動的”抑制の臨床的研究はやっと端緒についたばかりであ
る。Foxp3のようなマーカーを用いた検討が必要であろう。幸いなことに、ヒト
とマウスのCD4+CD25+制御性T細胞の形質や機能はかなり相同性が高いとされ、
今後、研究は急速に発展するだろうと考えられる。なぜGVHDが消腿していくのだ
ろうか?
1.  Tsoi MS, Storb R, Dobbs S, Thomas ED. Specific suppressor cells in
graft-versus-host tolerance of HLA-identical marrow transplantation.
Nature. 1981;292:355-357
2.  Bacchetta R, Bigler M, Touraine JL, Parkman R, Tovo PA, Abrams J, de
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production in vivo are associated with tolerance in SCID patients
transplanted with HLA mismatched hematopoietic stem cells. Journal of
Experimental Medicine. 1994;179:493-502
3.  Sakaguchi S, Sakaguchi N, Asano M, Itoh M, Toda M. Immunologic
self-tolerance maintained by activated T cells expressing IL-2 receptor
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causes various autoimmune diseases. J Immunol. 1995;155:1151-1164
4.  Taylor PA, Noelle RJ, Blazar BR. CD4(+)CD25(+) immune regulatory
cells are required for induction of tolerance to alloantigen via
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5.  Hoffmann P, Ermann J, Edinger M, Fathman CG, Strober S. Donor-type
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2002;196:389-399
6.  Cohen JL, Trenado A, Vasey D, Klatzmann D, Salomon BL. CD4(+)CD25(+)
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J Exp Med. 2002;196:401-406
7.  Taylor PA, Lees CJ, Blazar BR. The infusion of ex vivo activated and
expanded CD4(+)CD25(+) immune regulatory cells inhibits
graft-versus-host disease lethality. Blood. 2002;99:3493-3499
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9.  Joffre O, Gorsse N, Romagnoli P, Hudrisier D, Van Meerwijk JP.
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graft-versus-host disease after HLA-identical stem cell transplantation
in humans. Blood. 2004;103:1140-1146
13.  Clark FJ, Gregg R, Piper K, Dunnion D, Freeman L, Griffiths M,
Begum G, Mahendra P, Craddock C, Moss P, Chakraverty R. Chronic
graft-versus-host disease is associated with increased numbers of
peripheral blood CD4+CD25high regulatory T cells. Blood.
2004;103:2410-2416

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