医療ガバナンス学会 (2004年7月1日 21:00)
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第二回 薬剤師と医療ミスの関わり
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医療法人財団 順和会 山王メディカルプラザ
薬剤室 森 玄
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①始めに
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医療事故が注目されて久しくなります。人気を博した「白い巨塔」も医師の世界
の内情を描くと共に、医療過誤についても描写されていました。「サンデー毎日」
に連載されたのが1963年から65年ですから、40年も昔から同じようなことが論じ
られていたのでしょうか。【医療過誤】いりょう‐かごとは、診断・治療の不適
正、施設の不備等によって医療上の事故を起すこと。誤診・誤療などがその例。
刑事上・民事上の責任を問われうる。【資料・岩波広辞苑第4版より】と、あり
ます。薬剤師は医療事故を無くす為に、どう貢献できるのでしょうか。
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②医療事故と薬剤師
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医療事故に薬剤師が関わる時には2つの事例が考えられます。まず、処方箋や院
内製剤(1)を調剤する際に指示通りにせず、間違ってしまった時。Aという薬品を
入れなければならないのにBという薬品を入れてしまった…という、直接間違い
を起こした場合。もう一つは、処方箋や指示通りには調剤したけれど、添付文書
上における間違いに気付かずに調剤した時。抗生物質を精製水にて溶解するよう
処方箋通りに調剤したが、その抗生剤には「精製水で溶解しないように」との記
載が添付文書にある時や、投与後、次回の投与は3週間後に行うような抗がん剤
の投与指示が連日投与とされている…という、医師の指示通りの調剤は行ったけ
れど、薬剤師における職務が果たされていない場合です。始めの例は、処方箋上
からミスに気が付かなければいけない例で、後の例はシステムによって防止しな
ければいけない例です。しかしながら、2つの事例共に関して申し上げると、処
方箋を書いた時点でその処方箋は医師の手を離れており、その先は薬剤師の領域
と考えると医師の指示通りであろうが無かろうが、事故があった場合には薬剤師
の責任とも言えるのではないでしょうか。
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③実際の調剤事故の例
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薬に関する調剤過誤は、昭和26年に薬局にて院内製剤されたヌペルカインによっ
て患者が死亡した事件(2)があり、抗がん剤関連では抗がん剤の8倍投与(3)やイ
ンターバルをおいて投与しなければならない抗がん剤の連日投与(4)、タキソー
ルとタキソテールの誤入力(5)による投与等がありました。これらの事故におい
て薬剤師はどう関わっていたのでしょうか。また、事故を防止するようなシステ
ムは構築されていなかったのでしょうか。そして、この事件から何を学ぶべきな
のでしょうか。
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④疑義紹介徹底の通達(6)
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平成14年4月には日本薬剤師会より「疑義紹介の徹底」が通知されました。院外
薬局において継続応需中であり継続治療中の患者に、常用量10倍量もの処方量に
対して疑義紹介を行わず、調剤し、その服用によって患者が死亡したという事故
によります。アレビアチン細粒(97%)は、アレビアチン10倍散(7)との間で以前
より調剤事故が多く、製造中止という事態に発展した薬の猶予期間中の出来事で
した。そんな経緯のある薬に対してはより一層の注意が必要だったのではないで
しょうか。
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⑤医療事故を防止するための医薬品の表示事項及び販売名の取り扱いについて
(8)
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医療事故防止の観点から厚生省医薬安全局長より行われた要請は、誤用を招きや
すい剤型や販売名のつけ方に対しての注意喚起でした。バイアルの形の外用剤、
点眼剤に類似した外用液剤に対して使用法を間違えないように!と。また、内服
薬「ビ・シフロール」は、抗悪性腫瘍剤「ミフロール」と名称が類似していると
いうことで製造承認時の名称「シフロール」から変更されました。前述のタキソー
ルとタキソテール。製品名も使用用途も似ているこの2つの薬には薬瓶にレイの
首飾りのように注意喚起の紙が掛かっています。それぞれ、似た薬品名と常用量
に注意!との事。前述のヌペルカインの事故も、ブドウ糖液と類似した容器、ラ
ベルから誘引された事例です。事故に関してハードからも予防することは必要な
事だと考えます。
