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Vol.175 首相辞任の原因か?コロナ感染症対策についての各種批判やコメントはすべて的外れ~公表新規感染者数情報にだまされて実際の市中感染者数を知らないままなのだから~

医療ガバナンス学会 (2021年9月10日 06:00)


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東京理科大学基礎工学部名誉教授
山登一郎

2021年9月10日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

先のメルマガ8月31日Vol.167 ( http://medg.jp/mt/?p=10483 )で、これまでのコロナ対策において、公表新規感染者数情報しか考えず市中感染状況情報把握を無視していた元凶として、専門家たちの有症者とクラスター対策だけで無症状者特定無視の検査制度設計を批判しました。この間ネット・報道で、検査漏れで公表新規感染者数情報よりもっと多い感染者がいる可能性について言及が増えました。もうすぐ民間自費検査情報も収集されるようになることを期待します。
また、福井県の「野戦病院」に触発されて、各地でそうしたマスの療養施設開設が始まりました。
以上2点、1)民間自費検査情報収集やモニタリング検査による市中感染状況情報の収集と国民への公開・共有および2)マスの療養施設による感染陽性者の隔離で、今後科学的な分析による科学的なコロナ感染症対策が可能になることを祈ります。

さて、日本のコロナ感染症対策はほとんどすべて不手際でした。その原因について、各種批判がネットや報道で喧しい。実はそれら批判は大抵が的外れでした。何故なら、無視されてきた市中感染者数情報こそがどんな対策にとっても不可欠な基本中の基盤情報のはずで、それ無くしては、当然すべての対策が不手際だらけになるでしょう。つまり、不手際の元凶は、専門家会議と厚労省のコロナ感染症に対する検査体制設計の間抜けさであり、それに起因して無論理・非科学・精神論だけの対策しか出てこなかったのは至極当然のことでしょう。そして、その基盤情報欠如には気付きもしないで批判やコメントを繰り出したところで、それらも当然的外れ以外あり得ないことになります。(9月3日総裁選不出馬表明でした。この的外れ批判で実務家肌の首相を辞任に追い込んだ構図は、まるでネットやSNS上での誹謗中傷に似ていませんか?)
そのことを少し論じましょう。少し茶化して、皮肉たっぷりに指摘します。どなたも思い当たるところがおありでしょう。反省材料にして頂きたい。ただ、当然そうした間抜けな専門家たちに、専門家会議や分科会や厚労省コロナ感染症対策を任せた政府が最終責任を負わなければならないでしょう。間抜けさを見抜けなかったのですから。(この点で、批判が的外れであっても、ネット・SNS上の個人に対する誹謗中傷いじめとはシチュエーションが異なります。でもどこか同じ匂いを嗅いでしまいます。)

1.的外れの代表例
政府自治体が無策だとの批判。感染状況情報が把握されていないのですから当然です。
分かりやすい一例です。例えば8月上旬都内市中感染者数40万人に対応しなければならないのに、公表新規感染者数5000人レベルが正しいとして対処を考えても、当然その対策はデタラメなものにならざるを得ないでしょう。だって、例えば療養施設一つとっても、40万人に対しては「野戦病院」の発想は至極当然、しかし5000人レベルに対して「野戦病院」準備なんて発想をすれば、気が狂ったと思われるのではないでしょうか。
つまり、むしろ政府自治体は間抜けな検査体制の犠牲者と言えるのかもしれません。もちろんその間抜けな検査体制を見抜けないで、その間抜けな情報に踊らされた政府自治体が出すとんでもなく間抜けで無責任な対策の被害を被ったのは、哀れな私たち国民ということなのですが。

2.もう一つの観点からの的外れの代表例
正確な情報が開示されるなら、6月25日MRIC Vol.121 ( http://medg.jp/mt/?p=10357 )記載の科学的な対策ができ、緊急事態宣言や休業や時短などや行動制限など全く不必要、それに伴う莫大な税金の無駄遣いも不必要なはずでした。だから、それぞれの事例に対する各種コメントなり批判などは、当然的外れになります。
・昨年3月第一波、都知事のロックダウン発言。感染者少なくても、その言葉で危機意識を覚まされた都民。急激な人流減で感染縮小開始。首相は休校宣言、そして感染縮小開始後、緊急事態宣言でした。
・100人レベルの公表新規感染者数などという情報でなく、仮に都内すでに感染者数1万人などという実感染者数情報が広く開示されていれば、当時きっと都民はそれだけで危機感を持って自主的に自粛的行動抑制しただろうことは、知事のあの発言の効果を見ても想像に難くないと思います。
・つまり検査制限などせず、実際の感染状況を的確に把握し、すべての情報を速やかに公開し、国民と共有することで、私たち国民は自主的・科学的に判断し、最適な行動をとると信じられるでしょう。
きっとお店や企業なども、市中感染者数情報公開により、それぞれが工夫して的確な行動をとるはずです。情報公開すること、そして国民を信じることが一番です。
・的確正確な情報を開示しないままでは、緊急事態宣言や休業や時短などの強制的要請や命令などは無意味、非効率かつ反対に逆効果だと恐れます。やるべきは、MRIC Vol.121に書いた科学的対策であり、市中感染者数情報に対応して、民間自費検査なり無料PCR検査数を増減して、市中(無症状)感染者の特定隔離により感染縮小に努めることのはずです。
(今、せっかく民主主義の資本主義社会に生きています。その特徴を最大限活かすべきでしょう。万民が、ヒトとしてフェアに自由に生きたいとの欲望に従い、自由にそれぞれの工夫を凝らして努力できるからこそ、この社会は最適解に効率よく辿り着けます。どうして全体主義的なロックダウンや緊急事態宣言など統制的発想による要請をするのでしょうか。効率も悪く、かつ国民個々人が当事者意識を無くしてしまいます。「依らしむべし、知らしむべからず」は権力者の思考であり、民主主義に反します。日本で頻発する官僚の情報隠蔽と同じところに根を持っています。すべての情報の迅速・正確な開示こそが、この民主主義社会で一番効率よく対処できる方策のはずです。危惧するのは、フロム著の『自由からの逃走』の轍をまた踏むのかという点です。)

