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Vol.176 早期発見早期治療へ

医療ガバナンス学会 (2021年9月13日 06:00)


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某保健所長

2021年9月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)には早期発見早期治療がかかせない。重症化した後の入院治療は困難を極める。

早期治療が何故重要か?それは、COVID-19の臨床像を、感染後増殖するウイルスによって引き起こされる病態とそれが引き金となって全身の炎症へ進んだ重症化の病態に分けて考えればわかりやすい、もちろん二つの病態は重なりあい、繋がっているが。

全身の炎症である重症化の病態に進ませないためには、当然、ウイルスを増殖させないことが肝要である。ウイルスが増殖しきって全身に炎症が及んだ重症化段階では、既に体内ではウイルスは減少、そしていなくなってしまう。ウイルスがいなくても、連鎖反応的に炎症が燃え盛り、Interleukin-6などを中心としたCytokine Stormを引き起こし、違う次元に進んでしまっている。ポジティブフィードバックにより、手の付けられない激しい炎症へと病態が変わっているのだ。この全身の炎症に投与できるのは、ステロイドとかトシリズマブ(アクテムラ)等しかないであろう。肺はウイルス性間質性肺炎から進展してARDSとなり、人工呼吸器やECMOが必要な状況になっている。

だから早期治療とは、ウイルスが増えきって重症化の段階に至ってしまう前に、つまり、ウイルス増殖期のうちにウイルスをたたくことを意味する、出来れば増殖期のなるべく早い時期に。増殖期のウイルスをたたく治療が有効なことは、最近の抗体カクテル療法でも明らかになった。ウイルスは、投与された(中和)抗体より体内の受容体に結合出来ず、細胞内に入って増えることができないだけでなく、抗体が結合した細胞外のウイルスも速やかに除去される。この抗体の半減期は1ヶ月程度と長く、理論的にはウイルス殲滅が望め、重症化には向かわない。つまり、ウイルス増殖期であるかどうかが鍵となるが、PCR検査によるウイルス量の定量化が行われていないため、適応は経験的に発症後7日以内、軽症か中等症までとなっている、おそらくウイルス増殖期であろうと仮定して。また、静脈内投与かつ供給量に限りがあるため、重症化リスクのあるものと限定せざるを得ない 。

ウイルス増殖期のうちにウイルスをたたく発想は、抗ウイルス薬(RNAポリメラーゼ阻害薬)を使っても同じだ。ウイルスの増殖自体を抑制するので、より効果的かもしれない(即効性では抗体カクテル療法に分があり実績もあるが、前述したように供給量の問題は大きい)。実際、レムデシビル投与では、ウイルス増殖期であれば、体内のウイルス量を測ると激減する。2日程度で十分だが、やはり、静脈内投与のため、入院の形態が望ましい。10月から保険適応となるが、今でも供給量には問題ない。しかし、適応がウイルス性肺炎を既に起こした状況というのはどうなのだろうか?もっと早期の投与がより効果的なはずではないか(以前は重症化後となっていたが、これでは上記に述べたように効果は望めない)。しかし、やはりウイルス量測定は必須であろう。

経口薬であるアビガンはどうか。アビガンの効果については疑問視する結果が出ているが、治験はウイルス増殖期に行われたものであろうか?もう抗ウイルス薬の効果がない、ウイルスが減ってきている状況、重症化段階で行われたものではないだろうか?治験の詳細を調べるとウイルス量を調べて治験を行っていないこと、ウイルス増殖期とは無関係に治験を行っていたかがわかる。繰り返すが、抗ウイルス薬はウイルスの増殖を抑える薬なので、ウイルス増殖期に使わないと効果がない。しかも、2〜3日程度とか短期間で十分で、長く使えば効果があると言うわけではなく、むしろ副作用が強くなる。アビガン投与は極めて長く設定されており、これは考え直すべきだろう。経口薬なので、より多くの症例で使うことが可能で、重症化リスクのある症例のみの縛りは取れるし、経口薬かつ国産であることは極めて大きな武器となる。実際にウイルス増殖期にアビガンを投与すると、ウイルス量は激減する。しかし、今使うならば治験に参加しなければならないことは大きなマイナス点だ。こちらも、ウイルス量測定が望ましい。

抗体カクテル療法、レムデシビル、アビガンを早期に使うことは重要だが、各々一長一短がある。インフルエンザのように、早期に、つまりウイルス増殖期にすぐに経口投与可能な抗ウイルス薬が使用可能となることが待たれる。もし、治験中の新薬があれば、ウイルス増殖期投与を徹底して欲しい。その上で、効果をウイルス量の減少で見ることが必要だ。

更に、ウイルスを激減させたあとに、抗炎症作用のある副腎皮質ステロイドホルモン、デキサメサゾンを投与することも検討したい。ウイルス増殖期でのステロイド単独投与はウイルスの増殖を助け、むしろ禁忌だ。一方、ウイルスを激減させた後のステロイド早期使用は、全身への炎症波及を抑える、重症化へ向かう連鎖反応を断ち切る効果が期待される。

このようなことから、早期発見早期治療がCOVID-19には重要だ。それには、症状が出たらすぐに医療機関を受診し、すぐに検査できる体制が必須となる。ウイルス増殖期では、抗原定性検査で十分だろう。そして、陽性ならば上記の治療へ直ちに繋げなければならない。PCR検査の定量化が難しい場合は、抗原定量検査でウイルス量の変化をみればいいだろう。その後、自宅治療の形にして、病院と診療所の連携(病診連携)のもと、医療が責任を持つ体制、これこそが今すぐに行わなければならない対策、そして実行可能な対策だ。

なお、最初に提示した病態の重症化は最悪の経過をたどった場合である。全員がそうなるとは限らないが、そうならないとも限らない。重症化のリスク要因は言われているが、それが無くても、若くても何故か重症化する人は重症化する。だから、重症化する前に、全員を治療することが望まれる。

一方、多くは治療しなくても治癒に向かう(無症候も含めて)、このことがCOVID-19の対応を皮肉にも難しくしている。それには、自己の体力、免疫力とでも言う力が関係しているのであろう。そうであれば、漢方の出番が考えられる。今回は漢方薬の詳細については省略したが、経口薬である漢方薬を加えることも非常に有効なことも強調しておきたい。感染症のパンデミック、それを想像させる疫病の大流行への漢方薬の効果は既に古代から知られている。人類にとって感染症との戦いは古代から続いているのである。

最後に、自宅治療とした場合、その患者の管理を医療だけに任せることは現実的には無理がある。医療に生活支援を含めなければならず、病院と診療所と保健所の連携(病診保連携)だけでなく、市町村とも連携が必要だ。それには各々の情報共有が必須だが、個人情報保護を誤って解釈し、それに凝り固まった保健所職員が多く、大きな妨げとなっている。その意識改革は早急に行うべき課題である。病診保連携でさえ個人情報保護を盾に拒む幹部職員もいる今、国や都道府県を挙げて直ちに改革に取り組んで欲しい。

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