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vol 14 医療の動きから

医療ガバナンス学会 (2004年7月27日 11:21)


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多摩大学大学院客員教授(医師、MBA) 真野俊樹

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医療の動き
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今回は医療の動きというテーマで、医療の大きな方向性をめぐる問題について
考えてみよう。とりあげるテーマは最近論争になる、「国民医療費」「混合診療」
「株式会社による病院経営」「個人情報保護」「医療費の支払い方式」をとりあ
げる。

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国民医療費の問題
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「国民医療費」とは、当該年度内の医療機関等における傷病の治療に要する費用
を足し合わせたものになる。たとえば、平成12年度の国民医療費は 30兆 3583億
円であり、前年度の30兆9337億円に比べ5754億円、1.9%の減少となっている。
国民一人当たりの医療費は 23万9200円であり、前年度の24万4200円に比べ 2.1
%減少した。また国民医療費の国民所得に対する割合は 7.98%(前年度 8.10%)
と減少しているが、これらの結果は介護保険の導入の影響があり、医療費が減少
したためとは言い切れない。実際、平成13年度の国民医療費は 31兆 3234億円で
あり、前年度の30兆3583億円に比べ9651億円、3.2%の増加となっている。また、
国民一人当たりの医療費は 24万6100円であり、前年度の23万9200円に比べ 2.9
%増加している。
図1中の対GDP比の医療費とは上で見た国全体の経済力に対して、医療費割合
がどうなっているかを示す。一見して、日本の対GDP比の医療費が高くないこと
がわかる。むしろいわゆる先進国であるOECD諸国の中では最も低い部類にはいる
といえよう。
一方高齢者が多い国では医療費が高くなることが想像される。同じ図で日本は
2000年の65歳以上人口比率は17.1%とすでにOECD諸国の中では高い部類に入って
いる。実際老人医療費は年率8%あまり増加し、現在の国民医療費30兆円中1
1兆円に達しているのだ。でも医療費の総計は少ない。
したがってマクロでみて日本の医療費が高すぎるとは、この比較からは言えない
のではないか、と思われる。
次に1人1人が使う医療費を見てみたい。ミクロの視点、われわれ個人にとって
はこちらのほうが重要ともいえる。しかし、これは物価の問題などが関連するの
で(経済力があるところは物価が高い)、対GDP比の医療費に比して国ごとを単
純に比較することはできない。
ここでもアメリカが1位であることに変わりはないが、こちらの順位になると日
本もトップ10にはいる。この年間30万円というものが費用あるいは負担なのか
どうかということを考えてみる必要がある。

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混合診療の問題
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日本の健康保険制度では、健康保険でみることができる診療の範囲を限定して
いるので、一部自費診療があると全部自費診療にしなければならない。いいかえ
れば、一部は自費で一部は保険というのは原則できないことになる。これを混合
診療の禁止という(そのルールを外しているのが、特定療養費制度というもので、
特定療養費制度に入っているものは、一部自費・一部保険というのが可能になっ
ている。これは、個室料といったアメニティにかかわるものと、心臓移植や歯科
のインプラント治療のように高度な医療に分けられる(2004年6月で77種認定)。
なぜそのような制度にしているかというと、自費と保険の併用を認めてしまう
と医療費がどんどん上がるかもしれないということと、不正な請求がおこなわれ
るかもしれないからだ。
大阪府医師会の2003年の調査では、混合診療については、治療の選択肢が増える
可能性を示しつつ、高度な医療には高額の負担が必要で、保険診療では一定水準
までの医療しか受けられないと解説したうえで賛否を求めた。「すべて保険診療
で行い、『混合診療』は認めるべきでない」が23.1%、「できる限り保険診療に
すべき」が54.2%で、両者を合わせた77.3%が導入に反対の意向を示した。「お
金がかかっても高度治療が可能でよい」は6.0%、16.6%は「わからない」と答
えた。反対意見は全世代を通して3分の2を超え、60代女性では85.4%に達した。
また、「わからない」との回答は、20代の男女でともに4分の1を超えた。
この論争は、現在もまだ継続中である。たとえば、日経新聞2004年7月22日の記
事では、日本医師会と規制改革・民間開放推進会議との公開論争の様子が書かれ
ている。

参考
真野俊樹 行動目標達成のための「医療の社会性」ポイント60 NEW JMP卒後臨床
研修対応サポートテキストシリーズ  日本医療企画 2004年
日本病院管理学会用語委員会 医療・病院管理用語辞典 ミクス 1997年
真野俊樹 賢い医者のかかりかた 治療費の経済学 講談社α新書 2003年

