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Vol.147 新型コロナワクチンだけではない 災害ボランティアに必要なワクチンとは?

医療ガバナンス学会 (2021年8月4日 06:00)


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この原稿はAERA dot.(2021年7月14日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/dot/2021071300018.html

NPO法人医療ガバナンス研究所内科医・研究員
山本 佳奈

2021年8月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

7月13日、九州南部に続き九州北部と中国地方の梅雨明けが発表されました。昨年より17日早い梅雨明けとなりましたが、梅雨入りは5月11日頃だったことから、2カ月間の長い梅雨だったことがわかります。

梅雨明けした地域でも急な雷雨など不安定な天気が続くという。その他の各地で大雨や洪水、浸水や土砂崩れの報告がされており、土砂災害や浸水への警戒が呼びかけられています。

7月3日、熱海市伊豆山地域で発生した土石流による土砂災害は、日本国内だけでなく、世界的にも大きく報道されました。私も、土石流に動画を見たときは言葉を失いました。今もなお行方不明の方がたくさんいらっしゃって、現地では捜索活動が続いているとのことです。この場をお借りして、被害にあわれた方に心よりお見舞い申し上げます。

全国各地にもたらされている水害。水害で壊れた家屋の片付けや、流れ込んできた泥や泥まみれの瓦礫の後片付けが必要になります。新型コロナウイルス感染症が流行するまでは、ボランティアとして被災地に行かれていた方も多いのではないでしょうか。

しかし、新型コロナウイルス感染症が流行してからは、感染拡大を防ぐ目的から、各自治体では原則、地元在住者のみボランティアを許可するなど、やむを得ず制限しているようです。例えば、昨年7月の熊本県の豪雨における被災地で活動する災害ボランティアの延べ人数は、昨年7月が1万5,834人、8月は1万4,918人でした。しかしながら、9月には3,251人に急減し、その後も減り続け、1月14日、県独自の緊急事態宣言を発令し、不要不急の外出自粛などを求めたため、1月のボランティア参加者はゼロとなりました。コロナ感染対策のため、募集対象を九州在住者に広げた時期もありましたが、基本的にはボランティアを県内や地元の在住者に限定しているようです。

7月7日時点で少なくとも1回接種した人が67.3%となったイギリスでは、今月19日にマスク着用や他人との距離確保のルールは廃止されるとの見通しとなっています。ボリス・ジョンソン首相は声明で、「われわれはウイルスと共存することを学び始めている」と指摘した上で、今後は法律による強制よりも、確かな情報に基づく個人の判断が重要だと強調したといいます。

日本はどうかというと、7月9日時点で、新型コロナウイルスワクチンを少なくとも1回接種した人の割合は28.5%です。4度目の緊急事態宣言下での東京オリンピック開催。イギリスのように早くワクチン接種を進めていれば、無観客観戦は免れられたかもしれません。

今は新型コロナウイルスワクチンに関心が集まっていますが、災害ボランティアをする際に必要なワクチンは、コロナワクチンだけではありません。国立感染症研究所は、接種を推奨するワクチンとして、麻疹・風疹混合ワクチン、水痘ワクチン、ムンプス(おたふく)ワクチン、破傷風ワクチン、A型肝炎ワクチンを挙げています。

以前もご紹介しましたが、破傷風のワクチン接種は災害ボランティアをする前にはぜひ接種していただきたいワクチンの一つです。片付けの際に手足に切り傷ができてしまうと、土や泥の中に潜んでいる破傷風菌が傷口から体内に侵入し、破傷風を発症します。重篤な場合、呼吸筋が麻痺して窒息死してしまうのです。

破傷風菌は酸素がある環境下では生きることができないため、熱や乾燥に強い芽胞という形で、世界中の土の中に広く生息しています。転倒による事故やガーデニングや農作業などの土いじりの際にできた傷口からの感染が最も多いと言われています。地中や木材に使用されている古いクギで怪我をしてしまっても、破傷風に感染するリスクが高いです。ボタンティアの際の、泥まみれの後片付けや壊れた家具やガラスの片付けなどでも気をつける必要があります。

A型肝炎は、A型肝炎ウイルスによる感染症です。汚染された食物や水の摂取、ウイルスが付着した手で口に触れることによる経口感染のほか、性的接触や便に排出されたウイルスによっても感染します。

上下水道が整備されている日本では、感染症発生動向調査によると、A型肝炎の報告数は年間100~300件で推移していましたが、2018年は年間累計925例の報告がありました。日本では、60歳未満のA型肝炎ウイルス抗体保有率は1%と低く、A型肝炎の流行が起こる危険性が指摘されています。

A型肝炎を予防するためのワクチンはありますが、残念ながら小児の定期接種には含まれていません。任意接種となっており、接種にかかる費用は自己負担です。主に、海外に渡航する際に必要なワクチンの一つとして接種されていましたが、災害ボランティアに参加する際はもちろんのこと、新型コロナウイルスワクチンを含め、個人の積極的な予防対策が今後さらに問われる世の中になってきているのではないでしょうか。

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