医療ガバナンス学会 (2004年6月8日 20:00)
***********************************************************************
1.終わりの始まり
***********************************************************************
人はいつかは死ぬ。ちょっとの間だけ佇むのが人生だとしたら、その短い時間
に何が出来るのだろうか?
8月でもパリは寒い日がある。アンバリッドという元傷病兵の収容施設には、
金色のドームの下に皇帝の墓がある。
地下の広いスペースの中心にかつての皇帝は、今も安らかに眠っている。
その大きな棺を廻りより見つめる12の女神像は、彼の12度の遠征を表して
いるそうだ。
冷たく重い空気の中で、僕の背筋がぞっとするほど改まった。午後早い時間だ
というのに、人がいない。
棺の廻りをゆっくりと、物思いにふけりながら歩いた事を思い出す。
僕がナポレオンをお気に入りなのは、彼のたった一言からだ。
『民衆はその意に反してこれを救わなければならない』
フランスを心から愛した、ナポレオンらしい言葉である。
しかし、民主主義を愛する者からみたら、聞き捨てならない発言と映るかも知れない。
2004年の4月に、日本の多くの国会議員や閣僚が国民年金未払いで国民に恥を
晒し、連日マスコミを賑わせた。与党も野党も未払い兄弟で、挙句の果てには官
房長官まで辞任する始末である。
殆どの国民も怒り発心で、チャンネルを回しても、道行く人はカンカンでテレ
ビインタビューに答えていた。
けれどもそれが悲しいかな、議員年金廃止運動に展開したという事はなく、た
だ怒り散らしてガス抜きをし、『政治不信』と心で捉えるだけだ。そして何も変
わらずにほとぼりが冷めて、また同じ事の繰り返し。
行動力のある指導者のいない国民の悲劇だろう。
僕自身は、とっくに日本に対して見切りをつけている。
昔の事だが、群馬県庁で不正経理事件が発生した。
各課単位で帳簿をごまかし裏金を作り、飲み食いに使っていたのだ。
それを追求していたオンブズマンは、情報公開を求めて署名活動を開始し、意
気に感じた僕も署名用紙を請求した。
一週間という期限を付けて友達に渡すとみな同じ気持ちで、快く引き受けてくれた。
ところがどうだろう。一週間後に聞いてみると、車の中に入れっぱなしだった
り、かばんの中で丸くなっていたり。
僕の初めてのボランティア活動が、最後のボランティア活動になってしまった。
それ以後は、決して選挙に行く事もなく、政治や国に対する批判も行わなくなった。
税金を納めるときには、『どうぞお好きなように使ってください』と心の中で
思っている。
腐りかけている物を途中で救うのは1番難しい。
溺れている人間は、じたばたするほど深みにはまる。
じっとしていて最後まで沈んでしまえば、いつかは水底に足が付き、初めてジャ
ンプし浮上できる。
再生は徹底的に落ちぶれなければ無理だろうというのが僕の持論だ。
日本が没落するのを、静かに、僕は楽しく待っていた。
だか、ひょんな事からまたボランティア活動に入ってしまった。これも運命な
のだろうか。致命的なミスか。単に僕が馬鹿なだけか。
1番難しい時期に、医療環境を浮上させる役目とは。
しかし、僕は基本的にこれを行う使命を担っている人間ではない。医療分野は
専門外だ。また、そんな能力もない。
よって、もうこの活動を辞める時期が見えてきた。
1.患者の権利法の制定
2.中医協メンバーへ患者の代表を入れる
3.医師の資格の更新制導入
4.セカンドオピニオンへ保険点数を付ける
だけだ。
後は誰か優秀な人間がやってくれるだろう。
***********************************************************************
2.日本人の心理
***********************************************************************
行いたい活動の1番バッターである患者の権利法を作る活動では、最初に一緒
に活動をしてくれる仲間を求め、各患者会へ連絡を取った。
この時に最初にコンタクトを取る患者会として絞り込んだのは、婦人がんと難
病の団体だった。
その理由は、婦人がんはもしガールフレンドが病にかかった場合に、少しでも
良い医療環境になっていれば良いと考えた事と、男子より女性の団体の方が熱心