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株式会社による病院経営の問題
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混合診療に並んで、規制改革の話題になっているものは、株式会社による病院
経営の問題である。病院の経営母体には実に多くのものがある。国立や、市町村
や県による公立、日赤や、済世会、厚生連などの公的、社会保険病院や労災病院、
医療法人立や個人もある(図2)。その中に、1部株式会社立の病院も存在して
いる。この株式会社立病院は最近できたわけではなく、現在株式会社が新たに病
院を経営することは禁じられている。しかしながら、1部では株式会社の方が効
率的に病院を経営することができるとして、株式会社による病院経営を解禁せよ
という主張がある。
最近では、この論争は、二木が指摘するように神学論争となってきている。
ちなみに、株式会社による病院経営には反対の医療関係者が多い。

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個人情報保護の問題
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患者の意識の高まりによって、患者が受身の姿勢から、医師や医療従事者をパー
トナーとしてみる動きが強まってきた。さらに、エンパワーメントという概念も
ひろまってきた。米国のHIPAAは有名だが、日本でも個人情報保護法といういか
めしい名前の法案が2005年4月から始まる。この「個人情報保護に関する法律」
は、個人の権利利益を保護する目的の法律である。これは個人データの保護では
なく個人の保護が目的である。1条にある目的は、「高度情報通信社会の進展に
伴い個人情報の利用が著しく拡大→ 個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権
利利益を保護」と記載されており、基本的に個人の権利を保護するものである。
もちろん、この問題は患者だけでなく、医師や医療関係者にもそのままあてはま
る。たとえば、病院に医師の携帯電話番号が貼ってあることがある。こういった
情報もまさに個人情報である。もちろん、これは勝手に貼っているのではないと
思われるが、こういったことへの組織としての配慮が必要なのが、個人情報保護
法施行以降の状況になるのである。
個人情報保護法自体は、医療について詳しく述べていないので、厚生労働省は医
療に付いての個別法を作るべく検討会をはじめている。
ここで、いくつかの用語の定義をおさらいしておこう。
「個人情報」…生存する個人に関する情報(識別可能情報)
「個人情報データベース等」…個人情報を含む情報の集合物(検索が可能なもの。
一定のマニュアル処理情報を含む)
「個人情報取扱事業者」…個人情報データベース等を事業の用に供している者
(国、地方公共団体等のほか、取り扱う個人情報が少ない等の一定の者を除く)
「個人データ」…個人情報データベース等を構成する個人情報
「保有個人データ」…個人情報取扱事業者が開示、訂正等の権限を有する個人データ

参考
医療安全用語辞典  エルゼビアジャパン 2004年

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医療費の支払い方式
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ここで、少し支払い方式について触れておこう。医療も介護も、保険にせよ税に
せよ、個別のサービス提供には対応しない費用補填と、サービス提供に応じて支
払いを得る方法の二種類に大別できる。前者は、ヨーロッパのように主に公的セ
クターが病院サービスを提供する国々で、患者の受療に応じて獲得する「診療報
酬」ではなく、予算配分方式、つまり病院の収入(および支出予定額)が期の初め
に定まる費用補填方式がとられているケースである。予算配分方式の下では、大
体のところサービス提供ごとに獲得する収入を伴わないか、もしくはきわめてそ
の要素が少ない。もう1つは、イギリスの開業医や、米国プライマリケア医に対
する支払形態の1部として知られる、登録住民人口などに比例する「人頭払い
(capitation)」である。
サービス利用量に対応する方式は、狭義の出来高払いと、包括払いに分けられる。
包括払いとは、利用者ごとに1日とか1ヶ月、あるいは1件当たりに金額が定めら
れる方式を指す。なお、DRGという診断群分類を用いた米国の1部の支払い方式や、
わが国特定機能病院に対し2003年に導入されたDPCの入院1件当たり支払額は、グ
ループ別に見ると診療に要する費用の多寡に対応している。他に療養病床では1
日あたり定額支払いといった方式がある。

参考
田中滋 医療制度の課題 真野俊樹編著「21世紀の医療経営」薬事日報社2003年
アメリカ医療視察団 苦悩する市場原理のアメリカ医療 あけび書房 2001年
真野俊樹 行動目標達成のための「医療の社会性」ポイント60 NEW JMP卒後臨床
研修対応サポートテキストシリーズ  日本医療企画 2004年
李啓充 米国医療の光と影 医学書院 2000年
アメリカ医療の夢と現実 トーマスボーデンハイマー ケビングラムバッハ 訳
:下村健 小林明子 亀田俊忠 西山正徳  社会保険研究所 2000年

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