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vol 12 臍帯血移植

医療ガバナンス学会 (2004年6月25日 20:00)


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成人に対する臍帯血移植

Umbilical cord blood transplantation in adults using myeloablative and
nonmyeloablative preparative regimens.
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Koh LP, Chao NJ.

Biol Blood Marrow Transplant. 2004 Jan;10(1):1-22.

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前書き
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本邦における非血縁臍帯血移植(Cord blood transplantation: CBT)は、この数
年急増し、特に成人例における増加が著しい。臍帯血保存業務の発達およびHLA2
座不一致までは移植可能であることが要因と考えられる。計算上、2万個の臍帯
血が保存されると成人例でも90-95%の症例に移植を目的とした臍帯血の提供が可
能とされ、既にその2万個の目標を達成しつつある。体重あたりの細胞数が限ら
れることから、主に小児領域で発展した分野であるが、本邦においても成人にお
けるCBTの安全性と有効性が従来型の骨髄破壊的移植前処置による移植
(Conventional stem cell transplantation: CST)、および骨髄非破壊的移植
(Reduced-intensity stem cell transplantation: RIST)ともに報告されている
(1-3)。最近、成人に対する臍帯血移植について総説が報告された(4)。

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要約
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成人に対する非血縁者間臍帯血移植の実施数が増えている。幹細胞の探索が容易
であることとGVHD (移植片対宿主病) の発症頻度が従来の移植法と比較して低い
傾向にあることから、造血幹細胞移植法の中で一つの選択肢として注目を集めて
いる。骨髄非破壊的前処置を用いた非血縁者間臍帯血移植が研究的に行われてお
り、移植適応の拡大につながる可能性がある。

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解説
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1)臍帯血移植
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臍帯血移植の数が増加しており、全世界にて2000以上に達する。臍帯血移植の利
点は幹細胞ソースの獲得が容易であること、ドナーに負担のないこと、サイトメ
ガロウイルスをはじめとして感染症伝播の可能性が低いこと、急性GVHDの発症頻
度が低いこと、HLA (ヒト白血球抗原) 適合の基準が厳格でないことである。臍
帯血には生着が可能な量の幹細胞が含まれているが、他の幹細胞移植と比較して
生着率は低い。HLA不適合が急性GVHDのリスクとなることが推測されるが、重症
急性GVHDの頻度は予想以上に高くはない。幹細胞ソースとして臍帯血を使用する
ことで、HLA一致血縁者ドナーおよびHLA一致非血縁者ドナーが存在しない患者に
同種移植治療を提供することができる。臍帯血移植においてはGVHDの発症率が低
い一方で、移植後再発のリスクが高くないことが示唆されており、移植法のひと
つの選択肢として注目されている。生着遅延および拒絶のリスク、治療関連毒性
が高いことが課題である。

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2)成人に対する臍帯血移植
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2-1) 移植成績
10例以上の患者集団を対象とした報告は8つある(1,5-9)。年齢の中央値は26-40
歳で、体重の中央値は51-70kgである。対象疾患は造血器悪性腫瘍、骨髄不全症
候群、骨髄異形成症候群、先天性代謝性疾患となっている。HLA不適合の数は0-3
の間であり、HLA不適合移植の割合は79%-100%であった。骨髄破壊的前処置はTBI
(全身放射線照射) および、Busulfan・Cyclophosphamide・Melphalanなどの化学
療法薬を主体とされており、ATG (抗胸腺グロブリン) が使用される場合がある。
輸注有核細胞数の中央値は1.5-2.43×10^7/kgであり、輸注CD34陽性細胞数の中
央値は0.79-1.37×10^5/kgであった。移植後60日の時点で生着する割合は
70-100%であり、好中球数 500/ul以上となるのに必要な日数の中央値は22-32日、
血小板数 20,000/ul以上となるのに必要な日数の中央値は26-129日であった。
GVHD予防としてCyclosporin A、プレドニゾロン、FK506、Methotrexateなどが使
用されている。GVHDの発症率に関して、Grade II-IVの急性GVHDの発症率は
40-60%、Grade III-IVの急性GVHDの発症率は20%程度であった。慢性GVHDの発症
率は26-90%とばらつきがある。治療関連死亡率は0-56%、生存率は移植後1年の時
点で20%程度のものから移植後3年の時点で76%まで様々である。輸注細胞数が多
いこと、年齢が低いこと、疾患状態が良好であることが移植成績の向上に関連す
る傾向が見られている。

2-2) 造血回復と生着
骨髄移植や末梢血幹細胞移植と比較して臍帯血移植においては生着不全のリスク
と造血回復の遅延が見られる。輸注有核細胞数や輸注CD34陽性細胞数が少ないこ
と、幹細胞が未熟であること、リンパ球が未熟であることが生着不全の要因と考
えられている。輸注細胞数の多さが生着に有利に働くことを示す報告が2つあり、
また、輸注CD34陽性細胞が多ければ、生着の可能性は良好であると報告されてい
る。成人に対する臍帯血移植においてはレシピエント体重の重さにより体重あた
りの輸注細胞数が減少することが懸念される。輸注細胞数を確保する目的に複数
の臍帯血を輸注する試みもなされている。
臍帯血移植に必要な輸注細胞数は定まっておらず、各施設で種々の閾値が設けら
れている。現在得られる臨床データからは、輸注有核細胞数が1.8×10^7/kg以上
であることあるいは、輸注CD34陽性細胞数が1.2×10^5/kg以上であることがソー
スを選ぶためのひとつの基準となる。