だろうという予測からだ。
難病団体は、患者の数が少ないので、がんのような多数の疾患の団体と連帯を
組む事の重要性が身を持って理解しているのではないかという考えからだった。
それでも過去にボランティア活動を辞めた経験から、賛同しご協力してくれる
団体は半数以下だろうとは読んでいたが、ひとつだけ予測が外れた事体があった。
共同参加のお断りをして来た団体は、大きく分けて2つの理由をあげていたが、
そのひとつがとても意外だったのだ。
予想していた方の理由は、『総論賛成、各論反対』というやつだ。
送られて来たメールは、『とっても素晴らしい活動です。私たちも患者の権利
法が必要と思っています。ただ、今は忙しく人手がありません』
みな一様に必要性を認めながらも、後半は何らかの否定的な言葉が続く。
根本的に僕らがこの活動を始めたのは、過去の世界的な標準治療薬が国内では
未適応などの問題を通して、このような各論をいくら繰り返しても、根本の部分
も改めないと、いつになっても環境は改善されないと気が付いたからだ。
よって木で言う葉っぱの部分(各論)も大切だが、それと平行して幹の部分(総
論)も同じように大切なので、同時に並行して活動をしなければならないという
事実だった。
自宅の庭が汚れると気になるくせに、環境問題は無関心。遠くの発電所は関係
ないが、近所に出来ると分かると大騒ぎ。僕はこのような日本人根性にうんざり
している。
2番目が全く想像していなかった事で、それは『政治的な活動はしない』とい
う理由だ。
これには本心から驚いた。
政治的な活動は、患者会の活動とは相容れないらしい。
患者はいつも弱い立場で、お上に最良の医療を要望し、与えて貰うのがベスト
なのだろう。
政治とは人と人が集まって何かを決める事であり、地域で生ゴミの日を何曜日
にするかを決めるのも立派な政治だ。
決して永田町ではらわたの黒い連中がドロドロとして行っている事だけではない。
患者会からのメールを読んで、日本の文部科学省の教育は、大変成功したなと
思った、自分達の都合の良い教育が成功したなと。
これからも選挙の投票率は上がらずに、影でグチグチいう日本人が量産されて
行くだろう。
お返事が無かった患者会も含めて、僕はそれぞれの組織に2度までメールを書
いたが、それ以上はしなかった。
理解できない人々を説得する事は時間の無駄だし、もっと有用な時間の使い方
があるからだ。
***********************************************************************
3.悪党募集中
***********************************************************************
僕はいつでも現実的な選択をする。現状を理解、分析して、活用する。
以前僕は、患者会の活動を『これはゲームだ』と発言し、『患者をゲームのだ
しに使う気か』と大変お叱りを受けた。
もともと僕はこれまでのボランティア活動とは対極に位置する人間であり、戦
略を考え戦術を練り、目標達成までの最短距離を計算する。
患者にとっては希望が叶えば良いのであり、成果が出なければ、それは何の意
味も無い無駄な汗と時間と僕は認識する。
自己満足だけのボランティアほど、はた迷惑なものはない。
ボランティアも、結果だけで判断すれば良いのだ。最良の結果を出すためには、
どのような人材がベストか?
相手は海千山千のお上や政治家、医療提供者の集団であり、人も金もある最強
の連中だ。
彼らに知恵で対抗するために、僕は優等生は募集しない。
優等生が集まって会議を開いても、役に立つ意見は殆どでないからだ。
僕が1番必要な人材は『悪党』
賢くてずるく、人を出し抜くワル。
国だって、消費税を内税にして国民の納税感覚を鈍らし、再度消費税引き上げ
の足場を作るなど、お上ながらその狡猾さにはアッパレと思う。そんな連中に対
抗するのだ。
『患者本位の医療実現』という御旗の元、善良な人々から泥を浴びせられても、
賞賛も受けられなくとも、ずる賢く集団をリード出来る人材を僕は求めている。
自分の信念を客観的に自己批判し、それでも正しいと信ずるのなら、周りの理
解・協力が得られなくても、徹底的にワルに徹する。
国民を、患者を救えるのは、優等生ではなく、そのような理想を持った悪だと
僕は信じている。
アンバリッドのナポレオンも、僕にとってはヒーローではなく、
最大・最強のワルの親分なのだ。