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⑥医療ミスを減らすには
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薬剤師が勉強する機会は製薬会社や卸が主催するような勉強会の他、薬剤師の組
織による勉強会があります。しかしながら、必要な知識が多すぎて人間だけで全
てのミスを無くすのには限度があります。添付文書記載の副作用、禁忌、相互作
用について全部覚えるのは至難の技です。やはり、この点においてはコンピュー
ターを使用する事によって薬品相互作用や容量のチェック、手書きによる読み辛
さの解消や記載漏れの防止を期待したいです。また、コンピューターと言えば、
最近では散剤を調剤する際にバーコードを使用して何を何g量り取ったか記録と
して残る機械も一般的になってきました。一旦混ぜてしまった粉薬も、後から何
を混ぜたか確認できる事が目的です。こういったコンピューターに任せる事は任
せた上で、薬剤師は薬剤師としての責務を果たす事に集中すべきです。
その責務こそ、医療ミス解消に貢献できる疑義照会だと考えます。薬剤師法第24
条に記載されているから行う。ではなく、ミスを防ぐ砦として取り組むべきです。
例えば、薬暦を使用する事によって処方を再度チェックする。これは、外来処方
でも抗がん剤でも同じことです。特に、最近では抗がん剤でも普通薬でも投薬に
日数制限のある薬が増えてきました。抗がん剤にはインターバルを含めた確実な
処方が必要ですし、普通薬でも規定以上の服用は効果が無いどころではなく、副
作用が懸念されます。疑問が生じたら質問をし、また、患者とも話をする。患者
と薬の話をする事によって副作用に気が付いたり、勉強するネタを頂いたり。少
しでもミスの起こる確率を下げる事に貢献できると思います。その他、抗がん剤
においては商品名の似ている商品に関してそれぞれ成分名(9)で呼ぶようにし、
処方箋も成分名にて記載されています。事故の防止と、起こってしまった事故か
ら事故防止への改善。それは、医師や看護師、医事課といった病院内において職
員同士連絡し、確認するといったコミュニケーションを含めたシステムの改善が
大切だと感じています。また、その改善には薬剤師が自ら旗を持ち、誘導してい
く。薬に関して専門家であるという気概をもって働きたいです。
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⑦最後に
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こういった改善の積み重ねを行う事でミスは減少することが出来ると考えます。
しかしながら、減少ではなく、目的は無くす事です。ただ、②で書いたような精
製水で溶解するという例において、薬剤師が気付かなかったとしても問題が表面
化することはまれでしょう。このような例は氷山の一角であり、露見しなかった、
実害が無かったために表面に出てこなかった事故は無数にあったはずです。まず
はこういった添付文書上で明らかな事態が起こる事を無くすことです。壁や薬の
在庫場所に溶解法や溶解時における保存期間を記載した紙を貼ったり、院内で勉
強会を行ったり。また、事故もどこからどこまでが事故なのでしょうか。漫画で
も話題(10)となった投与、サリドマイドの使用(11)も日本では認められていませ
ん。海外では使用されていて日本では使用されて無い薬、用法・容量はまだまだ
あります。薬剤師に求められていることは、まず、日本の適応と照らし合わせ、
疑問を持った場合には照会する事です。しかし、それだけではただの自動改札機
であり、薬剤師に必要とされているのは勉強する努力と共に、意見を述べられる
ようになることです。確かに処方の疑義照会を行ったとしても不可解な回答が得
られる場面に多く遭遇したり、普段から処方自体に疑問を多々持っていたりする
状態ならば、なかなか勉強を行ったとしても生かす事無く、長続きできるもので
はないでしょう。また、調剤薬局と処方医の場合、関係悪化は処方箋が回ってこ
ないという現実問題との狭間である事も理解できます。しかしながら、薬剤師が
作った薬は患者のところに行き、患者は現に投与を受けている!と、いう現実は、
勉強の必要性を感じるのに十分な理由ではないでしょうか。
まず始める事は、より薬に詳しくなる勉強をする。私は、”プロフェショナルと
は難しい事を、知らない人にどれだけ易しく説明できるか”が勝負だと考えて勉
強してきました。患者にどれだけ簡単に分かりやすく説明できるか?が、鍵だと
考えていました。それを少しは実現できるようになった今は”医師と処方に対し
て話が出来る薬剤師になる”事を現実に移す為に勉強しています。
(1) 院内製剤:個々の病院において作られる独自な薬。
(2) 看護婦静脈注射薬品過誤事件:最高裁昭和28年12月22日第3小法廷判決;別
冊ジュリスト医療過誤判例百選 [第二版]より
(3) 2000年3月10日 毎日新聞より
(4) 2000年4月27日 毎日新聞より
(5) 2003年10月22日 朝日新聞より
(6) 日薬業発第20号 平成14年4月16日
(7) 10倍散:1gの原末に9gの乳糖などを加えて10倍に薄めた散剤の事
(8) 医薬発第935号 平成12年9月19日
(9 タキソール:パクリタキセル、タキソテール:ドセタキセル
(10) ブラックジャックによろしく:講談社刊
(11) 2004年1月7日読売新聞より