2-3) 免疫回復
リンパ球の回復に関して、CD4+T細胞は移植後 12ヶ月, CD8+T細胞は 8ヶ月であ
り、CD4/CD8比の逆転は臍帯血移植後では見られない(10,11)。NK細胞の回復は3
ヶ月後であり、B細胞の回復は6ヶ月後である。成人および小児に対する非血縁臍
帯血移植におけるT細胞の解析において、臍帯血のT細胞はnaiveであり、臍帯血
移植後のT細胞回復は主に輸注されたドナーT細胞の末梢における増幅により、そ
れがT細胞レパトアの再構成につながる。成人に対する臍帯血移植では移植後
1.5-2年までは胸腺由来であるT細胞が見られず、見られても少数である。

2-4) GVHD (移植片対宿主病)
臍帯血移植においてはHLA不適合の幹細胞が使用されるが、HLA適合非血縁者間骨
髄移植やHLA不適合血縁者間骨髄移植と比較して、臍帯血移植におけるGVHDの発
症率は同程度もしくは低い傾向にある(1,2)。HLA不適合の数とGVHDのリスクとの
間の関係は未だ不明確で、小児の臍帯血移植の報告において、両者に相関はない
とする報告が多い一方で、明らかな相関関係を認める報告が存在する。成人に対
する非血縁者間臍帯血移植の報告においては症例数の少なさからHLA不適合と
GVHDの発症率の関係に関して結論が出ていない。

2-5) 治療関連毒性
小児を含めた臨床研究において、感染症と急性GVHDが治療関連毒性の主要な原因
となる。成人に対する臍帯血移植では、高リスク患者を対象とする研究において
移植後100日の時点で43-56%と治療関連死亡の割合が高い一方で、低リスク患者
を対象とした研究においては治療関連死亡の割合が低い報告が存在する。移植後
100日の時点での治療関連死亡を低下させる因子として、疾患状態が良好である
こと、輸注有核細胞数が多いことが挙げられている。感染症のリスクとしては生
着遅延、GVHD、免疫回復不全が考えられている。いずれの報告においても50-55
歳の患者が対象とされている中で、前処置に伴う臓器障害から前処置関連死亡が
認められており、前処置の検討の余地がある。輸注有核細胞数と前処置および補
助療法の適正化が課題となる。

2-6) 再発
移植後再発は臍帯血移植後の死因のひとつとなる。臍帯血リンパ球の未熟さと細
胞障害活性の低下から移植片対白血病 (GVL) 効果が弱いことが予想されている
が、小児領域の臨床研究においては臍帯血移植、HLA一致同胞間骨髄移植、HLA一
致非血縁者間骨髄移植を比較して移植後再発率は同程度であると報告されている。
移植前の疾患状態が再発に影響することが観察されている。成人の臍帯血移植に
おいては症例数が少ないことと観察期間が短いことから移植後再発に関して明確
な結論は得られていない。成人の臍帯血移植の報告において、移植後再発が死因
となる割合は6-35%となっている。

2-7) 生存
小児領域の臨床研究においては、移植時の疾患状態、HLA適合、輸注有核細胞数、
輸注CD34陽性細胞数、年齢、GradeIII-IVのGVHD発症、CMVの状態が移植成績に関
与することが報告されている。成人に対する臍帯血移植において移植成績に関与
する因子として、移植時の疾患状態、輸注有核細胞数、輸注CD34陽性細胞数、年
齢が指摘されている。多くの報告ではHLA不適合と生存との関係を証明できてい
ないが、New York Blood Centerにおける861例の非血縁者間臍帯血移植のまとめ
によるとHLA適合が無病生存率に影響することが指摘された(5)。

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3)成人に対する骨髄非破壊的臍帯血移植
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骨髄非破壊的前処置は骨髄破壊的前処置による治療関連毒性が強くなる患者に対
して、前処置を軽減させた幹細胞移植を行う移植法であり、高齢者や合併症をも
つ患者を主たる対象として発展した。免疫抑制の十分な前処置を使用することで
安全な生着が得られること、前処置関連毒性を減らせることで、移植法のひとつ
として定着した。骨髄非破壊的前処置の定着とともに臍帯血移植の前処置として
骨髄非破壊的前処置を使用することが試みられている。
骨髄非破壊的臍帯血移植に関して4つの報告が存在する(1,9)。年齢の中央値は
17-64.5歳。対象疾患は主に造血器悪性腫瘍、骨髄不全症候群、骨髄異形成症候
群、先天性疾患となっている。HLA不適合の数は0-2の間である。骨髄非破壊的前
処置はFludarabineを主体として、200cGyのTBIおよび低用量のBusulfan・
Cyclophosphamideなどの化学療法薬が組み合わされ、ATGが使用される場合があ
る。GVHD予防としてCyclosporin A、プレドニゾロン、FK506、MMFなどが使用さ
れている。輸注有核細胞数の中央値は1.1-5.0×10^7/kgであり、輸注CD34陽性細
胞数の中央値は1.3-4.3×10^5/kgであった。生着する割合は30-94%であり、好中
球数 500/ul以上となるのに必要な日数の中央値は8-26日であった。骨髄非破壊
的前処置を用いた場合に必要な細胞数の検討は不十分である。生存率は移植後1
年の時点で30%程度である。

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文 献
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