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臨時配信 vol 1 日本の製薬メーカーの課題

医療ガバナンス学会 (2004年5月31日 22:25)


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今回、日本の製薬メーカーの課題(M&Aを中心として)について、製薬メーカー
の視点から、少し議論したいと思います。

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《《日本の医薬品マーケットシェア動向》》
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皆さんご存知のように、日本の医療用医薬品マーケットは、アメリカにつぎ世界
第二位です。この大きなマーケットにおけるマーケットシェア変動は、近年著し
いものがあります。 P. Reed Maurer の”Japan Pharma Will(Must?)
Restructure”によると、1994年の時点では、外資系製薬メーカーのシェアは7.
02パーセントに過ぎなかったのが、2002年においては、22.13パーセント
にまで上がっています 。この外資系製薬メーカーのシェアアップ傾向は、今後も
続くと思われます。Nippon Pharma Promotion(NPP)が企画した、Japan’s
most admired pharmaceutical companies を決めるための調査によると、以下の
ような結果が得られています 。この調査結果(かなり主観的な調査)も、外資系
製薬メーカーの日本におけるさらなる繁栄を示唆しています。

●調査実施年:2003年
●調査対象:製薬メーカー、製薬卸および病院いずれかに所属する方
●調査項目
1.Quality of Management
2.Quality of Products
3.Potential for Growth
4.New Drug Discovery
5.Quality of Development
6.Quality of MRs
7.Profitability in the Future
8.Overall Opinion

●調査結果
1:Very Poor 2:Poor 3:Average 4:Good 5:Very Good

1.     Quality of Management

Takeda        4.5
Pfizer          4.0
Yamanouchi  3.8
Eisai           3.8

2.     Quality of Products

Takeda         4.2
Pfizer           4.0
AstraZeneca  3.8
Novartis       3.8

3.     Potential For Growth

Takeda           4.3
Pfizer             4.2
AstraZeneca    3.9
Novartis          3.9
GSK               3.9

4.     New Drug Discovery Potential

Pfizer             4.3
Takeda           4.1
GSK               4.0
AstraZeneca    4.0

5.     Quality of Development

Takeda           4.2
Pfizer             4.0
AstraZeneca    3.7
Novartis          3.7
GSK               3.7
Aventis           3.7
6.     Quality of MRs

Takeda           4.3
Yamanouchi     3.8
Eisai              3.8
Shionogi         3.7
Sankyo           3.7

7.     Profitability in the Future

Takeda          4.2
Pfizer            4.0
Novartis         3.7
AstraZeneca   3.7
GSK              3.7

8.     Overall Opinion

Takeda          4.4
Pfizer            4.1
Novartis         3.8
GSK              3.8

一目瞭然ですが、MRの質以外の項目においては、武田薬品を除いて、外資系企業
が高得点を得ています。MRの質が、マーケットシェア獲得の点で、製品の質を上
回ることは経験上極めて難しいことが周知の事実であるので、将来における日本
の製薬メーカーのシェア拡大(武田製薬は除いて)は、かなり難しいと予想され
ます。日本製薬メーカーの苦境は、今後も予想される外国製薬メーカー(Pfizer
を筆頭に)による日本の製薬メーカー買収(Rocheによる中外、Merckによる萬有
製薬買収のような)によって、さらに深刻化すると思います。しかしながら、こ
のことは、日本の製薬メーカーの視点からであり、日本の医療全体の視点からす
ると、外国製薬メーカーの日本マーケットに対するさらなるアプローチは、製薬
メーカー間の競争をより激化し、最終的には、日本の医療の質向上に貢献するこ
とであると思います。

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《《日本製薬業界M&Aのインパクト》》
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先にも、少し述べましたが、外国の製薬メーカーによる日本製薬メーカー買収
は、医療の質向上の観点からは、良いことだと思います。そのことは、製薬メー
カーによるM&Aの意義(製薬メーカーからの観点)を考えると分かりやすいと思い
ます。

製薬メーカーによるM&Aの一般的な意義

●株主利益の最大化(株価の上昇)
●マーケットの拡大
プロダクト間の売上げシナジー効果
(例、Rocheのリツキサンと中外のノイトロジン)
●競争力のある技術の共有化・プロセス(新薬臨床試験)の効率化
●Resource(資金、新薬候補、人的資源など)の拡大
●新規事業への進出