3.その他同類の各種的外れコメントが目白押しでした。実際の市中感染者数の正確な情報の把握開示さえされていれば、と悔やまれます。
3-1.医療逼迫もほとんど起こる必要がなかったでしょう。検査を広範に行い、市中感染者数を正確に把握すれば、その感染者数に対応するマスの療養施設だけで十分対応可能なのですから。
3-2.ゼロコロナ、ウィズコロナと騒ぎ、またそれをたしなめています。
でも彼ら皆、実はこの間抜けな公表新規感染者数情報に踊らされていただけなのです。
3-3.公表新規感染者数情報中の陽性率が20%を超えているから、検査が足りないことを示しているなどとコメントしています。
有症者を積極的に検査する行政検査の陽性率にほとんど意味がないことが分からないのです。重要なのは市中感染率、それを最もよく反映するのが広域モニタリング検査結果、しかもそのいい代替情報が民間自費検査情報のはずです。その陽性率を誰も知ろうとしないのです。実は市中感染率など興味が無いのでしょうか。それなのにコロナ感染拡大と騒ぐ?
3-4.「政府のコロナ対策、特に緊急事態宣言は要請であり強制力がない。欧米のような強制力のある、ロックダウンのような私権制限を法制化すべきだ」とまで騒いでいます。
自分たちの自由をそんなに「お上」に差し出したいのでしょうか。上にも触れた『自由からの逃走』を願うとは、戦争と戦後の歩みから学んでいない証拠です。単に自ら検査制度の間抜けさも見抜けない視野狭窄者ということをさらけ出しているだけなのです。
3-5.人流変化の二週間後くらいに新規感染者数にその効果が顕れてくると、したり顔に議論します。
日本での有症・無症割合やウィルス暴露からの感染可能性の時間経過をどこかで調査したのでしょうか。現検査体制の間抜けさに踊らされてしまっているだけなのかもしれません。
3-6.人流50%減との専門家の要請に対し、まだ人流20%減程度でしかないと報道では自粛警察をします。
人流と感染率の相関を調べたのでしょうか。実際の市中感染者数情報を把握もしないで、どうしてそんなデタラメな50%減などという数字が出て来てしまい、かつそれを要請でき、またそれに盲目的に従えるのでしょうか。
3-7.報道の煽りも全く不必要です。
感染者数が正確に把握され、市中感染率も情報公開されれば、誰も急拡大や保健所逼迫を心配するに至らないはずだからです。
3-8.当然日本医療界の病院体制に対する批判も、不必要です。
マスの療養施設で隔離が効率よく行われれば、どこにも医療逼迫は起こり得なかったはずだからです。
3-9.経済もこんなにひどい被害を受けなかったでしょう。
人々は、正しい情報を公開により共有でき、それに対応する検査体制で感染状況の推移を科学的に判断できます。すると行動の抑制度も自主判断でき、どこにも経済停滞を起こすようなボトルネックなど生む可能性がなくなるのですから。
3-10.他にも、例えば感染症対策か経済かの二者択一的議論はじめ、感染症法2類相当かインフルエンザ並みの5類なのかなど、種々雑多な対策批判やコメントがありました。ところがどれも、公表新規感染者数情報はホンの一部の感染状況情報で、ほとんど間抜けといえる代物であることを指摘しません。また市中感染状況情報を把握しようとしていないことを批判もしないのです。
3-11.ひとつだけ、大変評価するポイントがあります。首相のワクチン接種突貫宣言です。そのおかげでワクチン接種も進み、人々の気持ちに少し余裕が生まれました。

市中感染者数情報のないコロナ感染症対策を喩えてみました:主旋律のない音楽?サッカーボールのないサッカーゲーム?主人公のないドラマ?睛の無い竜?どれも肝心のキモがない。

さて、こんなにいろんな批判コメントが出ているのですから、その根っこの必須アイテムである市中感染状況情報としての民間自費検査数と陽性率などの情報をまず収集公開すべきです。報道もその情報の収集公開に努めるべきです。何故日本では、根本原因除去には後ろ向きで、表面的な現象だけに拘って右往左往するのでしょうか。だからこんなにもひどい各種被害が引き起こされてしまい、それぞれの被害現象個々に対して、上に挙げたようなもろもろの無駄でデタラメな批判やコメントが発せられてしまったのだと思います。とにかくコロナ感染症対策における根本治療を期待します。何はさておき、どの対策にとっても基盤である的確な情報収集公開が待ち望まれます。

そして、これらの出来事で明らかになった唯一の大きな問題点は、政府自治体のみならず、野党も専門家も報道も各種コメンテーターたちも、そして私たち国民までも皆、間抜けな検査体制を見抜けず、その間抜けさに易々としてつきあってしまったことです。戦中の御用学者・御用報道と同じでしょう。誰も“裸の王様”を、権威という衣に惑わされて、裸であることを見ていても見えていない程度だったということなのです。
その元凶は、日本の教育にあるのでしょうか。誰もが義務教育を受けたはずなのに、基本的な原理的思考を身につけてきていないことを示しているのでは、と危惧します。

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