上記のように、M&Aによって、十分なResourceを確保した外国製薬メーカーによ
って、効果の高い新薬の市場導入が、よりスムーズに行われることは、明らかに、
日本の医療の質向上に繋がると思います。
では、外国の製薬メーカーによる日本製薬メーカーの買収は、日本全体として、
どのようなインパクトがあるのでしょうか? 近年、アメリカ・日本など先進国
において、雇用機会の中国・インド(労働者の低賃金国)へのアウトソーシング
が、問題として取り上げられています。日本人の雇用の確保・拡大という観点か
らすると、外国の製薬メーカーによる日本製薬メーカーの買収のインパクトは、
小さくないです。さらに、Corporate Taxの観点から考えてみると、日本の
Corporate Taxのルールに基づくと、日本企業が一旦外国籍の企業になってしま
うと、Corporate Taxの対象が、日本における収入のみになってしまうので、そ
のインパクトは大きいです。例をあげてみると、万一、武田薬品のような海外に
おいてもマーケットの獲得をしている会社が、外国の製薬メーカーに買収されて
しまうと、武田薬品の海外での収入が、日本政府によるCorporate Taxの対象か
ら外れてしまうわけです(日本国籍の企業であれば、海外における収入も、日本
のCorporate Taxの対象です)。国民健康保険、政管健康保険および老人健康保
険の一部を、国庫から捻出している日本にとっては、この税金の減収は、健康保
険の点からも、大きなインパクトがあります。ちなみに、自動車メーカーのトヨ
タは、2003年度に数千億のCorporate Taxを、日本政府へ支払っています。万一
(ありえないですが)、このトヨタが外国企業に買収されようものなら、その税
収へのインパクトは、ものすごいものがあります。日本の製薬メーカーは、より
世界的な競争力をつけるという意味に加えて、日本人の雇用の確保・拡大、税収
の観点からも、外国企業に買収されるのでは無く、買収する側になることを積極
的に考える必要があります。このことは、日本の製薬メーカーだけの責任ではな
く、政府・銀行も協力して解決すべき課題であると思います。最近の例をあげて
みると、皆さんもご存知のように、フランスのAventis社が、スイスのNovartis社
からの買収のオファーを蹴って、フランスのSanofi-Synthelabo’s社に買収され
ることに、合意したことが報道されました。この一連の動向は、Wall street
Journalでも毎週取り上げられていました。この買収劇においては、フランスの首
相が、政府官邸へAventis社のCEOとSanofi-Synthelabo’s社のCEOを呼び、フラン
ス国籍の世界的な製薬メーカー誕生へ向けて画策したことは有名です。その一方
で、フランス政府は、スイスのNovartis社によるAventis社買収への難色を示し続
けたわけです。この例を見ても分かるように、外国企業による、自国企業の買収
は、その国にとって、それほど大変なインパクトがあり、適切に対応しないとい
けないものです。日本も、日本国籍の企業同士(藤沢薬品と山之内薬品のような)
のM&Aに加えて、外国企業に買収される側ではなく、外国企業の買収をもっと積極
的に考慮する時期に来ていると思います。

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《《日本製薬企業による外国製薬企業買収の実情・課題》》
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日本製薬メーカーによる外国製薬企業の買収の例が、無いので、他の産業も含め
た日本企業による外国企業の買収(In-Out)の現状を少し紹介してみます。
Exhibit1は、製薬業界に限らず、日本企業が、外国企業を買収することがいかに
少ないかを示しています 。では、日本企業にとって、何が、In-Outのハードルな
のでしょうか? 日本企業と海外企業のCultureの違い、資金力の問題だけが問題
だとは思いません。In-Outを成功裏に納めることが出来る、知識とリーダーシッ
プを備えた人材の不足が課題なのでは無いか?と考えています。つまり、日本の
日産にフランスから乗り込んできて、改革に成功したカルロスゴーンのような人
材が、日本には少ない(いない?)からでは無いか?と考えています。話が飛躍
しますが、例えば、武田薬品にそのような人材がいれば、海外中堅製薬メーカー
を買収することに既に踏み切っているのではないかと思います。武田薬品を少し
分析して見ると、武田薬品は、コアビジネス以外(医薬品と比べると生産性の低
い、食品部門と農薬部門)をスピンオフしました。食品部門は、キリンビールへ
売却し、農薬部門は、住友化学へ売却したわけです。明らかに、M&Aへの準備をし
ているように見えます。少し、横道(かなり蛇足)にそれますが、何故、M&A
前に、コアビジネス以外をスピンオフするケースが多いかと言うと、そのことに
より、その会社の株価を上げることが出来るからです。何故株価を上げたいかと
言うと、M&Aの方法として、資金力が無い企業が企業買収する場合に、現金に
よる買収に加えて、株式交換という方法を選択することがあります。資金が不足
している会社の場合、買収に伴った株式交換に備えて、コアビジネス以外をスピ
ンオフして自社の株価を上げたいわけです。加えて、買収される側の株主にとっ
て、より株価の高い会社に買収される方が、よりメリットが高いわけです。その
ことは、買収する会社にとって、買収される会社の株主から、買収に対する合意
が得られやすいというメリットをもたらします。ですから、スピンオフを完了し
た武田薬品は、M&Aに向けて準備しているように見えます。そのM&Aが、In-Outな
のか?In-In(日本企業同士のM&A)なのか?興味深いです。
M&Aをうまく遂行出来る人材の育成が、日本の製薬メーカーを含めた日本全体の最
大の課題だと考えています。いかにそのような人材を育成するか?今後さらに考
えていく必要があります。

《参考文献》
1.  P. Reed Maurer Japan Pharm Will(Must?) Restructure Retrieved
on May 1 from http://www.npp.gol.com/article116.htm
2. P. Reed Maurer Most Admired Pharma. Companies in Japan Retrieved on
May 1 from http://www.npp.gol.com/article123.htm
3. RECOF M&A in Japan Retrieved on May 1 from
http://www.recof.co.jp/english/ma.html

 

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